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No.47 アンリ対リーフェ

『しゅ、瞬殺ぅうううッ!!』

 司会者の困惑混じりの声が会場内を駆け巡った。同時に観客も席を立って拍手喝采を送ってきた。僕が見つめる先には格技場のど真ん中で大の字になって倒れているシャルゴがいた。


 僕は彼に歩み寄って回復魔法をかけようとするが、シャルゴがその手を掴んで払い除ける。

「...完敗だ、アルバート君。果てしない力の差を感じたよ」

 シャルゴは意識があったらしい。てっきり気絶しているものかと思っていたが、タフな男だ。

「自分の傷は自分で治す。これが俺の信条なんだ...少なくとも俺に意識がある間はね」

 彼はそう言って立ち上がろうとしたが、まだ身体の動きが鈍いようだ。

 僕は彼に手をかして起き上がるのを手伝った。

「...次やる時はもっと強くなって来よう。俺は諦めが悪いことで有名なんだ」

「いつでもお相手しますよ。先輩」

「ああ、また宜しく頼む」


 握った彼の手は、魔術士には珍しいマメの出来た硬い手だった。



     ◇◆◇◆◇



『......大会も後半戦へと入ってまいりました。続きましては!これまた噂の二人!

 名家エリオット家出身、その非凡な才能は幼少期からその名を知らしめた!アンリ・エリオットォオ!!

 相対するはこれまた名家出身。獣人族の名門フリードマン家の次女、リーフェ・フリードマンッ!!』

 司会者の紹介と共に二人の少女が闘技場に入場した。

 片や闘志が見えんばかりに(たぎ)りを見せている金髪の人間族。

 片や至極楽しそうに満面の笑みを携えた獣耳で茶髪の獣人族。

 二人は中心まで来ると決められた線の前で立ち止まり相手の顔から目を離すまいと睨み合う。


 二人と共に生活し、共に訓練をしてきた僕やイレーナやガルムはこの二人がとても仲の良い親友である事を知っている。だが、こと勝負においては二人の中に容赦は存在しない。

 訓練の時もそうだった。何かしらの勝負になるといつも二人は張り合い、全力で競争する。


 得意な事に違いはあれど、魔術において二人の能力は拮抗している。勝負も、どちらが勝つか予想できない。

 アンリはシャルゴと似て、どっしりと構えたまま動かずに真っ向から戦う傾向がある。

 逆にリーフェはフットワークの軽い戦い方で相手を翻弄するのが得意だ。

 二人の戦いは、丁度噛み合ったものになるのではないだろうか?


『では両者向かい合って...』

 司会者が開始の合図を始める。

 アンリは闘志を燃やしながらリーフェを睨みつける。

 リーフェはその楽しげな笑みを野生の獣のような、乱暴なニヤつきに変えてアンリに応える。


 今日何度目かになる沈黙が、張り詰めた空気が孕む殺気のようなナニカを露見させていた。


『始めッ!!!』


 やはりと言うべきか、最初に動き出したのは茶色の獣耳。得意の身体能力を生かして左へ右へと動き、アンリの狙いが定まらないように接近する。

 しかし、金色の長髪が揺れることは無い。ただジッとその場を動かずにリーフェを迎撃する。

 リーフェがアンリを中心として時計回りを始めた。

 これは...いつかの模擬戦闘で見た、光属性の...

「させませんわ!」

 アンリは右手をリーフェの進行方向にかざし、炎の弾丸を放った。しかもそう、無詠唱である。アンリはこの1、2週間の間に(得意な火属性の一部の魔法のみであるが)無詠唱を出来るようになっていた。

「おっとと」

 リーフェは炎の弾丸を華麗なバックステップで回避し、立ち止まった。

 僕の魔眼が捉えていた見えない『光の縄』が霧散する。

「バインド・サークルは見飽きましたわよ?」

 アンリに言われてリーフェはニヤリと笑った。

「バレちゃったか」

 とん、とん、と左右上下に軽やかなステップを踏むリーフェとは対象に、開始地点から殆ど動いていないアンリ。戦い方は正反対でありながらも、やはり予想通り戦況は互角であるように思える。


「今度は、こちらからですわ」

 アンリが一節のみの短い詠唱を何度も連ねる。多種多様な魔法がリーフェに襲いかかった。炎、氷柱、岩、鎌鼬...地面を抉り、壁を焦がし、リーフェの服を浅く斬り、確実に彼女を追い詰める。まるで狩りだ。

 はたから見ればリーフェは防戦一方、戦況がアンリに傾いて見える。


 だが、

「バンっ!」

 リーフェの一言で、視界が白に染まった。彼女が得意とする光属性の、初級魔法『閃光(フラッシュ)』だ。その光は会場全体を襲い、観客席からは悲鳴が上がった。

『うわッ!眩しくて何も見えませんッ!』

 実況の声も唸り声をあげた。

 普通なら周囲をぼんやり照らす程度の初級魔法も、魔力の出力を上げれば強烈な攻撃魔法へと変貌する。

 無詠唱の、前兆なしに襲いかかる光速の攻撃など回避不能。

 僕やイレーナは魔眼で魔法の前兆を確認し、腕で目を覆ったが、これを防げるのは魔眼で魔素を認識できるエルフくらい、アンリは近距離でまともに食らって行動不能......のハズだった。


「効きませんわ!」

「あら!?」


 なんと、アンリは対応した。

 僕やイレーナと同じく手で目を覆って防いだのだ。しかしどうやって?


「貴女の戦い方など知り尽くしてましてよ!」

 また炎弾を放ちながら、アンリは今日初めての笑みをその顔に浮かべた。

「シィィッ!」

 対してリーフェの方は先程までの笑みを消し、なんとか横に跳んで炎弾を避けた。

 彼女の顔をかすめた炎弾が髪をチリチリと焦がす。

「まだまだぁッ!!」

 しかし彼女は怯まず、前進する。

 5m、4m、3m。二人は互いに攻撃を避け、相殺しながらとうとう手の届く距離まで近づいた。


「「ッーー!!」」


 瞬間。

『光の矢』がアンリの足を貫き、

『炎の弾丸』がリーフェを吹き飛ばした。


『...だんだんと視界が元に戻ってまいりました。さて、勝負はどうなっているのでしょうか...おおっと!?』

 司会者は観客席から身を乗り出して叫んだ。

『二人とも倒れているゥッ!!私達の目が見えなくなっていた約30秒ほどの間に一体何があったのか!アンリ選手は開始地点から殆ど変わらない位置で倒れ、リーフェ選手は服を焦げさせて大の字に倒れています!

 引き分けッ、引き分けですッ!!』


 決着はつかず、またいつかの闘いに持ち越された。


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