No.35 異変
「ガルム、明日の休みに2人で王都を回らないか?」
僕はガルムにそう訊ねた。彼の様子がおかしいことについて話がしたかった。
ガルムは最近、話しかけても何か考え事をして反応がない時がある。更に、深刻そうな顔をしている時もあるが僕達と話をしている時はその顔を見せようとしない。だから余計に気掛かりだった。
ガルムが不思議そうに返事をする。急にそんな事を言われれば当然か。
「え、ああ...良い、けど...」
「なら良かった。朝からな」
「う、うん...?」
短く約束して席に戻る。授業の始まりを告げる鐘が鳴った。
さて、僕は明日までに情報を集めようと思う。ガルムの事を、だ。まあ、尾行でいいだろう。怪しいのは...やはりあの3人か。珍しくガルムに話しかけていたあの3人。名前は確かサドン、フート、エゴールだ。全員貴族である。
昼休み、僕が特待生の5人で食堂に向かおうとしていた時、丁度ガルムを誘おうとしていた時。
「ガルム、行こうぜ」
僕より先に例のサドンが先にガルムを誘った。
「う、うん...」
ガルムが文句も言わず付いてゆく。アンリがそれを見て言った。
「何ですの、ガルムにも漸く友人が出来ましたのね」
本当に、そうだろうか?
僕にはそれが前世でよく問題に取り上げられていたモノに見えた。
イジメだ。
断定している訳ではない。確証もない。だから、今から真実を確かめるのだ。
彼が4人で楽しげに昼食をとっていればそれで良い、最近悩んでいるのも友人付き合いについてという事に出来る。しかし、もしもイジメだったら...彼の人生を終わらせかねない重大な問題である。彼はお世辞にも気が強いとは言えない。
言葉で責められるだけで自ら命を絶ってしまうかもしれない。
イジメられる要素は幾つか心当たりがある。
一個は平民だということ、
一個は特待生であるのに魔術の才能がイマイチなこと、
一個は彼の大人しいというか自分を卑下しがちな性格だ。イジメの対象としてはうってつけなのかもしれない。
「ちょっと、トイレに行ってくる」
「あら、そうですの?では先に食堂へ言っておきますわね」
「ああ、そうしてくれ」
僕はそう言って教室を出た。もちろんトイレなど只の口実だ。何でもないような様子を装いながらガルム達の行った方向を辿った。
学舎の裏口だ。出てすぐに左右を確認する。右の通路にガルム達を見つけた。サドンが先頭でその後ろにガルム、その両隣はフートとエゴールだ。彼らは通路を外れて建物の裏へと入ってゆく。
僕はそれを確認してから追いかけた。曲がり角の壁際に来てからその先を覗く。誰かの背中が見えた。声も聞こえてくる。
「......ガルム、お前いつになったら学園辞めるんだ?はやく辞めろよ、ほらッ!」
「がァッ!...かはッ!」
「平民風情が...ッ!特待生なんて...ッ!生意気だろうがァッ!」
「ぐ...ッ!」
どうやら、仲良くお弁当という訳ではなかったらしい。今もまだ、ガルムの悲痛な声が聞こえてくる。
自然と、拳を握り締めていた。心臓の音が高鳴っているのがわかった。しかし、彼らの前には出なかった。止めはしなかった。
今、彼らの前に躍り出て戦えば...無論圧勝するであろうが学園で問題になる。僕は穏便に済ませたかった。
暫く彼らは...いや、実際に暴行しているのはサドンだけのようだが、ガルムをイジメた後に帰ってゆく。僕も見つかる前に帰った。
「アル、遅かったですね」
「ああ、ちょっとな」
食堂に行くとイレーナ達が昼食を食べ始めていた。僕も急いで食べたが、ガルムは戻って来なかった。
◇◆◇◆◇
次の日の未明、僕はガルムの部屋の前に行った。扉をノックする。
「ガルム、起きてるか?」
「......うん...」
どうやら起きているようだったので中に入る。ガルムはベッドに腰掛けて座っていた。少し目元が腫れている。
「あんまり寝れてないみたいだな」
「えっと......うん...」
少し言い淀むガルムに、僕は思い切って聞いた。
「それも、サドンが原因か?」
「なッ、知って...ッ!?」
「まだ未明だ。静かにしよう」
「う、うん...」
「...少し外に出ようか」
僕らが部屋から出ると、イレーナが起きていた。少し外を歩いてくると言って屋敷を出た。辺りは、まだ少し暗い。僕は広場の噴水付近にあるベンチに座った。
「ガルム、お前イジメられているだろう」
「......見てたの?」
「悪いな、尾行させてもらった」
「なんでそんな事ッ!」
ガルムが何故か少し怒ったような焦ったような声をあげる。僕は落ち着いて淡々と質問した。
「何で、やり返さない」
「...僕は、実力も無いのに特待生なんかに選ばれてしまったから...」
「そんな事、理由にならないだろう。お前だって魔術が少し遅れてるだけで勉強は出来るじゃないか。身分に囚われずに頑張って...」
「違うッ!」
ガルムが叫ぶ。見れば、苦悶の表情をしていた。
「違うんだ...僕は......」
ガルムが、僕に真実を打ち明けた。




