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No.32 決勝

 先程、冗談で言った『銃の型(ガン=カタ)』とは、前世の映画で登場した『銃を用いて超至近距離で格闘する戦闘術』だ。その映画が作られたのは『私』だった頃の僕が生まれる7年前だったので、店で借りてきた時はチープな部分もあって笑いながら『カチューシャ』の頃のイレーナと見たものだが、アクションは一級品だった。

 ガン=カタは、向けられた銃口を払ったりしてそらしながら自身は銃を向けて撃つものだ。

 僕は、それが魔法で代用出来るのではないかと思っている。特に『無詠唱魔法の撃ち合い』において特に。

 無詠唱魔法というモノは、万能だ。例えば喋られない状態(水中や口に何か物を入れている時、首を絞められている時など)でも魔法を発動出来るし、相手に悟られる事なく魔法が使える。しかし、欠点もある。

 指向性のある魔法を腕の動作無しに放とうとすれば時間がかかるのだ。

 普通、魔法は『狙ったものに手を向けて放つ』と言うのが普通だ。無詠唱魔法はそれをせずとも魔法を指定した場所に放てる....が、しかし。それには手をかざすより時間がかかる。即ち、1秒やそれ以下で決着が決まりかねない超至近距離において手をかざさずに魔法を放つと言うのは難しい。相手がその時間をくれるなら別だが、そんな事は起こり得ない。

 つまり、僕が言いたいのは『魔法を放つ』行為は『銃を撃つ』行為と酷似していると言う事だ。つまり、ガン=カタは魔法でも使える。

 だからそれを『魔法の型(マギ=カタ)』と表現した。



 僕は格技場の真ん中でイレーナと睨み合う。距離は約7m。

「では両者向かい合って」

 もう、向かい合っている。たとえ相手が婚約者でも、相棒でも、最愛の人でも、今は『相手』だ。容赦など存在しない。手加減はない。


 二人共、棒立ちだった。場に、異様な雰囲気が漂っている。誰かが生唾を飲む音が聞こえた気がした。僕だったのかもしれない。そんな事も分からないほど、他の事に気が回らなかった...否、回せなかった。それは彼女も同じだろう。瞬きすら出来ない。


「始めッ!」


 開始の合図が聞こえた。



     ◇◆◇◆◇



 確かに、開始の合図はあった。しかし二人にとっては目が合った時から既に始まっている。だから僕達は合図で動かなかった。

 10秒経ったか1分経ったかは分からない。けれど、誰も野次を飛ばせなかった。そういう雰囲気では無かった。


 ようやく、僕が1歩踏み出す。ゆっくりと、そろりとだ。正面にではなく、斜め左に進む。それに合わせてイレーナも僕の斜め右側に進み出す。

 僕達はゆるやかな円を描きながら進む。まるで格技場の中心に穴でもあるかのように思えた。しかし、少しずつ距離は縮まっている。


 激動の波が近付いている。静かな足音を鳴らしながら近寄ってくる。


 二人の距離は少しずつ狭まる。あと、5m、4m、3m、2m、遂には1mにまで近付いた。

 二人の動きが止まる。これ以上近付けば、始まってしまう。


 また、暫くの静寂が訪れる。自分の心臓の鼓動だけが耳に響いた。

 どちらかが魔法を使おうとすれば、『魔眼』でどちらも分かる。始まりはゆっくりとではいけない、突発的でなければ。


「...ッ!」


 最初に動き出したのはイレーナだった。魔法が右腕に集結して、掌が僕に向こうとする。

 僕は左の手首のあたりでそれを跳ね上げた。炎が僕の頭上をかすめる。それと同時に右腕で彼女に『石弾』を放とうとする、が彼女はそれを外側から足元に逸らした。『石弾』が地面を抉る。

 今度は彼女が払われた右手で狙う。僕も内側へ抑えられた右腕を上へ持って行ってそれを逸らし、更にその腕を掴んで捻る。彼女はそれを緩和するためにクルリとターンして掴まれた腕で放つ。

 僕もつられて回ったので水弾が僕の背中を掠め、僕は腕を離してしまう。

 二人は互いに魔法を撃ち合うがそれは全て右え左へ、下へ上へと流され、どれも当たることは無い。二人はまるでバレエかワルツでも踊るように格技場を動き回る。二人は絶対に離れない、常に1m以内で戦っている。

 払い、払われ、放ち、放たれ...しかし当たらない。

 何度か鎌鼬(かまいたち)が服を切ったかもしれない、何度か炎の弾丸が髪を焦がしたかもしれない。だが、かすり傷1つすら二人にはなかった。

 息をする事さえ難しい程に切迫した戦いの中で、僕の集中は極限まで研ぎ澄まされていた。

 魔法は絶対に当たらない。逆関節をとってコケさせようにも相手は僕と同じく歴戦の兵士だったイレーナだ。スルリとかわして攻撃に転じる。


 1歩下がって攻撃する。横ステップと半身で避けられ、また接近しながら攻撃してくる。少し屈んで避けながら僕も反撃するが、それは手を払ってそらされた。


 展開が変わったのは超接近戦が始まって30秒経ったかどうかの頃。


 目の前に手がかざされたのを右腕を自分に巻き付けるようにしながら一歩踏み込んで肘打ちをした。

「がァッ...!?」

彼女の胴に命中する。しかし、攻撃を食らいながらも左手で僕の横っ腹に石弾をお見舞いしてきた。

「ぐぅッ...!」

 僕達は2歩程離れ、そこから飛び退きながら攻撃する。当然、これだけ離れれば眼で見て避けられる。


 左ステップ、右ステップ、右半身。前進。

 攻撃を避けるうちにまた至近距離になる。今度は僕から攻撃する。右手を出すが、外側に払われた。しかし、同時に左でも魔法を放つ。イレーナの脚に当たった。しかし、彼女は左手で僕の右手を払いながらその手を攻撃してきた。僕の腕に雨が刺さる。


 腕一本に対して脚一本。こっちは手数が減るが向こうは動きが鈍る。どちらが不利か、攻撃すれば分かる。


 これで、決める。


「らァァッ!!!」

「やああァッ!!!」


 僕は上級風魔法の『波動』を、イレーナは上級水魔法の『水の爆発』を使った。

 イレーナは足が鈍っていた為に波動避けられず、僕は右腕が使えない為に水の爆発が起きる前に相殺出来なかった。


 両者とも吹き飛ばされる。


「...そ、そこまで!両者引き分け!」


 決着は.......つかなかった。

 二人共、倒れて動けなくなっていた。

 試合時間3分足らず、うち2分は向かい合っていただけの為実質の戦闘時間は1分に満たない。しかし、僕は30分ほど戦ったような気分だった 。

二人の実力は互角です。

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