No.20 入学試験
試験当日、これまで数人の関係者や在学生(この時期は殆どの生徒が実家に帰っているらしい)、教師を見た程度であった学園敷地内が人で賑わっていた。
500人近くの入学希望者が毎年訪れ、そのうち合格するのは100名程度。それで20人の5クラスを作るらしい。
最初は筆記試験で、申し込みを完了した者から番号を貰い、会場(という名の教室)に入ってゆく。僕達は朝早くから行ったのにも関わらず39番と40番だった。席が埋まれば頃合をみて開始となる。僕は最初の教室の最後だった。
周りを見れば、様々な種族の人がいた。犬や猫のような耳が生えた獣人族がいれば、角のある魔人族も見える。しかしやはり、大半は人間族であった。それに、同族の長耳族は見えなかった。
殆どの人が裕福そうな服を身に纏っている。大半が貴族か裕福な家庭なのだろう。
周りを観察していると、一人の女性が入ってきた。20代であろう人間族の女性だ。凛とした雰囲気で他を寄せ付けない威圧感があった。この人は学園内で何度か見かけたことがある、教師だ。
「この教室は全員揃ったようですので試験を開始します。
全員席につき、姿勢を正して。不正が見つかれば直ちに失格とさせていただきます。
...では、始め」
筆記試験は数学、国語、史学、魔術に関しての問題をそれぞれ掻い摘んで出題していた。2時間ほどで制限時間となり、筆記試験は終了する。それほど難しくは無かったので点数は良い方だろう。
「では、次に保有魔力量の測定を行います。1番の者から前に来なさい」
肝心の魔力測定が始まった。教師が30cmほどの歪な球体状の水晶らしきものを取り出す。これが保有魔力量を測定する魔石だ。希少価値が高いために高価で、学園でもなければ置いていない代物だ。
「この魔石に手を当てて魔力を流しなさい。保有魔力によって色が変わるので、その色で階級を付けていきます。
色は少ないものから順番に紫、青、緑、赤、黄、白の6種類、更にそれぞれの色ごとで上中下の三段階の評価があります。宜しいですね?
では1番、ガルム。前へ」
「は、はい...!」
番犬か...前世では北欧神話に登場する冥界の番犬だが、名前の割にひ弱そうな人間族の少年が出てきた。まあ、前世の話を現世に持ち込んでも仕方が無いのだが。やはり先入観というモノが働いてしまう。
「...緑の下です。
次、2番アンリ・エリオット」
「はい」
次に名前を呼ばれた人間族の少女が前に出てくる。自信に満ち溢れた様子で、身なりはザご令嬢と言った感じ。
「...赤の上です。流石ですね...
次、3番....」
と言ったようにどんどんと測定が進んでゆく。一人1分もかからない感じだ。
大体の試験者の測定が終わった。殆どの者が青か緑で、赤は最初のアンリ・エリオットという少女ともう一人、獣人族のリーフェ・フリードマンという少女の2人しかいなかった。
それもその筈、保有魔力量というのは「赤の壁」というモノがあるらしい、保有魔力は訓練すればする程増えるが、大半の者は赤の手前の緑で止まってしまうのだ。それを越えるには相当の鍛錬か才能、あるいはその両方が必要になってくる。
緑と赤の間にはそういう、才能の差がある。
例えば、前世での日本の警察には9段階の階級があるが、警察全体のうち95%は真ん中の階級よりも下なのだ。魔力の差もこれと似たようなモノで、赤以上など滅多にいない。だから、赤が出た時は皆感心し、尊敬の念を送っていた。
「...次、イレーナ・ルセイド」
「はい」
イレーナが呼ばれた。いよいよ彼女の番だ。前の教卓に行って、魔石に手を当てる。光が集まって(当然、僕とイレーナにしか見えていない筈だ)魔石の色が変わり出した。
結果は...白。濁りの無い綺麗な真っ白だ。
「なんと...これは...」
教室中がざわめき出す。当然だ、白なんて昔話や絵本で位しか聞いたことが無いような階級だ。周囲からも「嘘だろ...」や「信じられませんわ...」などと言った声が聞こえる。
実際、僕も驚愕している。しかし、当の本人は「当然」と言わんばかりのすまし顔だった。
「も...もう一度、測定しても宜しいですか.....?」と教師の女性が絞り出すように言った。イレーナは鷹揚に頷いて、もう一度魔石に触れる。
結果はもちろん白だった。眩いまでに綺麗な白。教師が愕然としている。
「まさか、これ程までに素晴らしい逸材がその名も知られていないなんて...」
「誰でも、最初は無名です」
イレーナはそう言って席に戻る。恋人の贔屓目なしに見ても格好良い。
最早、この教室に居る者の全てが彼女を畏敬しているのが分かる。
「...つ、次...40番...アルバート・シュティーア......」
教師は何とか気を取り直して言った。周囲の意識がイレーナに向いた中での測定だ。誰も、僕のことなど気にしていなかった。
アルバートの測定は次回になります。




