No.43 強化魔法
昼休みはその後、特待生5人組で食堂に行ったのだがそこで予想外の事が起きた。
「アルバート君、少し良いかな?」
定食を食べていた時だ。
顔を上げて見てみれば見覚えのない顔があった。背の高い獣人族の男で、顔立ちはスラッとしていた。
「どなた...でしょう?」
「ああ、これは失礼。俺は3年生の......」
「お兄ちゃんッ!」
自己紹介しようとした彼の言葉を遮って、叫んだのはリーフェだった。彼はそれを何事も無かったかのように無視して話を続けた。
「...シャルゴ・フリードマンだ。今聞いたようにリーフェは俺の妹だ。
...アルバート君、俺は君と決闘がしたい。来月の大会で勝負してくれないか?」
なんと、決闘の申し込みだ。
しかも相手はリーフェの兄ときた。彼女に兄がいた事は初耳だ。そして何故かリーフェはシャルゴに憤っていた。仲が悪いのだろうか?
しかし、どうであろうと売られた喧嘩...いや決闘なら受けるのが当然だろう。来る者拒まずだ。
「構いませんよ、これが食べ終わったら申し込みに行きましょう」
「ありがたい」「えッ!?」
彼は僕の返事を聞くと、食堂の奥の方へ戻って行った、見れば座った席には何人かの友人も居て「やれやれ」という声が聞こえてきそうな表情をしている。
「...お兄ちゃんは、実力主義者なの。普段は良いお兄ちゃんなんだけど...魔法の事になるとすぐに喧嘩を売って...」
「随分前に私にも勝負を申し込んできましたわ。『妹に相応しい友人か試してやる』と、家族思いが人一倍強いのです。私はその時惨敗させられましたわ。彼は学年主席ですのよ」
ごめんねと謝りため息をつくリーフェとは対象にアンリは澄ました顔で言った。
アンリも意外と実力主義な所があるから彼とは通ずるモノがあるのだろう。
とんとん、と優しく肩を叩かれたのでそちらを見るとイレーナが少し機嫌が悪そうにしていた。
「アルは、私とは勝負をしないのでしょうか?」
ああ、彼女は僕とやりたかったのか。これは悪い事をしたな...
「じゃあ、二回出られるようにしてもらうよ」
「...それなら、良いんです」
拗ねていても可愛いのは、彼女がエルフで容姿端麗だからでなく僕が彼女に惚気けているからなのだろうか?
その後、昼食も食べ終わって食堂の外に出るとシャルゴが待っていた。僕は彼と一緒に職員室へ申し込みに向かったが、その間に会話は一切無かった。
ついでに、二度闘ってもよい許可も貰っておいた。
大会まであと1ヶ月だ。
◇◆◇◆◇
ガルムとの訓練に明け暮れていたある日の夜。イレーナがやけに興奮して部屋に戻ってきた。
「アル、アル。この魔導書を見てください。ここです、ここ」
彼女が魔導書を開いたまま僕の前のテーブルにドカッと置いて見せる。
「四年前に書かれた新出魔法の本なのですが、面白い魔法が載っています」
彼女が指を指している所を読んでみると「魔力による身体強化の可能性」というタイトルが付けられていた。内容はタイトルの通りで「魔力を体外へ放出するのではなく、己の身体へ使う事で身体強化が可能になる新しい魔法」が紹介されている。
つまり、魔法で筋力や動体視力を増強させることが出来るのだ。
これは確かに画期的である、是非とも修得したい魔法だ。4年前の本だという事はこの魔法の認知度は低いだろう、学園だからこそ知れたのだ。
「......これは使えるな」
「そうでしょう?しかし、この魔法...かなり効率が悪いのではないかと思います。この魔法の詠唱文...身体を強化するという意味の文ばかりで『どこをどう強化するか』は表現されていません...これを、例えば眼に絞ったりすればもっと効率の良いモノになるかと」
「確かに、筋肉や神経をイメージできる僕達なら...」
僕はそこまで言いかけて、ふと思い立った。
......待てよ、この魔法は...ガルムに向いているんじゃないか?
ガルムは魔法が得意とは言えない。選りすぐりの学園内で上位のサドン(確か番号は8番だったか)と闘って勝つのは難しいと考えるのが普通だが、この魔法が扱えれば強化するのは「肉体」なので魔法以外の部分で勝負できる。魔道士は身体を鍛えていない者が大半だ、しかも貴族となれば尚更に。そこを突けば勝機はある。
現在ガルムの持久力を訓練しているのは肺活量を向上させて長い詠唱も素早く言えるようにする為だが、この路線を変更して武術を教えようか...?それも悪くない。
「...レーナ、この魔法。研究してガルムに教えないか?」
「ガルムに...成程、良い考えです。研究は私に任せておいて下さい。
ガルムには、人の身体についても学んで貰わなければなりませんね」
イレーナは快く承諾してくれた。頼りがいのある恋人だ、また今度お礼にデートしよう。




