No.41 父親
その後も、会食は続いた。
また、ピトムニクが話題をふってきて、それに応えているうちにユーク王も元気を取り戻していた。
「アルバート君のお父さんはあのオンスさんらしいじゃないか」
ピトムニクが言った。
また、だ。確かアンリと会食をした時もオンス父さんの事を知っているようだった。僕は父さんの事をモアルドの領主としか知らないのだが、辺境の領主が「あの」と言われても今ひとつしっくりこない。
「父の事をご存知なのですか?」
「ああ勿論だよ。オンス・シュティーアといえば数多くの伝説を残した英雄だからね」
「父が...?」
父さんが「英雄」と呼ばれるのは、いまいち納得出来なかった。
彼はそれなりに力はあるだろうがそれでも僕にとっては辺境の領主で......いや、待てよ?確か僕の家族は「名誉貴族」だったハズだ。つまりは何かしらの功績を立てたという事だ...
「父は...どんな人物だったのですか?」
「おや、知らないのかい?」
ピトムニクが不思議そうにする。
「彼は自分の事を語ることがありませんでしたので...」
「そうか、ではその秘密を明かしてしまうことになるね。
......オンス・シュティーアと言えば幾つかの二つ名がある。『王の盾』『辺境の鬼神』『6ヵ年戦争の英雄』......どれも騎士をしている者ならば知っている憧れの存在さ」
どれも馴染みのない名前だった。しかも、威厳のあるものばかりである。
「レーナ、知ってたか?」
「いいえ、初耳です」
イレーナも知らないようであった。
「彼は元々、王族近衛騎士団の隊長をしていたんだ。
当時は三大国の衝突が激しく刺客も多かったらしい。それをものともせず、王家を守護してきて付いた二つ名が『王の盾』、全くもって騎士冥利に尽きるものだね。羨ましいよ」
王族近衛騎士団...王の盾...?父さんがそんな大層な者だったとは。意外や意外である。
「そして、200年前に起きたのが6ヵ年戦争だ。そこで彼は多大な貢献をする。
最初の活躍はアラモ砦攻防戦だ。山脈を経由しない魔法国家フーリアへの侵略路確保の為に、北の帝国シュネーリアが極西のモアルドにあるアラモ砦を侵略した。その報告を受けた彼は、当時の王の命令を無視して妻のシャルルとそこへ駆けつけた。
そこで二人は仲間と共に一騎当千の働きをする。これが『辺境の鬼神』等と呼ばれる所以だ」
6ヵ年戦争、ちょうど今読んでいる本で紹介されている戦争だ。200前の戦争だぞ?まさか...いや、エルフの寿命は千年近くあるからおかしくはない...のか。
しかもピトムニクが言った話には聞き覚えがあった。
昔、父さんが話してくれた騎士の物語だ。まさか、自身の過去の話だったとはな。
「私、その話を父からお伽噺のように聞かされた思い出があります」
「それもそうだろう。君の父、ハンク・ルセイドと母アイナは当時アラモ砦を守護していた指揮官と参謀だ。堅牢な砦だったとはいえ敵の軍勢を2週間も押しとどめた2人だ。オンスさんの古くからの友人で、彼が命令違反をしてまでアラモ砦へ駆けつけた理由がまさにそれだったらしい。
そうして、アラモ砦は守られ今も現役で存在しているという訳だよ。
オンスさんの紹介はこれ位で大丈夫かな?」
なるほど、大体は分かった。後で6ヵ年戦争の本を熟読しておこう。まだ最初の部分しか読めていないし、全部読めば父さん達の事を書いた文も見つかるだろうな。
「『さん』と言っているのは、彼と面識があるからでしょうか?」
イレーナが聞いた。意識していなかったが、確かに面識があるとも取れる呼び方である。
「ああ、彼は騎士団の先輩なんだ。私はこう見えても人狼族でね、今年で223歳になる。陛下の事も赤子の頃からお護りしているんだよ。騎士団長になったのはオンスさんが騎士団を抜けてからだね」
これもまた意外であった。人狼族といえば寿命600年という長寿の種族だ。普段は人として暮らし、戦闘の際に巨大な狼へと変化して戦う。しかも、数が長耳族よりも少ない珍しい種族である。
「そうなのですか。
人狼族は狼に変化出来ると言いますが、どのような感じなのですか?」
イレーナが聞いた。今日はよく喋るなと思って見てみれば、眼がキラキラと輝いていた。彼女の見た目以上に好奇心旺盛な部分が露見している。
「あはは、やはり気になるかい?変化する時は全身に血がめぐるのが分かるようでね......」
等と、更に話は続いていった。イレーナは存外楽しそうで話がどんどん弾んでいる。
僕は、久々に見た興奮する彼女をみて和みつつ食事を進めた。
かなり話し込んで、食事が終わったのは1時過ぎくらい。
食事をし始めたのが11時くらいだったので大体2時間も話していた事になる。
学園までは、また馬車が送ってくれた。
食事は楽しかったが、僕にはやらねばならない事があった。




