No.22 令嬢
「失礼しました」
部屋を出ると、その側にイレーナが立っていた。少し心配そうな顔をしている。
「何があったのですか...?」
「いや、大した事じゃ無かった。魔石が割れたのは老朽化していたからで、僕は弁償しなくて良いみたいだ。
もう一度、別の魔石で測ったら白の中だった」
一応、この場ではこう言っておこう。誰も聞いていないとは思うが、一応ここは「外」なのだし。イレーナには寮の部屋に戻ってから言おう。
「そうですか、なら良かったです。寮に戻る前に昼食の買い出しに行きましょう。丁度時間もお昼ですし」
「ああ、外食でも良いかもしれないな...
...それにしても、レーナは驚かないんだな。2人とも白だったのを。僕は結構驚いたんだが...」
「当然です。私達はずっと前から魔法の訓練をして来たのですから...それに、私達は女神様にも認められたのですよ?」
「...はは、確かにそうだ。御伽噺みたいな力はもう持っていたな」
そう言って、僕達は学園の門の方に歩いて行く。
周りを見れば、受験者だったのだろう者がそこかしこに何人か居たが、誰も僕達の事など気にした風では無かった。唯、1人を除いては。
彼女は、正面門の辺りで、立っていた。そして、じっとこちらを見つめている。彼女には見覚えがあった。確か....
「少し、宜しいかしら?」
そんな事を考えていたら彼女の方から話しかけてきた。彼女は続けて喋り出す。
「私はアンリ・エリオット。保有魔力量は赤の上でしたわ。これでも将来を期待されていましたの。
イレーナ・ルセイド様。貴女の魔力は素晴らしいですわ!きっと並々ならなぬ鍛錬をなさってきたのでしょう。感服いたしますわ」
確か、彼女は教室にいた受験者の1人だ。しかも、2人しかいなかった赤のうちの1人だった。
彼女は長いブロンドの髪をなびかせ、淑女然とした振る舞いをしている。身に纏っている衣服は明らかに高級なもので彼女の後ろには2人ほど使いの者が見える。恐らく彼女は上級貴族だろう。イレーナもそれを察してか丁寧な言葉遣いで返す。
「お褒めの言葉。有難うございます」
「そんな、畏まらないで下さいませ。同じ魔法の鍛錬をする者として素直に尊敬しているのです。もし良ければ貴女の事をもっとお聞きしても宜しいかしら?」
「ええ、また時間がある時に是非」
イレーナも、好意を向けられて吝かでもなかったのかそう返した。するとアンリは思い切ったように言う。
「で、では。今からでもどうでしょう?丁度、お昼時ですし、一緒にお昼でもいかがでしょう?」
イレーナが困ったような反応を見せ、そして僕の方を向いた。僕に「どうしましょう」と言ったイレーナを見て、アンリは漸く僕の存在に気が付いたようだった。それ程までにイレーナの事が気になっていたのだろう。アンリが僕の事を質問する。
「そちらの方は...?どなたですの?」
僕は失礼の内容に自己紹介をした。
「アルバート・シュティーアと申します。イレーナとは、婚約関係にあります」
「なんと、そうですの!では貴方様もご一緒にいかがでしょう?」
「僕は構いませんが...レーナは?」
「私も、アルが構わないのなら」
僕達が良い反応を示したので、アンリは嬉しそうになって言った。
「本当ですの!?では、そこに馬車を待たせておりますのでどうぞ付いて来て下さいませ!」
彼女が門の外に待機している馬車を指差し、そちらに向かって歩いてゆく。僕達もそれについて行った。
馬車に近付くと、馬車の側に立っていた彼女のアンリの従者であろうメイドが扉を開ける。馬車も僕達が旅で乗った荷馬車のようなモノではなく、箱型で、側面の扉から中に入られるようになっている。中も豪華だった。赤を基調としており、座席はフカフカのソファだ。上を見れば採光用の曇りガラスを用いた天窓まであった。
僕達が座席に座ったところで、馬車はゆっくりと動き出した。
「...では改めて、私はアンリ・エリオットですわ。エリオット家の長女で、父は我らが陛下より侯爵位を賜っております。
エリオット家はこれまで多くの『王族近衛騎士』を輩出してきた名家ですわ。父もそうでした。......私も、騎士になって陛下をお護りしたいと思っております。それが、憧れなのですわ」
そう語る彼女の眼はキラキラとしており、彼女の、父や王族近衛騎士団への想いが見て取れる。
「しかし、王族近衛騎士団は精鋭揃いです。今の私など、足元にも及ばないほどに......いえ、保有魔力量だけなら私だって負けておりませんわ。けれども彼らは...彼らには技術があります。自身の実力を最大限に発揮できる技術が...!
私はそれを学園で身に付けるつもりですわ。
....イレーナ様、貴女はその術をお持ちのように見えます。ですから、貴女と仲良くして、あわよくばその術を盗めればと思っていますわ」
随分と明けっ広げ性格だなと感じた。しかし、これで彼女を嫌いになれるような人はそうそう居ないだろう。彼女は誠実なのだ。
「そういえば、アルバート様。貴方の魔力測定の時に、魔石が割れましたわよね?何がありましたの?」
ふと思い出したように(いや、実際そうなのだろうが)アンリが言う。
ウォーデンに内密にと言われた以上、本当のことを言う訳にはいかないので、誠実な彼女に嘘をつくことになるが、ウォーデンに言われた通りの事を言った。
「実は魔石が老朽化していたらしく、それで割れたようです。それで、学長室にある魔石で測定しました」
「そうですか。それは災難でしたわね...ところで、結果はどうでしたの?」
これも、ウォーデンに言われた通りに言う。
「えっと、白の中でした」
「な...白...!?お二人揃って...!?」
アンリは、驚愕を通り越して最早困惑していた。
「よもやこんな年に入学する事になるとは...これでは学年主席の座が...いえ、これは逆に好機ですわ...」
しかし、何か呟いてから気を取り直す。そして決心したような顔になった。
「お二人に、お願いがあります」
少し長くなるのでここで切らせて頂きます。




