No.29 個性
格技場の中央に2人の少年少女が向かい合っている。
少年はその手に木製の槍を持ち、少女は彼女の足より少し長い位の木刀を手にしていた。少年の方は少しばかり身震いしているのが遠目から見ても分かった。
少年はガルム、少女はアンリだ。
「両者、向かい合って」
その声で二人は姿勢を低くして構える。
一瞬の沈黙。
「始めッ!」
そして開幕。
先に飛び出したのはアンリだ。走りながら手をガルムに向ける。
「撃ち抜け、ファイアバーン」
極限まで簡略化された詠唱で彼女は中級の火魔法を放った。打ち出された『炎の弾丸』はガルムに向かって一直線に向かう。
「ひぅッ...!!」
ガルムが後方に転がってなんとかと言ったように避ける......
いや、これは違う。腰が抜けたのだ後ろに下がろうとして腰が抜けて転けたのだ。その間もアンリはガルムに迫っていた。彼女がまた手をかざす。
「捕らえろ、ソイルバインド」
今度は土属性の中級魔法だ。ガルムの足元に硬化した土が生成され、彼の脚を縛り付けた。彼はもう動けない。
「あ、ぐッ...!?」
脚を抜こうにも硬く、地面に同化した『土の鎖』は彼をその場に縛り付けている。
彼がしどろもどろしている間に、アンリは2mにまで近づいていた。
「う、あああああッ!」
ガルムが槍を横に薙ぐ。咄嗟の攻撃が、ぶおんと低い音を鳴らしながらアンリに迫った。
「なッ!?..うッ!!」
予想外の攻撃だったのかアンリは反応しきれず攻撃をモロに食らった。しかも顔に。
「あ...ごめんなさ...ッ!」
当てたガルムが謝ろうとするがアンリは構わず木刀を首元に突き付ける。
「そこまで。...アンリさん大丈夫かしら?」
「ええ...我を癒せ、ヒール」
彼女が回復魔法を唱えると、赤くなっていた彼女の頬がみるみる元に戻ってゆく。彼女は未だに縛り付けられているガルムに近寄った。
「大丈夫かしら?ヒールは必要?」
そう言いながら土魔法で『土の鎖』を逆にさらさらの土に戻した。
「だ、大丈夫です...あの、当てちゃって...ごめんなさい」
「あら、気になさらなくて良いのよ。これも訓練なのだし。貴方も戦闘中に謝ったりしてはいけませんのよ」
アンリはそう言って格技場を出る。遅れてガルムも出た。
周囲の声が聞こえる。
「魔法も使ってないじゃないか」「女子の顔に当てるなんて最低ね」「臆病者」など、大抵はガルムの悪口だった。
「次、4番リーフェ・フリードマン。8番サドン・オークス」
今度はリーフェだ。彼女は武器をとらなかった。対して相手のサドンは盾を手に取った。
「では両者向かい合って...始め!」
サドンはどっしりとその場に構えて盾の上から右手をかざした。彼は風の中級魔法を唱え始める。
それに対してリーフェは横側に走り出した。格技場の側面をなぞる様に走る。
丁度、一周した位のところでサドンの詠唱が完了した。
「...そして全てを切り裂け、ウィンドカッターッ!!」
彼が魔法を発動した瞬間に『鎌鼬』が生成される。しかし、高速で走るリーフェには当たらなかった。
「私は捉えられないよ!」
「チッ...!」
一見して、サドンが走り回るだけのリーフェに手を焼いている様に見えるが、そうではない。
彼女は、リーフェは下準備をしていた。しかも、既に魔法は使用している。光の中級魔法だ。しかも、無詠唱で。エルフが持つ『魔眼』で魔素を確認しなければ分からないだろう。
彼女は見えない『光の縄』を生成し、サドンを中心に囲んでいた。
そしてそれが繋がった時、『光の輪』となり、縮小を始める。輪の内側にあるモノは何もかも、締め上げられる。
これが、光の中級魔法が一つ『光の輪』だ。動き回るモノをこれで捕らえるのは困難だが、相手が動かないのなら絶好の的だ。
彼女は『光の輪』の使い所を理解していた。
「う、がッ!?」
気付かぬうちに囲まれていたサドンは急に起きた事に理解が追い付いていないようである。好機到来と言わんばかりにリーフェが進路をサドンに変更して突っ走る。
「ッ!燃やせ、フレアッ!」
距離があと2歩となった所でサドンを捕らえていた光の輪が消滅し、彼は無理やり発動した火の初級魔法をリーフェに向けて放つ。大量の魔力を使用して放った為、威力は高いがその炎で彼自身も前が見えなくなっている。
その間に、リーフェは右へ避けていた。
「フラッシュ!」
リーフェがそう言った瞬間に周囲が光った。サドンは目眩しをされて前が見えなくなっている。
「そこぉ!!」
彼女は『光の縄』を2本、サドンの足元と腕の部分に打ち出す。彼は見事に捕えられてしまった。
「そこまで!」
決着だ。今回は極めて特異的で予想外な試合だったが、こうして見るとそれぞれが違う戦い方をしていたりして参考になるし、何より面白いな。
「では次...」
模擬戦闘はまだまだ続いた。
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