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No.46 大会

 いよいよ今日は大会当日だ。これまでの1ヶ月間、僕達の他にも魔法の練習をしている者はよく見かけた。大会に参加する皆が一様に真剣に臨んでいる。その中でも特に熱心に訓練していたのはアンリやリーフェ、そして言わずもがなガルムだ。今日はその成長した姿を見せる時、あの「サドン」に....そしてガルムの父、ユーク王に。ガルムは弱い男ではない、必ず勝つ。僕はそう信じている。


 青い空の下、噴水前の広場に椅子が立ち並び、高級な身なりの大人達と黒い制服を身に纏った生徒達が座っている。

 その先頭には一人の初老の男が立ち、更にその後ろには豪華絢爛とした椅子に座る男と重厚な鎧を着込んだ男が鎮座していた。

 先頭の男、ウォーデン学園長が生徒と観客に向かって「拡声石(かくせいせき)」を使って演説する。

『...お集まり頂いた皆様、本日はお越し頂き誠に有難うございます。

 本日は天気にも恵まれ、気分の良い晴天となりました。参加する生徒一同も、この天気のように清々しい勝負をするようお願いする。

 今日は観戦にユーク王陛下もいらっしゃられました。

 陛下に恥ずかしい姿を晒さないように、これを訓示としてここに「第1回魔道士決闘大会」を開催します。

 全員、陛下に敬礼!』


 観戦する者も加えれば総勢百名をゆうに超える生徒が一斉に敬礼する。

 ユーク王は立ち上がり、そばに居た騎士のピトムニクから拡声石を受け取った。

『...全員座りたまえ。

 今日は我が国の希望の種である諸君らの力を拝見させて貰おうぞ。諸君らがこの大会でまた一つ成長し、己を磨く糧とする事を願っておる...』

 ユーク王の言葉を最後に、開会式は終了した。


     ◇◆◇◆◇


 さて、場所は変わって格技場に来た。観戦席が埋め尽くされるほどの人が集まり、しかもそれだけでは足りず席が増設されていた。僕の試合ははじめの方にリーフェの兄シャルゴと、終わりがけにイレーナとなっていた。アンリとリーフェは中盤から、そしてガルムは僕らの中で言えば最後だった。

 大会が始まって20分としない頃、もう3、4組は決闘して僕とシャルゴの番になった。名前を呼ばれて前に出る。向かい側からはシャルゴが勇猛果敢といったように登場した。

『赤側、アルバート・シュティーア、1年生!

 入学するまで噂ひとつ立っていなかった彼だが、保有魔力量が驚愕の「白」!

 しかも無詠唱魔法を使いこなすなど入学当初から鬼才ぶりを見せつけているゥ!』

 司会が拡声石を片手に僕の紹介をしてくる。その声を聞いて観客はわぁわぁと盛り上がった。前世のボクシングの試合などを彷彿とさせる光景だ。

『相対するは青側、シャルゴ・フリードマン、3年生!

 学年主席で王族近衛騎士団からの勧誘も来ている実力者!

