No.36 真実
「僕は...」
ガルムが、何かとても大事なそうな事を言い出そうとしていた。僕は黙って静かに彼の言葉を待つ。
「...僕は...王族、だったんだ......」
王族、だった?それはつまり、身分を隠していたと言う事か...?
「...詳しく、聞いてもいいか?」
「...うん」
ガルムは、僕にその言葉の意味を打ち明けた。
彼は、マーリア王国の現王ユーク・ウォードグと王妃オーシアの間に生まれた末っ子なのだそうだ。しかし、王は何故か彼が出産の失敗で亡くなった事にしたらしい。
確か、ユーク王には4人の子供が居たはずだ。第一王子ブレイズ、第二王子エッジ、第三王子チョッパー、第一王女アーチャの四人である。
まさかガルムが、王の5人目の子供だとは...誰が想像するだろうか?全くもって予想外である。
彼は5歳までの間は王城の中で、ロクに外に出る事も出来ずに育てられ、それからは南の海沿いにあるシアルドという町の領主の家に引き取られたのだという。算術や国語、史学はそこで学んだらしい。道理で出来るわけだ。
そして、魔術も。同じく学んだらしい。
だが残念な事に彼は才能には恵まれなかった。保有魔力量も緑の下までしか伸びず、詠唱の短縮も出来ず、中級魔法もまだ使えない。彼は頑張ったが駄目だった。
それだと言うのに、2ヶ月前に突然学園の関係者と政府大臣がやって来た。彼らは「王の勅命だ」と言ってガルムを特待生に推薦し王都に戻るよう言った。実質、王都への呼び戻しという事になる。
「...領主様は違うと言っていたけど、僕はユーク王......陛下に捨てられたと思ってたんだ。
...でも、それで特待生になってしまったんだ。僕には才能なんて無いのに...こんなのズルだよ。
だから、彼らが怒っても僕は言い返せないんだ、僕だって自分に言いたいさ。
『なんでお前なんかが特待生に』って」
なるほど、だから彼はやり返さないのか。
僕はガルムを見つめた。彼は乾いた笑みを顔に貼り付けているが、内心は物事をそう軽くは受け止めていないだろう。
僕は、彼のその理屈を良くは思わなかった。だから言ってやった。
「ガルム、強くなりたいとは思わないのか?」
思わない、訳が無い。彼は普段から努力している、僕らの模擬戦闘の日も寮で強くなるにはどうしたらいいかを聞いてきていた。向上心はあるのだ。朝の訓練も彼自ら参加した。しかし、実力がまだ付いてきていない。
まだまだこれから...そう言うところで、イジメが始まってしまった。そのせいで彼は、自分を諦め始めている。
たとえ彼が学園に来たのが王の命令であったとしても、無理矢理であったとしても、努力をしている彼が虐げられる言われはないハズだ。これは只の八つ当たりである。
ガルムは、暫く黙って、そしてポツリと言った。
「なりたいさ......けど、努力しても...もう、無理だよ...」
「まだ出し切っていないんじゃないか?」
「じゃあ!じゃあどうしろって言うのさ!僕は君みたいに才能がある訳じゃ無いんだ!!」
彼は叫んだ。僕は失言だったと自らの発言を悔いた。彼は、またも俯いてポツリと「ごめん」と言う。僕も「こっちも、悪かった」と言った。
「アルバート君も、才能だけでそんなに強くなった訳じゃないもんね...
毎朝あんなに早く起きて、魔術も武術も訓練して、夜には本で勉強して...
確かに、僕よりもっと努力してる。
でも、僕は君みたいに強く生きられないよ...」
僕は、締め付けるような胸の痛みで思わず拳を握りしめていた。今のガルムを慰める言葉が見つからなかった。
だから、僕は提案...いや、お願いをした。
「じゃあ、今回だけで良い。だから彼らにやり返さないか?
ちょっとの間、必死に訓練して、強くなるんだ」
「だから、僕はそんな事出来ないよ...!」
当然、ガルムはそう言う反応をする。だが強くなりたくない訳じゃないだろう。それならば、と僕は言った。
「じゃあ言い方を変える、出来る出来ないじゃない。
ガルムは、お前は強くなりたいか?」
彼は途端に目元から涙を溢れさせながら呻いた。
「....なりたいさ...ッ!なりたいよッ!!」
「じゃあ、お前の1ヶ月を貸してくれ。その1ヶ月でお前を特待生に相応しいくらい強くする...お願いだ」
ガルムは、「でも」と言いかけてやめた。そしてまた暫く沈黙して、呟いた。
「...うん、僕を強くしてください......」
僕は、ガルムが弱い男ではないと確信した。自分を卑下しがちなのは癖かもしれないが、向上心があって強さを求めている。ただ、境遇が特殊であっただけだ。
「ありがとう」
僕はガルムにそう呟いた。
朝日が上り、僕達を照らし始めていた。
ガルム含めた王家の名前は分かる人にはわかる名前のハズです。




