No.30 リーフェ・フリードマン
さて、一通り全員が戦闘を終えると、勝ち残りで二回戦となった。僕、イレーナ、アンリ、リーフェの4人はぶつかる事が無かった。
僕やイレーナは最低限の魔力と動作で相手を倒し、アンリやリーフェは得意の魔法で相手を圧倒した。
さて、三回戦だ。これに勝てば決勝進出である。
急に始まったこのトーナメントは、ミズーリ先生が生徒の実践能力を測っているのだと予想している。ようは『自分が今どれだけ戦えるか』を自覚させているのだろう。
二回戦を勝ち残った者は番号の数字が少ない者(つまりは試験の順位が高い者)ばかりだった。...と言うよりか、ガルムを除く特待生の4人が勝ち残った。
「では、三回戦を開始します。1番アルバート・シュティーア、4番リーフェ・フリードマン。前へ」
どうやら、僕やるのはリーフェのようだ。つまり、イレーナはアンリとである。これを勝ち残れば決勝だ。
武器を取りに行こうとすると、リーフェが近寄ってきた。
「アルバート君。私ね、君に勝てないって分かってるよ。君は私の何倍も強いから」
急にリーフェが喋り出した。あろう事か『自分は負けると思っている』と言い出す。だが、その顔に見えるのは負けるからやる気が起きないだとか勝てないから悔しい、などの負の感情ではなく至極真剣なものだ。その顔でリーフェは宣言した。
「...でもね、必ず君に一撃食らわせるよ」
勝利宣言とは程遠い消極的なものだが、そのそう意気込む彼女はまるで荘厳な山を登頂せしめんとする登山家のような様子だった。
「...ああ、僕も手加減しないぞ」
「どんとこい!」
僕は一、二回戦と同様に木製の短刀を手にする。リーフェも相変わらず素手だ。
「それでは、両者向かい合って」
僕達は格技場の中心で向かい合う。リーフェとの距離は約7m。一気に接近して組み伏すには距離が遠い。彼女も僕の戦い方を見ているから、その場に棒立ちしたままで魔法を使う事は無いだろう。それに、彼女の戦い方は積極的な攻撃型だ。それなら、こちらは受け身でいいかも知れない。
いや、彼女は僕に一撃食らわすと言った。彼女特有の意表を突く戦い方に翻弄されるかもしれない。なら、最初から攻め込んで先に彼女の先手を打つか?
僕は体制を低く構える。リーフェも同じく低く構えた。
彼女は上級魔法を扱う事は出来ない、しかしそれでも彼女の手数は豊富だ。更に、光魔法に関しては中級も無詠唱で発動できる。彼女が以前言っていた『光魔法は得意』と言うのはそういう意味だろう。光魔法は『火風土水』の通常の4属性とは違って特殊な魔術が多い。何をして来るかは予想出来なかった。しかし、相手の手を読もうとしているうちに戦いの火蓋は切って落とされる。
「では...始めッ!」
最初に飛び出したのはリーフェだ。僕は結局受け身に回ることにした。何をされるか分からないなら、何をされても良いようにしようという訳だ。
走り、詰め寄ってくる彼女の手に魔力が集結するのを僕の『魔眼』が捉えた。
(来る...ッ!)
集結している魔力は多くない、詠唱もない、光の初級魔法だ。
「らぁッ!」
リーフェがそう叫んだ瞬間に、手元が光る。『閃光』、光の目眩しだ。視界が全て白に染まった。目を閉じても視界が白い、魔眼も使い物にならなかった。しかし前世の閃光発音筒とは違い、音はない。耳は使えた。ならまだ戦える。平衡感覚も狂っていない。
タッタタと足音が左側に移動する。音は確実に近付いていた。
(今だッ!)
僕は足音の方に初級の闇魔法『闇の茨』を放つと同時に後ろに飛び退いた。闇魔法と光魔法は互いが弱点という特殊性を持っている。最も光魔法に対抗しうるのは闇魔法だった。
「きゃっ!?」
当たったか、そうでないにしても彼女の近くに飛んだのだろう。彼女の可愛い悲鳴と共に足音がたたらを踏むように不規則になる。
僕は目が見えないまま飛び退いたので脚を踏み違えて転げたが後ろ受け身を取って立ち上がった。まだ視界は白いままだ。
「まっだまだぁッ!」
リーフェが叫んで地面を蹴った音を鳴らす。
「そこォッ!」
それに応えるように僕は魔法を発動する。水の中級魔法『刺さる雨』だ。数多の水滴が指定した方向に勢いよく打ち出される魔法だ。それなりに拡散するが、まともに狙えない今なら丁度いい。『刺さる雨』は貫通しないまでも強い衝撃を与える。まるでゴム製の弾丸を打ち出す散弾銃の様に。
「ぐぅッ!?」
それを打ち出した瞬間、僕は脚に痛みを覚える。しかし唸る声を出したのは僕だけじゃない。
「がッ!はぁッ!?」
どうやらリーフェにも攻撃が当たったようである。
段々と眼が見えてきた。脚を見れば『光の矢』が刺さっている。次に周囲を見渡せばリーフェが倒れていた。
「ッそこまで!二人共大丈夫!?」
僕は『闇の茨』を光の矢に当てて相殺した。そして自身に回復魔法をかけてリーフェの方に歩み寄る。ミズーリ先生も駆け寄ってきた。
リーフェは、左肩から腹にかけて打撲していた。彼女は満身創痍だと言うのに満足げに笑っている。
「ふふ、どう?一撃食らわせたでしょ?」
「ああ、本当に強かった」
僕はそう答えながら彼女に回復魔法をかける。
「アル、リーフェを背負います」
イレーナが来て、リーフェを担いだ。
リーフェは、実に強かった。僕が最初攻めていたとしても反撃として『閃光』を使われて無力化されていただろう。
僕は、彼女の戦闘のセンスを実感すると共に無詠唱魔法の恐ろしさを再認識した。
「次は、2番イレーナ・ルセイド。3番アンリ・エリオット。前へ」
さて、次はイレーナとアンリの番だ。