 今回勝つのはどちらなのか!?今大会の注目枠の一つです!!』

 シャルゴの紹介と共に会場はいっそう盛り上がった。

 僕はシャルゴの能力や戦い方を知らない。事前に情報を集めたりなどはしなかった。何故なら彼と約束をしたからだ。

『決闘の時まで相手の詮索をしない事』

 つまりは、ぶっつけ本番という訳だ。


 僕達二人は格技場の中心まで来て一度握手する。シャルゴはまるで炎を宿したような眼で、睨みつけながら手を出してきた。

「アルバート君、今日はよろしく頼む。手加減は一切しないからな」

 僕は彼に恨まれるようなことをしただろうか?と一瞬考えてしまう程の迫力を持つ物言いで挨拶をされた。

「ええ、宜しくお願いします。誠心誠意お応えしますよ」

 僕もそう返して彼の手を少々強く握った。

 そして二人共振り返って開始位置につく。距離は前回の模擬戦闘と一緒の約7、8m。向こうは最高学年の主席、当然のように無詠唱魔法を使ってくるに違いない。

 しかもリーフェの兄である。イレーナ戦とまではいかないまでもリーフェ戦以上の戦いになる可能性は充分にある。気を引き締めて挑まなければ負けてしまうだろう。


『では両者向かい合って...』


 僕は例の如く腰を低く落とし、右手に短刀を逆手持ちする。僕とシャルゴは睨み合い、眼で牽制し合う。相手の一挙手一投足、ほんの些細な動きさえも見逃すまいと相手を観察する。それまで騒がしかった観客席も僕と彼の世界に呑み込まれて静まり返った。誰かの生唾を飲む声が聞こえた気がする。


『始めェッ!』


 静寂を破るように響き渡るその合図で先に動き出したのは、僕だ。

 先手必勝、相手がそれなりの実力者でありなおかつ無詠唱魔法を使ってくる可能性があるなら先に攻撃して圧倒する方が有利だ。

(グラント!)

 僕は心の中でイメージして魔法を発動させる。グラントなどと言う魔法は元々存在しない。これはイレーナが改良した強化魔法に新たに付けられた魔法名だ。

 魔法の効果は当然、自身の身体能力強化。

 魔法の力で大幅に強化された脚で思いっきり地面を蹴る。押し出された弾のように、()ち出された矢のように、僕は飛び込んでシャルゴの懐に入り込む。

 『魔術士は接近戦に弱い』この固定観念を真っ向から打ち砕く戦い方、それがマギ=カタだ。

「ぐゥ...ッ!?」

 僕と同じクラスの生徒ならこの戦い方は以前の模擬戦闘で見て知っているだろう。しかし、彼は知らない。だからこそこれは不意打ちになる。

 シャルゴは右手の掌をこちらに向けて魔法を放とうとした。無詠唱魔法だ。どの属性の魔法かは分からないが、当たらなければ関係がない。

 詰め寄って距離は腕を伸ばせば届く距離にまでなっている。僕は左手を今まさに魔法を射ち放たんとしている彼の腕の外側から叩き落した。ぴんと伸ばした腕など、それほど力を込めなくとも簡単に逸らせられる。

 斜め下方向に弾かれたシャルゴの魔法は明後日の方向の地面を抉った。

 その時にはもう、反撃の準備は完了している。僕の右手が、腕を弾いた左手の隙間からシャルゴを捉えた。彼は一瞬の出来事に驚愕し、眼を見開く。

 だが、そこで終わる程シャルゴもヤワではなかった。

「...ぉおおおおおおおおッ!」

 彼は弾かれた右手の勢いに乗って、思いっきり前に転がった。そしてすぐさま立ち上がり僕の方を向いて構えた。

 先程まで彼が居た所には突き刺さるように30cmほどの氷柱(つらら)が立っている。

 流石と言うべきか、やはりシャルゴは戦い慣れしている。とっさの判断力が一年生とは段違いだ。

 だが、急に距離を詰められた時に動かずに対処しようとしたのは彼の性格ゆえか?あの場合は後ろに下がった方が良かっただろうに。いや、それだけ自分に自信があったということだろう。


 だが、彼が焦っている今。これ程の好機を逃す手はない!

「切り裂け、ウィンドカッター」

 僕はわざと『詠唱をして』風属性魔法を繰り出す。シャルゴはすぐさまこれに対応してきた。

「ッ!ファイアバーンッ!!!」

 僕の右手から打ち出された風の刃は見事にシャルゴの炎に喰らい尽くされた。


 しかし、予定通りだ。


 シャルゴへ向けた右手の隙間から、僕の左手が彼を捉えた。

(アクアバレット)


「しまッッ...!!!!」

 彼が気付いた時にはもう遅い。水の弾丸は無情にも彼の心の臓に命中した。

 シャルゴは水弾に弾き飛ばされて2mほど宙を舞った。続けて鈍い音を鳴らしながら地面に衝突する。


 決着はあっさりとした、一瞬の間の出来事だった。


 最年長学年主席を圧倒した。その事実は、僕が非凡な才能の持ち主であることを観客全員に知らしめる事になる。

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