No.51 親子
大会も無事幕を閉じ、アルバート達特待生の5人は王城に招かれて会食の席についていた。
主催はユーク王、名目上は『生徒代表との交流会』が目的となっている。
「────アルバート殿やイレーナ殿と会うのはこれで二回目になるが、他の、三人...は、初めましてになるかな?」
ユーク王は、以前アルバートと会食をした時とは違う、『表の口調』で言う。
言われた三人は簡単な自己紹介をした。
「お初お目にかかります。エリオット家の長女、アンリで御座いますわ」
「リーフェ・フリードマンです」
「ガルム、です...」
ガルムは表向きは平民で、ユーク王とは一切関係の無い人物とされている。
例え、本当は血の繋がった親子であったとしても、今は他人として振る舞わなければならないのだ。
事情を知っているアルバートとイレーナにはそれが骨身に堪える程に辛く思え、いたたまれない気持ちにさせられる。
「────リーフェ殿の御令兄シャルゴ殿であったな。彼は近衛騎士を目指しているそうではないか。期待していると伝えておいてくれ」
「は、はいっ。兄も喜ぶと思います!」
会食は、このような世間話や差し障りのない会話で進んでいった。
そんな会食も最後のデザートを食べ終え、遂にユーク王とガルムの会話が無いままに終わりを迎える。
「では、会食もこれまでにしよう。諸君、楽しかったぞ」
ユーク王の締めくくりの挨拶が終わると、部屋の壁際に控えていたピトムニクが近寄り、耳打ちをする。
「陛下......」「...うむ、分かっておる」
アルバートには詳しく聞き取れなかったが、ガルムの事を話しているに違いないと、ピトムニクの表情で察した。
「アルバート君、少し来てもらえるか」
しかし、意外にも、声をかけられたのはガルムではなくアルバートの方であった。
◇◆◇◆◇
ユーク王は、ピトムニクと他の賓客(アルバートを除く4人)を部屋に残してアルバートと二人で廊下を歩いていた。
「アルバート君、今日のガルムの戦いは、しかと見させて貰ったよ。あの気弱だったガルムがあんなにも勇ましく...君には感謝してもしきれん」
「...いいえ、陛下。私は彼の手助けをしただけに過ぎません。今回の結果は、彼が努力したからこそのものであります」
アルバートはユーク王の斜め後ろを歩きながら返事をする。
彼は更に、付け加えた。
「...お言葉ですが陛下、どうかその言葉はガルムに直接仰って下さい。彼もきっと喜ぶでしょう」
アルバートの言葉に、ユーク王は苦笑を浮かべ、視線を落とす。
「...同じ事を今さっきピトムニクにも言われてしまったよ。どうやら、私は王であることよりも父であることの方が怖いらしい。...そもそも、私などがガルムの父として相応しいのかどうかさえも自信が──」
アルバートは、この、目の前を歩く老人がやはりガルムの父親なのだと実感した。
この、肝心な所で弱気になってしまうのはガルムと同じだったからだ。
こういう時は、誰かがきっちりと後押ししなければならないとも感じた。
「陛下!彼は、ガルムは貴方の愛すべき家族なのです!親に認められて嬉しくない息子などおりません!!」
「──ッ!!」
アルバートの言葉にユーク王は思わず歩みを止め、振り返る。
そしてアルバートの眼を見つめ、ポツリと言った。
「......君の言う通りだな。全く...」
ユーク王は気を取り直し、また歩き出す。
「もう少し、付いて来てくれ。君に紹介したい人がいる」
アルバートは言われるがままについて行った。
「──ここだ」
着いた場所はやけに豪華に作られた扉の前だった。ユーク王はその扉を何度かノックし、押し開ける。
部屋の中では一人の女性が椅子に座って窓の外を眺めていた。
「私の妻のオーシアだ」
ユーク王の妻、つまりは王妃である。
アルバートはそれをすぐさま理解し、敬礼した。
「お初お目にかかります。アルバート・シュティーアと申します」
オーシア王妃はアルバートの名前を聞いた途端に、ぱあっと表情を明るくさせる。
「ああっ、貴方があの子のご師匠様ですね?お話は聞いております。本当に、ありがとう」
「いえ、私はただ彼の手助けをしただけで──」
「ご謙遜はよしてくださいな。本当に感謝しているんです」
ニコニコと微笑むオーシア王妃を流し目に見て、ユーク王はアルバートに言った。
「アルバート君、どうかここにガルムを連れてきてくれないか?
恥ずかしながら、これだけ老いぼれてもそれだけの度胸がつかなかったようでな、手の震えが収まらんのだ」
ユーク王はそう言って、右手を左手で抑えながら持ち上げる。アルバートにも、微かに手が震えているのが分かった。
「分かりました。すぐにお連れします」
勿論、アルバートは快諾した。




