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No.54 帰郷

 アルバート達の学園生活はその後大きな問題もなく平穏に流れていった。

 問題以外で言えば何も無かった訳ではない。

 例えば、シャルゴが王族近衛騎士団に入団したり、2、3年時で再び行われた(と言うよりは恒例と化した)決闘大会が特待生組 対 他生徒の闘いの場となったり、アルバートとイレーナの二人が新しい魔法や魔法具を開発したり、その影響で二人共に特別首席されたり等、話題に飽きない学園生活が送られた。


 因みに、あれだけの騒ぎの火種となったサドンは名目上「決闘の決着後に背後から攻撃を加えた」として一週間の停学処分をされるに至った。しかし、停学中に両親(以前述べたように平等主義者の政府大臣である)から大層叱られたようで、復学後は心を一新して真面目な生徒として勉学に励んでいたため元から生真面目であったガルムとも打ち解けてそのうち仲良くなっていった。


 アルバートの学年は彼とイレーナを筆頭に、特待生の他3人やその他の生徒が目覚しい成長を遂げ(原因としてはアルバート達が行っていた早朝の訓練を真似する者が増えた事が挙げられるだろう)、一部ではアルバート達の学年を「黄金の豊作世代」とまで呼んだほどだ。


 そんな彼らも遂に卒業を迎えた。


 学園で生活する生徒の殆どは在学中に成人となる(例外として成人以降に入学した者が居る。アルバートとイレーナの様に、いわゆる『飛び級』で入学する者はまず居ないのだ)。しかし、成人してもその時に成人式を開かず、卒業直後に合同で成人式を開催するのがこの学園の伝統であった。

 今年も成人式は行われた。しかし、規定年齢前に入学したアルバートとイレーナはまだ成人を迎えておらず、成人はまだあと3ヶ月先だったのだ。

 それでも、学年筆頭である二人には参加してほしいとの事であったから参加した。式は賑やかなもので学園長のウォーデンの音頭の元で生徒達が一斉に酒(二人は紅茶であった)を一口煽り、初めて踏み入れる大人の世界に困惑していた。

 初めて飲んだ酒の味に、ガルムは「思ったより苦いね」と、アンリは「もっと美味しいものと思っていましたわ」と、リーフェは「そう?私は結構いけるなー」と、それぞれ感想を漏らした。対してアルバートとイレーナは過去の古い記憶を呼び起こして、ああそう言えば前世で成人したばかりの時は似た感覚だったなぁ、と懐古心をくすぐられた。


 成人式が済んでしまうと、いよいよもって学生としての生活は終わりを告げる。寮の部屋からは私物が片付けられ、人が住んだ面影は無くなってしまう。寮の元持ち主エルゲイは「またここも寂しくなりますなぁ...」と心底残念そうであった。


 結局、アルバート達の今後はどうするのかと言うと、なんと見事に特待生組の5人全員が王族近衛騎士団へ入団する事になっている。

 勿論、全員ピトムニクに推薦状を書いてもらった。約束は約束である。


 入団までには結構な時間があった。入団する前に帰省する為らしいので、アルバートとイレーナは両親達の住む故郷『極西のモアルド』へ一度帰郷する事にした。

 両親と会うのは実に3年ぶりで、これまで手紙でのやり取りは多々あったが、それでも久々の再会には心が踊っていた。


「あれ、おやっさん!」

 帰省の旅路を共にしてくれる御者は奇遇にも3年前王都に向かった時と同じ男であった。

「ああ、坊ちゃん方!お久しぶりですな!そうか、今回の仕事は坊ちゃん方の送迎か、こりゃあ安心だ、盗賊も竜も怖くないわい!」

 男は以前と同じ快活な様子で3人は旅のあいだ思い出話で会話を弾ませた。今回の旅は3人だけである。

 そんな旅も以前のようにアクシデントに見舞われることなく、平穏にモアルドに到着した。

 馬車を屋敷の前に止めると、中から人が出てくる。アルバートの両親達だ。

「アル、お帰り!!」

「ただいま──」

 彼らの帰省は、盛大な祝賀会をもって迎え入れられた。

 祝賀会は卒業と近衛騎士団への入団を祝うもので、身内だけだがその分遠慮なく騒ぐ事が出来た。──もっとも、騒いでいたのは主に両親達であったが。

 祝賀会で話題になった事といえば、やはり土竜の討伐や、神様から力を賦与された事や学園生活の話などであったが、アルバートはかねてより気になっていた事を聞いた。

「父さん、6ヵ年戦争の話を聞かせてくださいよ!」

 6ヵ年戦争、ピトムニクや本で知ったこの戦争はオンスらが深く関わったものだと言うのは既に知っていた。だからオンス本人からその話を聞きたかったのだ。

「はっはっは!もうそんな事まで知っているのか!ピトムニクめ、言いよったな!」

 オンスは既に酒も効いて赤く染まった顔に満面の笑みを携えて豪快に笑う。そして「良いとも、よぉく聞いておけよ!」と言って席を立つ。

 アルバートこんなにも子供っぽいオンスを見たのは初めてだった。

「時は遡ること200年前!」

「わあ、懐かしい!」

 シャルルも酒が回っていて機嫌が良さそうだ。勿論、アルバートとイレーナは飲んでいない。

「この極西のモアルドから更に北西にある砦があった!」

「要塞アラモ砦!」

「その通り!」

 今度はイレーナの父、ハンクが合いの手を打つ。対して母のアイナはやれやれと言った顔で、どうやらこの両親エルフ4人組の中で酒に呑まれないのは彼女だけらしかった。

「当時そこには近衛騎士団からの派遣でこのハンクとアイナの二人がいた──何で行ったんだったか?」

「地方兵士の教育訓練よ」

「そうだったな──まあ、そんな時だ!王都にいた俺の元に伝令が、死に物狂いの様子で転がり込んできた。聞けばアラモ砦に帝国軍が大群で攻め込んで来たらしい!

 当時の陛下はお止めになったが俺は構わずシャルルを連れて二人でアラモに馬を走らせた。1ヶ月かかる道のりを夜も休まず走らせ続け10日でたどり着いた時、そこにはなんと未だ帝国兵と闘う砦の兵と二人の姿があった!」

「お前達が来るまでは地獄のようだったぞ!」

「そう、まさに地獄!砦の兵が300だったのに対して帝国は2千近い兵を率いていた!俺たちが着くまで持ちこたえられたのは、ひとえに二人の力あってこそだ。

 しかし!既にもう食糧は尽きかけ、兵の疲労も限界に近かった、時間はなかった。そこで俺は遊撃隊を編成して一転攻勢、敵の大将首を狙いに行った!」

「たった4人で部隊とはよく言ったものだ」

 等と、途中からはアルバートとイレーナを置き去りにして思い出話を楽しんでいた。

 まあ、それも両親達の知らなかった一面ということで、アルバートは面白く感じていた。

 楽しい時間と言うのはいつもあっという間に過ぎてゆく。

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