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No.31 アンリ・エリオット

「両者向かい合って」

 その声で、格技場にいる二人の少女が構えた。


 片方は白髪の凛としたイレーナ。

 片方は金髪の豪としたアンリ。


 二人はただ黙して勝負の始まりを待っていた。緊張感のある静寂が周囲を包む。


「始めッ!」


「撃ち抜け、ファイアバーン」

「アクアバレット」

 先に攻撃したのはアンリで、中級火魔法の『炎の弾丸』を打ち出す。イレーナは一切動じることなくそれを『水弾』で消し去る。『四属性の法則』に則った有利属性による効果的な相殺方法だ。


「切り裂け、ウィンドカッター」

「フレア」

 アンリが今度は中級風魔法の『鎌鼬(かまいたち)』を放つがイレーナはそれを特大の炎で喰らい、かき乱した。


「ッ!打ち砕け、ストーンバレット」

「ウィンド」

 アンリが放った『石弾』を風で軌道をそらす。また、攻撃しても有利属性で無力化されてしまう。

 多彩な攻撃を仕掛けるアンリもさることながら、イレーナの、攻撃に対する最適解を瞬時に判断して対応するのは流石としか言いようがなかった。


 まだ、二人は一歩も動いていなかった。8mという距離を保ったままである。

 周囲も騒然としている。これだけ高度な魔術戦など滅多に見れたものではない。


「スティックレイン」

 今度はイレーナの方から攻撃する。

「防げストーンシールド!」

 『刺さる雨』が目前に迫った所でアンリは何とか『石の盾』で弾き返した。『石の盾』は一瞬だけ前方に硬化した平らな石を顕現する魔法だが、2秒もしないうちに硬化が解けてサラサラと崩れ去ってしまう。アンリの『石の盾』も例外なく消え去った。


 だが、その『石の盾』がアンリとイレーナの視界を遮った瞬間に、イレーナは駆け出した。1秒あれば5mは距離を縮められる。アンリが気づいた頃にはイレーナは目の前だ。

「ッ!?フレアァッ!!」

 アンリは咄嗟に飛び退きながら右手をかざして炎で攻撃する。イレーナはそれを半歩アンリの右側に移動して避けながら彼女に詰め寄った。

 この距離になれば魔法を唱える暇など存在しない。イレーナはアンリの右足を右手で下からすくいながら、左腕を薙ぐようにして胴体にぶつけて彼女を押し倒した。イレーナの左手に握られていた木製の短刀が、倒れたアンリの首元に添えられていた。


「そこまで!」

 決着だ。


 時間にして1分足らず。息をつく暇もない程の細かな攻防戦だった。両者共とても練度が高いことがわかる。


 イレーナがアンリの手を取って起き上がらせる。アンリが何か喋ってイレーナもそれに返事をしている。声は聞き取れないが二人の表情を見るに感想を言い合ってるのだろう。わだかまりが出来たようでは無かった。


 周囲の会話に聞き耳をたててみる。

 「あのアンリ様でも勝てないとは...」「一体彼女は何者なんだ?」「美しい...」

 それらの言葉から分かる通り、イレーナはもはや注目の的である。これだけ強いのだから当然だろうが、最後のは聞き捨てならなかった。

 ...イレーナは渡さないからな。


二人が戻ってくる。

「二人共お疲れ様。いい試合だったよ」

「イレーナちゃん、強いね!さすが!」

 僕とリーフェがそう言うと、アンリはちょっとはにかみながら「有難うございますわ」と言った。イレーナの方も少し微笑みながら「有難うございます」と言った。

 イレーナが僕の隣に座る。


「さて、次が決勝戦。最後の模擬戦ですが、まずは勝ち残った二人を紹介します」

 ミズーリ先生が僕達の所に歩いて来ながらそう言った。


「まずは1番アルバート君。拍手!

 アルバート君、自己紹介してくれる?」

 先に僕が紹介され、周囲が拍手する。なんと言うか、これは気恥しいな。こういう事には慣れていない。

 僕は取り敢えず立ち上がった。

「...えっと、アルバート・シュティーアです。歳はもうすぐ12で、皆さんより年下だと思いますがこれから宜しくお願いします」

 簡単に挨拶をして座る。また拍手が起きた。

「次は2番イレーナ・ルセイド君。拍手!

 貴女も自己紹介をお願いします」

 今度はイレーナが紹介される。彼女は立ち上がって言った。

「イレーナ・ルセイドです。歳はアルバートと一緒で11歳。彼と婚約しています。彼に手を出さないように」


 自己紹介としてはかなり過激的なものだった。特待生を除く周りの生徒がざわめき出す。

 ...それにしても、『彼に手を出さないように』か....嬉しいが恥ずかしい方が先に来る言葉だな。


「ま、まあ。そういう事で!今からこの二人の決勝戦を行います。拍手!」

 ミズーリ先生が場を取り繕おうとして言う。周囲は拍手をしながらも隣の者と話したりしていた。特に、女子は楽しそうというか興奮した様子である。


「では、二人共前へ」


 イレーナが武器を取りに行こうとするが、僕はそれを引き止めて小声で言った。


「なあ、レーナ。素手でやり合わないか?」

「構いませんが、何故です?」

「魔法と近接格闘を組み合わせた至近距離での戦いをしてみたいと思ってな。

 そう、銃の型(ガン=カタ)ならぬ魔法の型(マギ=カタ)だ。」

「...本当に好きですね、その映画の事。」

 僕が前世の映画の話をしながら提案すると、イレーナはクスリと笑った。

「でも、やってみたいと思わないか?」

「ええ、興味があります。やりましょう」

 イレーナは優しい笑みを闘争心のあるモノに変えてニヤリとした。


 さあ、決戦だ。

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