No.53 決意
アルバートが会食をした部屋に戻ると、まだ近衛騎士団の話が続いていたが今はアンリにピトムニクが質問攻めされていた。
リーフェはアンリの隣で楽しそうに話を聞いていたが、イレーナは話の輪には入らずに静かに座っていた。
アルバートはイレーナの隣に座る。
「上手くいきましたか?」
イレーナが訊ねてきた。
「ああ、何とかね。全く、不憫な親子だよ」
「...ええ、本当に」
二人は顔を見合わせると、クスリと失笑した。
これで、目下最大の問題であったガルムと王家の関係も良い方向に向かっていくだろう。
アルバートは、親友の手助けが出来た事が嬉しかった。
一つ伸びをして、姦しいアンリ達に混ざりにいく。イレーナも付いてきた。
「──では、どうか私の推薦状も出して頂けません!?私、卒業したらきっとお役に立って見せますわ!」
「...あ、ああ。アンリ君の実力は今日見せてもらったし、騎士団に是非欲しい人材だが推薦状は別に今でなくとも──」
「本当ですの!?嬉しいですわ!!リーフェっ、私あのピトムニク様に認められてしまいましたわ!」
「良かったね〜。...あ、そうだ!ピトムニクさん、私もアンリと引き分けたんだから是非、推薦状書いて下さいね?」
「あ、ああ...」
どうやら、王族近衛騎士団団長様は女性の押しには弱いらしい。
そんな光景を見ながらアルバートはガルムの事をふと考えた。
ガルムはきっと王家に戻ることになるだろう。ならば近衛騎士団に入って彼の護衛となるのも悪くはない。
「なら、僕にも書いて下さいよ?」
「私もお願いします」
「分かった、分かったからッ!!」
アルバートたちがそんなやりとりをしていると、部屋の扉が勢いよく開いた。
入ってきたのはガルムだけで、ユーク王やオーシア王妃の姿は見当たらない。
ガルムは意気揚々とした様子で「皆っ!」とアルバート達に呼びかけて言う。
「僕、近衛騎士になる!!」
「「ええっ!?」」
驚いたのはアルバートとピトムニクだけだった。
その二人はガルムの側に行き、三人で輪を作って声を小さくし、話し始める。
「ガルム殿下、どういう事です!?」
「殿下なんてそんな」
「いえ、貴方様はれっきとした王家の一員に戻られる...先程陛下とお話になられた筈でしょう...?」
「そうだ、ガルム。僕も君が再び王家に戻るものと思っていたんだが......」
「まさか、僕は今のままでいいよ。父さんも認めてくれたしね」
ガルムは「それに」と続ける。
「近衛騎士になれば今の立場のまま父さん達と一緒に居られるでしょ?僕、アルバート君みたいに強くなりたいんだ」
ガルムの言葉にアルバートは己の勝手な愚考を反省した。
誰が、彼が王家に戻ると決めつけて良いだろうか。彼の事は彼自身が決めること、ならば成程、強くなりたいというのは彼らしい言葉だ。
アルバートは「そうか」と呟いて言う。
「強くなったな、ガルム」
「...うん、ありがとう。アルバート君」
ガルムは嬉しそうに微笑をこぼしながら返事をした。
二人の会話を聞いてピトムニクも納得したようで「殿下がそう仰るのであれば...」と認めたが、またもガルムにその呼び方はやめてくれと言われていた。
ピトムニクにとってガルムは生まれた時から知る王家の一人という認識であるから呼び方は仕方ない。
「どうしましたの。そんなにコソコソと」
とうとう不審がってアンリが訊ねてきた。
「いや、何でもないよ。二人にはいつか言うつもりだったんだ」
ガルムがはきはきとした口調で返事をする。
アルバートは、ああこれが彼の本当の姿なのか、と思った。
「僕、本当は────」
◇◆◇◆◇
「────聞、い、て、ませんわぁ!!」
「言われて無かったもんねぇ」
エルゲイ荘の広間でアンリが憤り、リーフェは半ば呆れたように返事をする。
「大体、アルバート達も知っていたのなら言って下されば良かったのに!!」
彼女の不満の理由は言うまでもなくガルムの事だ。
アンリは自分だけがガルムと王家の件で蚊帳の外であったのが悔しかった。少なくとも自分は友人であり仲間だと思っていたガルムに信頼されていないのかと思えたからだ。
当のガルムは、先程までの威勢はどこへやら、見るからにしゅんとして縮こまっている。
彼の言い分は「だって、言えば態度が変わりそうだったから」だ。
正直アルバートもそれには同意見であった。特に以前から近衛騎士団への憧れが強かったアンリはガルムが王家と知った途端に態度を変えそうではあった。
しかし、それも「入学当初は」の話で今なら大丈夫だと思ったからガルムは打ち明けた訳だが...
「納得できませんわぁ〜!!」
アンリは1日中不貞腐れていた。




