No.03 魔法の存在
2歳になった。言葉もある程度覚えたし、大分話せるようになってきた。
...いや、正確にはもう話せるのだが流暢すぎると気味悪がられたりするので少し片言で喋っている。今覚えているのは字だ。セシリアさんが毎日本の読み聞かせをしてくれるので大体読めるようにはなったが書く方は、こちらもこんな歳で書けるようになってしまうと気味悪く思われるだろうから書いていない。教えられながらなら前世では1年あればそれなりに読み書き話しが出来たものだが、今回はそうはいかないらしい。なにしろ立場と状況が弊害になっているからな。
「アル、今日は俺がお話をしてあげようか」
そう言ってきたのは見た目20歳程の伊達男で、身長190程のガタイの良い男だ。その彼が僕の父親である。
名はオンス。僕や母さんと同じくエルフで、いつも昼間は仕事に出ているが今日は休みのようで家にいる。
「おはなし!おはなし!」
僕はオンス父さんのしてくれる話が素直に好きだ。父さんはセシリアさんのように本を読むのでなく、何も見ずにジェスチャーなどを織り混ぜながら話して聞かせてくれる。毎度違う話でしかも面白いので聞き入ってしまう。
「今日は或る国の騎士様の話だ...」
自分の主である王様を何時も側で護っていた主人公の騎士は隣の国が攻め込んできた時、王の反対も押しきり一人の部下を連れて一路国境際の戦地に向かった。王都から約1ヶ月かかる道のりを休憩や睡眠を殆ど取らずにわずか10日でたどり着く。そこは既に戦場になっており、戦線は町のすぐそこまで来ていた。騎士は部下に負傷兵を魔法で治癒させ、自分は最前線へと躍り出た。
数の差は大きく負けていたが一騎当千の騎士は群がる敵兵を尽く薙ぎ倒し圧倒する。しかし、段々と劣勢になってくる。遂には敵の刃が騎士に迫った。
万事休す!
そう思った瞬間に迫っていた刃が突然砕けた。続けて騎士の周りに群がっていた敵兵がバタバタと倒れてゆく。騎士が辺りを見渡すと町で負傷兵を治していたハズの彼の部下とその負傷していたハズの兵士たちが騎士を囲んでいた敵らと戦っていた。部下と彼らの頑張りによって敵は壊滅させられ撤退してゆく。
斯くして国境際の町は護られた。更に言えばその先にある町や村々まで護られたのだ。
騎士は部下と共にその町を護り続ける事を決め、その地で暮らすのだった。
そんな内容の話だった。今回も面白い内容だ。だが僕はそんな格好の良い騎士様よりも気になる事がある。
「まほー!まほー!」
そう、魔法だ。
この世界には魔法が存在する。以前神様が別れ際にいった『私達との関わりが深い』とはこう言うことであろうか。
「はは、アルは魔法が好きなんだな」
少々残念そうな顔をしながら笑う父さん。父さんは魔法が苦手なのだろうか?そう訝しんでいると、母さんが入ってきた。セシリアさんも連れている。
「お出かけしようかと思ったんだけど、二人もどうかしら」
父さんと僕はそれに賛同し、外に出かける事になった。
僕はモアルドという町に住んでいる。この町では行商が盛んで、多くの馬車や行商人が往来している。僕たちはその道の脇を歩いていた。
道行く町民らは僕たちにすれ違う度みに挨拶してくる。
「こんにちは、領主様!」
「これは、オンス様にシャルル様、息子様まで、お出かけですか?」
「領主様、今日は良い林檎を仕入れてきましたよ!後でお送りしておきますね!」
など、内容は様々だが町の人々に慕われているのは分かる。
それに、なんと、領主様だ。父さんはそう呼ばれている。この町の管理者だ。
家は恐らく他の貴族らに比べれば質素なものだろうがそれなりに大きいし、少ないが使用人もセシリアさんを含め4人いる。この町の貴族らしい家なんてウチ以外にないし、この事から察するにこの町は辺境なのだろうか。
そんな事を考えながら僕は散歩していた。
◇◆◇◆◇
3歳になると、僕は母さんと一緒に外でよく遊ぶようになった。庭を走り回ったりしている。虫を捕まえたりとかもだ。
一見すると只の遊びだが、これは僕にとって訓練であった。
どういう事かと言えば、僕はまだ軟弱な幼児である。体力は元より筋力も未発達だ。そんな僕にとって只走り回ったり、すばしっこい虫を捕まえたりするのも十分な訓練になると言うわけだ。最近は拾った棒切れを振り回したりなんかもしている。何分みんな剣をもっているような世界だ、剣術は必要だろうと適当に振り回すように見せながら重心の取り方や腕の振り方なんかを前世の知識や経験を元にお復習している。
因みに前世ではナイフを用いた近接格闘術や小太刀術などを学んだことがある。長剣を扱ったことはない。
◇◆◇◆◇
アルバートがそうやって過ごしている一方、彼の知らない所ではこんな会話が為されていた。
まず口を切ったのは彼の母であるシャルル。
「ねぇ、アル君についてどう思う?」
まず答えたのはセシリア、この屋敷に使える使用人の長である。
「もう既に本をスラスラと読んでおります。とても物覚えのお早い方です」
彼女は日頃のお世話の中で思っていた事をいう。
続いてワルド、オンスの秘書をしている執事だ。
「あの方はお食事の時も料理を落とさず、丁寧にお食べになる。行ってはならない場所には言わなくても行かない。まだ幼いというのに聡いお方であります」
最後にオンス。
「それだけじゃない。アルが何時も庭で遊んでいるが、走り回っているのをみると走り方がなっている。虫を捕まえるときは気配を上手に消しているし。拾った棒切れを振っている時も重心がしっかりしている上に振り方も綺麗だ。あれは天才だよ」
それぞれがアルバートに対して思っていた事を言うが、悪い話など一遍たりとも出てこない。事実、見当たらない。
一通りの答えを聞いた後、話を持ち出したシャルルはい言った。
「皆もそう思うわよねぇ、もう魔法とか教えちゃっても良いんじゃないかしら?」
反対意見はなかった。