No.57 準備
アルバートとイレーナの成人式は一週間後に開かれることに決定し、シュティーア・ルセイド両家の人間が揃う昼食の席でそれが宣言された。
アルバートはそれまでに婚約用の首飾りを見繕わなければならないという事になる。当然、妥協はできない。イレーナに似合う、とびきりのモノを選定するつもりだった。幸いにもこのモアルドの町には品揃えの良い宝石店が存在している。
彼はハンクを連れて下見に来ていた。自分ひとりで決めるよりも第三者の意見があればより良いものが見つかるだろうと思ったからだ。オンスは仕事が忙しいらしく来れなかったが、ハンクは丁度時間が空いていたので付き合ってくれることになった。
「これなんてどうでしょう。落ち着いた装飾で品があるし、イレーナにも合っているのでは」
アルバートはシルバーの枠に赤いトパーズのような宝石が嵌め込まれた首飾りを指さす。値段は張るが、土竜討伐で得た報酬も殆ど残っているため払えない額ではなかった。
「いや、レーナだからこそこっちみたいなペンダントも映えるんじゃないか?」
対してハンクが指さしたのは幾何学的に編み込まれたように繊細な金の装飾とその中央に埋め込まれたダイヤモンドをもってザカート教のシンボルを表現した荘厳さ溢れる首飾りだ。これも値段がかなり張るが、アルバートの選んだものより少し高い程度でトパーズのような石がよほど高価な代物なのであろう事が窺えた。
「でも少し派手すぎませんか?」
「婚約用の物なんだからそれくらいでもいいんじゃないかな?それに、いつもシックな服装のレーナだからこそ、このペンダントをつければよく目立つ。まるでまっさらなキャンパスに描かれた女神のようにね。君はレーナが自分の愛する者だと言わずとも主張できるしね」
アルバートは成程一理あるな、とハンクの主張に納得する。
「じゃあ、間をとってこれはどうでしょう」
今度選んだのはハンクが選んだものと同じくザカート教のシンボル──円の中に「Y」と「T」を重ねたようなものであり、「Y」は女性を、「T」は男性を象徴している──を象っており、しかし先程のものと違ってシルバーの装飾と緑に輝く宝石で作られていた。
「それか。それなら、うん。良いね、きっとレーナに似合うだろうしそれなりの存在感もあるね──」
等と二人は妄想の中に存在するイレーナに何度も首飾りをつけては変えて最も相応しいモノを選定してゆく。
◇◆◇◆◇
同じ頃、モアルドの服屋にイレーナとシャルル、アイナの三人が居た。服屋、とは言ってもここは通常のそれとは違う。店に揃えてあるものはドレスのみ。つまりは女性の、しかも上流階級者用の専門店だった。並んであるのはどれも豪華絢爛なものばかりである。
「レーナはやっぱり黒かしら」
「いやいや、やっぱりドレスは明るい色の方が良いに決まってるわよ」
「シャルルの好きなような子供っぽい服は少し違うと思うわ。やっぱりこっちよ」
「誰が子供っぽいのよぉ!アイナちゃんだっていっつも黒、黒、黒。黒ばっかり!もっと彩りを持たせなきゃ」
「藍色の服も着てるわよ」
「たまにじゃない!」
「...あの、お客さま......」
なぜここに居るのかと言われれば、元はシャルルが「着飾るならまずはドレスからよね!」と言ったからである。
しかし、店に入った途端にシャルルとアイナはこの様に服選びに熱が入ってしまい二人で言い争いまで始めてしまう始末。置いてけぼりにされたイレーナと店員はかける言葉も見つからずにどうしようもなくなっている。
イレーナは、仕方なく二人をそのまま放っておくことにして店内を見て回る。どれも個性的で豪華なドレスばかりであり、千差万別、同じものが一切無いことから全ての商品が手作りの一点物である事が分かる。
ひとつひとつがどれも素晴らしい出来栄えのドレス達に囲まれ、目まぐるしささえ覚える中で、ふとイレーナの目に留まるものがあった。
「これは......!」
それを見た瞬間、彼女はなにかに突き飛ばされたように急いでまだ言い争っているシャルル・アイナの元に行き、言った。
「お母様、シャルル様っ!私、あれがいいです!」
珍しく声を荒らげて、いや興奮した様子で彼女は後ろの方を指差す。
そこには、ある一着のドレスがひっそりと置かれていた。




