No.21 実力
その音は、この部屋にいた全ての者の意識を、イレーナから奪うのに十分なモノだった。
僕が、魔石に触れ、魔力を注いだその瞬間。
パキンッ!と嫌な音が教室中に響き渡る。
魔石が、割れたのだ。勿論、僕は無闇に力を加えた訳では無いし、落とした訳では無い。ただ、魔力を注いだら割れたのだ。
「な......」
教師の女性が青ざめた顔で僕を見る。それもその筈、この魔石は希少価値がすこぶる高く、高価だ。これを壊したという事は、弁償しなくてはいけない...弁償、そう弁償だ。土竜を倒した報酬で足りるかだろうか。足りないかもしれない。それ位に高価だ。
「あ、貴方は...今から私に付いてきなさい。
他の者は...外に居る関係者が案内をしてくれます。くれぐれも話を聞き逃さないように...」
教師の顔色や口調から、ただならぬ雰囲気を感じる。
「アルバート君...付いてきなさい。こっちです」
そう言われたので、僕は彼女の後ろに付いて行った。この道は、職員室の方だ。
「...私は、ミズーリ・エヴァーズマンです。覚えておいて下さい。
貴方には話したい事があります。重大な話です」
そう言っているうちに、彼女の足が止まる。職員室のある廊下の突き当たり、両開きの扉の前。ウォーデンのいる校長室だ。彼女が扉をノックする。
「...ミズーリです。至急お話したい事があります」
「...入れ」
中からウォーデンの声が聞こえた。彼女は「失礼します」と言って扉を開ける。
奥に座っているウォーデンが見えた。真面目な顔をしていたが、僕を見て少し表情を和らげる。
「なんだ、アルバート君ではないか。今は、まだ試験をしているものと思ったが、もう終わったのか...?」
「学長、彼の事でお話が」
僕へ投げかけられた言葉を遮るようにミズーリさんはスパッと言う。
「...話してくれ」
それを見て、ウォーデンの表情が再び険しいものに戻った。彼女の放つ深刻な雰囲気に気が付いたのだ。
「実は、彼の、魔力量測定を行ったのですが...
彼が、魔力を注いだ所...魔石が割れました...!」
「な、なんだと...それは、本当か...!?」
ウォーデンまでもが、先ほどのミズーリさんと同じ反応をする。なんだか、不味い展開なので僕は慌てて話に割り込んだ。
「あ、あの。魔石を壊した事はお詫びします。弁償もしますから、どうかお許しを...」
「...いや、アルバート君。私が驚いているのは、君が魔石を壊したことじゃない...
私が驚いているのは、魔石を壊した君に対して驚いているのだ...!」
いまいち、話の流れが分からない。それに、なぜ魔石が壊れたのかも、僕は理解出来ていない。ただ、魔力を注いだだけだと言うのに、なぜ。
「アルバート君。彼女は、ミズーリ君はこの学園の生徒時代から魔石について研究している。魔石の専門家だ。特に、その『魔力測定石』については、彼女がこの国で、いやこの世界で最も詳しいのだ。
詳しい事は、彼女が説明してくれる」
そう言われて、ミズーリさんは前に出てこちらに振り返った。深刻そうな顔はもうしていないが、真剣ではある。
「『魔力測定石』は、実際に魔力を測るわけではありません。実際に測っているのは魔力の質だと私は考えています。
...そもそも、個人が保有できる魔力の量は、種族が違ったとしても大差はありません。しかし、同じ魔法を魔力枯渇まで何度使えるかは個人差がある。では、何が違うのか?私が考えたのは魔力の質です。
体内に質の良い魔素を持っているかで魔法の発動における魔素の消費量が変化する...例えば質の良い魔素なら少ない魔素で大きな効果が出て、質が悪ければ多くの魔素でも大した効果が出ない。そして、それは鍛錬を続ける事でより質の良い魔素を蓄えられるようになる。
あの魔石は、その魔力の質の違いに反応して色を変える性質を持っているのです。
これは、保有魔力量が青の中の人と赤の中の人が同時に同じ量の魔力を『魔力測定石』に送り込む実験で、魔石が『2人の魔力を足した赤の中以上の色』ではなく『2人の中間色の緑』になった事から証明されました。
そして、もしこの魔石の許容範囲を越す程の質の魔力を送り込めば、どうなるのか。
...これは、私の憶測だったのですが、『魔石は反応しきれず、自己崩壊を起こす』のではないか、と考えていました。つまり、魔石が割れるか、粉々になるのではないかと....
そして、貴方が魔力を注いだ時、魔石は割れた。
私は、貴方が魔法や暴力で物理的に割ったのではないのをしっかりと確認しています。つまり、魔石が自分から崩壊したと言うことです。
これは、貴方の魔力が魔石の許容範囲以上...白の更に上の階級であるという事です。
白でさえ、兵士5千相当の力と言われているのに!
この事が他国に知られれば、貴方は命を狙らわれるかもしれない。それ程までに危険です」
ミズーリさんの説明が終わる。彼女の言葉には熱がこもっていた。それだけに説得力は絶大だ。
「そういう訳だ。アルバート君、君は....そうだな、白の中という事にしておこう。それでも十分に規格外だが、許容外よりはマシだ。
魔石については、老朽化による破損と言うことにして誤魔化しておこう...」
という訳で、僕には魔石についての話は内密にする事と、魔石の弁償はしなくても良い、事が決まって僕は開放された。
ようやく、「無双」の「む」の字が見え始めました。
次回もお楽しみに!




