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No.40 真実II

 ユーク王は、暫く黙って食事をとっていた。今はピトムニクとイレーナが話をしている。年頃の女の子はどんな物が好きなのか、私の娘にあげる贈り物は何がいいと思う、等とどうにか場の雰囲気を取り戻そうとしているのが分かった。

 また、その雰囲気をぶち壊すことになるが、一々探りを入れるのも焦れったくなってユーク王に訊ねた。


「陛下、それでも構わないのですか?」


 ユーク王は食事をする手を止め、バッとこちらを向く。


「...何がかね?」

「陛下のご子息が、酷い困難に立ち向かって居るのですよ?

 貴方様は、ただ傍観為さるおつもりですか?」

「ッ!...知っているのか...」

「ガルムから聞きました。知っているのは僕とイレーナだけです」

 ユーク王は背もたれに身体を預けてジッとこちらを見ていた。


「...しかし、僕は詳しく知っている訳ではありません。

 陛下、宜しければ彼の事を教えて頂けませんか?」


 僕が冷たく、けれども芯には熱い眼差しを向けて彼に問う。彼はとても苦しそうだった。まるで今はいない誰かを懐かしむ老人のようだった。


「...君達がそれを知る意味は、あるのかね...?」


 12畳あまりの部屋に彼の低くこもった声が響き渡る。背筋がぞわりとした。


「...彼は、僕の...僕達の大切な友人です。彼の事が知りたい」

 王は、喉にナニカが詰まったかのように押し黙る。ピトムニクが心配そうに彼の背に手を添えた。

「...良いだろう...もう、12年も前の話になる」


 ユーク王は、語り出した。自分の行いを悔いて懺悔するように。


「ガルムが、生まれたのは私が35の時だった。

 その時は妻のオーシアも大変そうで、これが最後の出産になるだろうと医者も言っていたよ。

 けれどその時、ガルムが生まれた所を見るほどの余裕は私には無かった。私は重い病を患っていたんだ。


 ...医者は死ぬかもしれないと言っていた。望みは薄かった。

 だから、王城内は次期王の継承権争いで混乱していたのだよ...

 醜いものだった。

 野望を抱いた政府大臣が私の息子達を影で操ろうとし、対抗するそれぞれが別々の王子の下についた。

 その時は長男のブレイズでさえまだ15だったと言うのに...!奴らは私の可愛い息子達を...いたいけな彼らを無理矢理に争わせた。


 娘のアーチャは良かった、あの子は女の子だから王位継承権は持っていない。


 けれど、ガルムはどうだ...?第4位とは言え、(れっき)とした王子だ。きっと、権力争いの道具にされていただろう。

 私は、それがどうしても嫌だった...

 なら、王子として堅苦しく醜い場所で暮らす位なら、普通の生活を送らせてやりたかったんだ...


 だから、彼を死んだ事にして『居ない存在』に変えた......


 私の病気が回復したのは...それから1年後の事だ」


 ユーク王は、今にも泣き出しそうだった。声は震え、覇気がない。その顔には苦悶の表情を抱いている。

 彼が、ガルムの事を申し訳なく、そして大切に思っている証拠だ。僕には彼を責める事は出来なかった。


「...では何故、彼を今更に呼び戻したのですか?」

 イレーナが問う。確かにそれは最も重要な点だ。


「...彼を呼び戻したのは、もうすぐ成人だからだ。

 せめて一度くらい、成長した彼を見てみたかったんだ。もう7年も会っていない。

 学園への推薦はもちろん只の口実だよ。


 ......でも、そうか...そのせいで彼は困難に直面しているか...」


 虚しい一言だった。

 自らを責め立て、自虐するような彼にかける言葉は見つからなかった。


 しかし、イレーナは臆することなくユーク王に言う。


「ですから陛下、一度お越しになって下さい。彼が強くなった姿を、ご覧になって下さい。

 先程も申しましたが、私とアルはきっと彼を強くして見せます。いえ、絶対にです。彼は心も身体も強くなって、一人の立派な男になるでしょう。

 貴方は話をするべきです。彼は自分が捨てられた邪魔な人間だと思っている。彼を弱くしている原因がそれです。貴方は彼と話して真実を打ち明け、縁を取り戻すべきなのです...!」


 静かな激情が、どこかの誰かに似て弱さの見え隠れする男の心を揺り動かす。

 彼女は一見冷たく見えて実は熱い人である。気持ちが高ぶるあまり僕の名前を愛称で呼んでしまっているが、誰もそれを気にしなかった。みな彼女の言葉に衝撃を受けていた。


 彼女を知る僕だから分かる。彼女はガルムと自身を重ねているのだ。

 彼女は前世で親族を失っている。その辛さを知っているから、ガルムのユーク王へ対する心のしこりを感じ取ってどうにかしようとしている。

 彼女はガルムの支えになろうとしているのだ。


「......良いのだろうか...ピトムニク...」

 彼は、ユーク王は遠慮したように言う。少なからずあるガルムへの罪悪感と、イレーナの言葉の板挟みにあって揺れ動いているのだ。


 ピトムニクは言った。


「私は、ガルム様の事が書かれた手紙が届く度に嬉しそうに、けれどどこか辛そうにする陛下のお顔を何度もお側で見て参りました。陛下には、辛い気持ちなど持って欲しくありませぬ。

 もし、ガルム様と話す事でそれが無くなるのならば是非お話して頂きたい」


 その言葉が、決定打となって、王は重い足を一歩前に進めようという気持ちになれたのだった。

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