No.42 宣戦布告
「学園長、アルバートです。宜しいでしょうか?」
休日の学舎内、普段騒がしく人気の多いそこはまるで普段が嘘のように静けさを纏っている。
そこへ、小さなノック音と僕の声が響いた。
すぐに扉の向こうから篭った声が聞こえてくる。
「入っていいぞ」
ウォーデンはいつも通り椅子に座って書類仕事をしていた。今日は書類が山盛りに置いてあった。
「君から来るとは珍しいじゃないか。どうしたのかね」
僕は彼に報告しなければならない、ガルムの事を。
「実は...ガルムの事でお話があります」
ウォーデンは訝しげな顔をして席を立ち上がった。そしてこちらに歩いて来ながら質問してくる。
「ガルム君の事?何かね...まあ、座ってくれ」
彼は僕をソファに座らせて紅茶を淹れてくれた。それを一口飲んで、僕は語った。
「ガルムは...彼が平民で魔法の才にも秀でている訳でも無いのに特待生であるから、それを妬み憎む者にイジメを受けています」
「彼が...?本当かね?」
「はい。まだ知っているのは当事者と僕だけでしょう」
驚くウォーデンをよそに僕は淡々と報告した。
「...なぜ、君はそれを知っているのかね」
「ガルムの様子が変でしたので尾行し、確認しました」
「そ、そうか...」
ウォーデンは唸った。それが異変に気が付かなかった事への後悔であれ、ガルムへの責任感であれ、ユーク王への申し訳のなさであれ、起こってしまった事は変えられない。
「...イジメをしているのは誰かね...?」
「サドン・オークス、フート・デイビス、エゴール・ジョンソン。
この3人です。しかし、実際に暴行をしているのはサドンのみでしょう」
ウォーデンは更に苦渋の表情を見せる。今にも歯軋りの音が聞こえて来そうだった。
「......サドン君は...上級貴族の出で、他の二人はその分家出身の、所謂お付きだ。まさか彼らが...」
「そうでしたか、道理でプライドの高い訳だ」
サドンがガルムを殴った時の言葉を思い出しながら、皮肉を込めて言った。
ウォーデンはいよいよもって震えている。
「...その震えは、彼が王族だからでしょうか?」
「なッ...知っていたのか!?」
「ええ、ガルム本人から聞き、先程陛下から詳しい話を聞きました。イレーナと僕以外に、これを知るものはいません」
「...そうか」
さて、僕は報告をしに来ただけではない。これからが本題だ。
「それで、イジメを解決する為にご提案があります」
「...聞こう」
「はい。ガルムは、現在もイジメられている訳ですが、僕がサドンに仕返しをすれば一発でやめるでしょう。しかしこれは得策とは言えませんし、問題になります。
かと言って、話し合いで解決できるとも思えません。彼は『誇り高い上級貴族の出身』なのでしょう?一度やめさせても、またいつか同じ事が起きます。
僕が考えた案は、『公式の場で決闘する』というものです」
「決闘?」
「ええ、決闘です。一ヶ月後に学園主催で模擬戦闘の大会を行い、その中で公衆の面前で正式に決闘し勝つ。ガルムは彼より強い事を証明し、『誇り高い』貴族様の心を打ちのめすでしょう。
周囲にはそれが『一ヶ月で急成長した特待生のガルム』として認識され、認められます。魔法の才能が立場を決める事もあるこの界隈ならではの最適解ではありませんか?」
「しかし、それではもし負けた時に...」
「負けません...いえ、負けさせません。僕が勝たせてみせます」
「ぬ、うう......」
僕の提案に彼は熟考した。暫く沈黙が続いて、僕の紅茶を啜る音のみが部屋に響き渡る。
「...分かった。なんとかして企画しておこう。日程が決まり次第告知する」
期待通りのその返事に、僕は笑顔で返事をした。
「そうですか、それは良かった!では僕はこれで失礼しますね。
ああそうだ、日程が決まりましたら陛下にもご報告なさって下さい。きっと陛下もいらっしゃいますよ」
「...はは、根回し済みという訳か」
ウォーデンはそれを聞いて今日初めて笑った。
但し、それは様々な感情が混ざり込んだ苦笑であったが。
◇◆◇◆◇
次の日、朝のホームルームでミズーリ先生から一ヶ月後に模擬戦闘の大会が行われる事が発表された。
ウォーデンの仕事の速さが垣間見えた気がする。
「...そして、この『魔術士決闘大会』は自由参加です。参加したい者は、対戦したい相手と共に2人で私の所に来ること。宜しいですね?」
自由参加と言うのは昨日僕がウォーデンに頼んでおいた事だ。
大会の日程が決まり次第、彼にサドンへ宣戦布告させて一時的な「イジメが出来ない状況」を作りだすつもりであった。
それまでは僕がずっと側にいてサドンが声をかけられない、もしくは声をかけてきても僕から断れるようにするつもりだったが、ずっと一緒にいられる訳では無いのでこれは助かった。
「ガルム、昼休みに宣戦布告しろ」
僕が小声で語り掛けると、ガルムは唾をゴクリと飲み込んで頷いた。やはり緊張しているようだ。
昼休み、サドンが「いつも通り」ガルムの机の前にやって来る。サドンが何か言う前にガルムが喋り出した。
「サドン君、あのッ...その...」
ガルムがあと一歩前に踏み出せないでいたので、僕は席から立ち上がって通り過ぎざまにさり気なくガルムの背を叩く。
それで勇気づけられたか、ガルムは決心して言った。
「サドン君ッ!僕と、決闘してくださいッ!!」
よくぞ言った、と僕は内心で彼を褒めた。後で何か奢ってあげよう、丁度君のお父さんからお小遣いも貰ったしな。
「はァ...?」
サドンは一瞬理解出来なかったようだが、すぐにニヤリと下卑た笑みをする。そして言った。
「いいぜ...ぶちのめしてやる」




