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No.49 ガルム


     ◇◆◇◆◇



 直径約20m程の円になっている闘技場を囲むようにして大勢の観客が(たむろ)している。

 その一角に3人の少年少女が座っていた。うち2人は白髪が特徴的なエルフの男女。そしてもう1人は黒髪で人間族の少年。

 エルフの2人、アルバートとイレーナは格技場の中心で魔法の攻防を繰り広げる決闘者を観戦しているが、人間族の少年、ガルムは膝の上に乗せた拳をギュッと握りしめて俯いたままである。

 ガルムはもうすぐこの格技場の中心に立ち、因縁のある人物と勝負しなくてはならない。いや、それ自体はガルムが自分から望んで、臨むのであるのだが、なにせ相手が相手であった。

 根性の図太い方ではないガルムはまだ、心に見え隠れする緊張や不安が拭えずにいる。


 アルバートがガルムの方をちらりと見て彼の心境を察した。そして周りに聞こえないよう囁いく。

「ガルム。己を信じ、練習の成果を見せるだけだ。勝つ負けるは重要じゃない」

 アルバートは気弱だったガルムをこの1ヶ月間鍛え続けた師範だ。彼の言葉は深々とガルムの心に刺さる。

 ずっと拳を見つめていたガルムが顔を上げてアルバートの方を向いた。

「...はいッ!」

 彼は先程までの不安そうな素振りを消し去り自信に満ち溢れた双眸をアルバートに向ける。

 アルバートは彼なら必ず成し遂げるだろうと確信した。何故なら師範であるアルバートは、1ヶ月の訓練を通して彼の素質を感じ取っているからだ。

 ガルムは入学してからこれまで「才能のない平民」として見られている。そして「それなのに何故か特待生になっている謎の人物」としても。

 それらの評価はきっと今日の一戦で覆されるだろう。

 そう感じているのはアルバートだけではなかった。

「ガルム、貴方なら必ず出来ます。必ず」

 アルバートの横に座るイレーナも彼の実力を、いや内に秘める本当の力を感じていた。

 いや、この2人だけではない。ガルムの1ヶ月の努力をその間近で見てきた他の特待生2人、アンリやリーフェも同感であった。

「そうですわ、ガルム。貴方なら出来ますとも」

「頑張れ、ガルム君!」

 アンリとリーフェが彼の後ろから声をかける。

「2人共、意識が戻ったのですね」

 この2人は先程、この格技場で決闘し相討ちとなって双方倒れたのだったが、2人の様子を見るとどうやら大丈夫そうであった。

「ええ、シャルゴ様のご報告でもうすぐガルムの試合が始まると言っていたので急いで戻って参りましたわ」

「でもお兄ちゃんは他の患者の治癒を手伝うって言ってまだ医務室に残ってるよ」

「そうか」

 2人はアルバート達の後ろの席に並んで座り、ガルムを見つめる。

「対戦相手のサドン・オークスは番号8番の実力者ですわ」

 この学園では入学試験の成績に応じて番号がつけられている。つまり、この学園で番号8番を持つサドンという男は生半可な実力ではない。

 加えていえば、この学園は毎年500人以上の試験者から選ばれた100名の生徒で学年を構成する。学年上位10%、試験脱落者の分も含めれば上位2%の中に入る指折り。

 対してガルムの方は殆ど筆記の成績だけで合格し、あまつさえ家庭の事情で特待生にまで持ち上げられた「見せかけの20番」。彼の巻き起こす下克上を信じるのは特待生仲間の4人と、あと2人のみであった。


 その2人はと言うと、1人は校長のウォーデン。

 そしてもう1人が、ユーク王である。

 ユーク王はガルムの実の父親だ。ガルムの事は人一倍に想っている。

 しかし、それを表に出して言えない現状が彼の心を締め上げる。

 アルバートは、そんな特別席に座るユーク王を遠目からじっと見つめた。


『...今大会もいよいよ大詰め、最後の試合となります!』

 司会者の声がまた鳴り響いた。

『まずは学年上位の8番、サドン・オークスッ!!

 相対するは平民出身の特待生、ガァァルムゥ!』


 平民出身、その言葉を聞いて観客の何割かが鼻で笑うのをアルバート達は感じた。

 平民という肩書きだけで階級制社会の上位君臨者の一部は見下し、馬鹿にし、(あざけ)る。

 それはもう、前世でも同じ、世界の常だ。それは仕方ない、とアルバートは思案する。彼にとって重要なのはこの状況をどう変えるかだ。その為の場所が今まさに此処(ここ)である。

 しかし、この現実を目の当たりにして絶句する者もいた。

 アンリ・エリオットとユーク王だ。

「......いけ好きませんわ」

 アンリはポツリと呟き、そしてガルムを後ろからビシッと叩いて言った。

「ガルムッ!!絶対に負けるんじゃありませんわよ!」

「う、うん!」


 そして、ユーク王の方は自分の息子であるガルムをコケにされて心が引き裂かれるような苦渋に(さいな)まれていた。

 出来ることであれば、今すぐにでもガルムが自身の息子であると叫びたかった。

 出来ることであれば、今すぐにでもガルムの傍に行って励ましの言葉をかけたかった。

 だが、王としての立場がそれらの感情を押さえ込んでいた。


 さて、そのガルムは席を立ち、闘技場の中心へと向かうところだった。

 アルバートが一言、彼に激励の言葉を投げかける。

「ガルム、行ってこいッ!!」

「はいッ!!」

 己の師範の声に押され、ガルムは今戦場に立った。

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