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No.56 始動

「成人式?」

 極西のモアルド町内北部、隣り合わせに並ぶ邸宅の一つ、シュティーア家の書斎に三人の男が机を囲んでいた。

 三人とも、白く輝く髪と深く青い目をしている。その中の一人、アルバートの問いに彼の正面に座るハンクが答えた。

「ああ、君とレーナの成人は2ヶ月後、もうすぐだ。けどここに滞在できるのは後だろう?だから二人がここにいる間に祝っておきたいんだ」

 アルバートはハンクの回答に「なるほど」と納得する。確かに子の成人を直接祝いたいというのは至極当然な事だろう。しかし、同時に疑問もあった。

「...それを何故わざわざ三人きりになって言う必要があるんです?」

 彼の問いは至極当然なもので、先ほどイレーナと彼が一緒にいた時に言えば良かったはずであった。この質問には、三人のうちの最後の一人、オンスが答える。

「それがお前を呼んだ本題なんだが、その時にイレーナちゃんにサプライズをしないか?」

「サプライズ?」

 アルバートはオンスの含みのある言い方が気になり聞き返した。

「おう、お前はイレーナちゃんと付き合っているだろう?だったら成人の次にするのは結婚じゃないか。でもその前にしなくちゃならないことがある」

 結婚、その言葉を聞いた瞬間にアルバートはとうとう理解した。サプライズ、そして結婚といえばやはり...

「プロポーズですか」

「その通り」

 アルバートは、よくよく考えればそれは当然すべき事だと思い、これまでしていなかった自分を責めた。

 彼は幼少の頃にイレーナと出会い、再開した時一度それと似たような事をしていた。が、それは口上のみの話でありそれを約束する「もの」を渡していない。

 要するに「婚約指輪」だ。

 勿論のこと、この世界にもそれは存在する──もっとも、このマーリア国では指輪を渡すのは結婚する時であり、婚約を申し込む時には首飾りや自分が長年愛用している物を渡すのがしきたりとなっているので、アルバートもそれにならって首飾りを贈る事になるだろうが──


 少し間を置いて、ハンクが言った。

「アイナに似て、いやそれ以上に澄ました子だからな、僕も驚いた顔や満面の笑みだとか泣いているところ、大笑いしているところを見たことが無いんだ。でも君には相当気を許しているのは知っているし、僕にも君への恋情、愛情が見えるように分かるし、そんな君からプロポーズなんてされたらきっとレーナも驚いて喜ぶと思うんだ、それこそ見たこともないような満面の笑みでね。どうかな?」

 アルバートは頭の中でハンクの言うような場面を想像してみる。

 ──成人の祝の席でも凛とした態度を崩さずに澄ましており、良くてかすかな微笑のイレーナ、しかしそれでもあの美貌で優しく微笑みかけられればどんな男でもたちまち彼女の持つ大人の魅力に虜にされてしまうだろう。しかしそこでプロポーズされ首飾りを突然渡されて驚愕するイレーナと、その後状況を理解して向日葵のように眩く年並みに喜ぶイレーナを想像する──それはアルバートにとって二度の人生を踏まえても経験したことのない最大のときめきと幸福をもたらすだろう事は明白であった。

 よって彼は即答する。


「是非宜しくお願いします」


 しかし、実のところオンスとハンクがアルバートに伝えた事は彼らの企みの半分に過ぎない。ハンクは計画が順調に進んでいる事に思わず口角が上がりそうになるのを堪えて、どんな首飾りを買おうか考えているアルバートに気付かれないようにする。

 アルバートは、当然気付いていなかった。



     ◇◆◇◆◇



時を同じく、シュティーア邸の客室では三人のエルフが机を囲んで椅子に座っていた。そこに居るのはアルバート・オンス・ハンクではない。全員女性である。

 メイドのセシリアが紅茶を運んで来た。カップに注がれた淹れたての紅茶を一口啜ってからイレーナは呟いた。

「...成人式、ですか」

 誰に言った訳でもないその独白に、彼女と向かい合って座るシャルルが答える。

「そう、その時に素敵なドレスで着飾るの」

 シャルルは、オンスとハンクがアルバートに伝えたのと同じくイレーナに成人式を開こうとしている旨を伝えた。その上で、これはアルバートとは違うが「とびっきりのおめかしをしてアル君を驚かせてみたくない?」と提案されたのだ。

 しかし、イレーナはあまり乗り気ではなかった。

 何故なら、彼女は前世から仕事(というよりは任務が正しいか)一筋でお洒落には疎く、今世でも運動する関係で動きにくいドレスなどを好まず、王都では基本制服であったため自分を着飾るという事をまずしなかった。

 せいぜい、幼い頃母のアイナに人形のように着せ替えて遊ばれたくらいだ。

「いつも通りでは駄目なのでしょうか?」

 故に、彼女はドレスなどの動きが制限される服装を好まず、自由に動けて邪魔にならない、機能性に長けたものばかり着ている。今もそうだ。スカートは履かずにカーゴパンツのような太ももの位置にポケットのあるズボンを履き、上はすこし余裕のある白いシャツだ。色合いも落ち着いたシンプルなものである。

 その格好でもどこか大人の色気があり十分に魅力的なのだが、それを見たシャルルの隣に座るアイナは言った。

「レーナ、貴女が王都に、学園にいた時に、綺麗な娘はいなかった?お洒落に敏感で、私服がパーティに行くみたいに華美な衣装の娘が」

 イレーナはすぐにアンリやリーフェを思い出した。

 彼女らは休日等はドレスを身に纏い、出かける時も制服ではなくそういった格好であった。

「ええ、いましたが」

 イレーナが、それがどうしたとでも言いたげに返答すると、アイナがやれやれと呆れたように言う。

「レーナ、よく聴きなさい。男は綺麗な女が好きなのよ、顔や性格だけじゃなくてお洒落もそうよ。貴女は顔は良いしアルバート君とは愛し合ってるのも分かるけど、やっぱりお洒落もしないと勿体ないでしょう。ドレスを着て、彼をもっと虜にしたいと思わないの?」

 アイナの言うことはもっともだ。女は綺麗であることに価値があるというのも否定出来ない。頭では分かっているが、どうしてもやっぱりこれまでの人生からお洒落というものには気が引けていた。

 見かねたアイナは、彼女に止めの一言を冷たく言い放つ。

「──でないと、いつか他の女に取られるかもしれないわよ。それこそ、容姿や服装で彼を誘惑してね」

 イレーナは、そう言われてふと想像してしまう。アイナのような容姿端麗の女やシャルルのような豊満な女が淫らな服に身を包みアルバートを誘惑する姿を。アルバートに限ってそんなものに惑わされるはずが無いのだが、それでも想像するものはしてしまう。

 胸が締め付けられるような感覚に陥り、背中が熱くなる。それは、どうしても嫌だった。ありもしない妄想の光景に嫉妬の炎をギラつかせたイレーナはとうとう承諾した。


「お母様、シャルル様。どうか私を一人前の女にしてください」


 そう誘導したからとはいえ、珍しく年相応の反応をする彼女が愛らしくて母と義母(予定)は腕によりをかけて最高のイレーナ・シュティーアを作り上げてやろうと思った。


 そう、イレーナ・シュティーアを。

レーナの描写が少ないという意見を頂いておりましたが、今回からは増えてくる予定であります。

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