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No.01 転生

 ふと気がつけば、僕は何時の間にか青い草原に佇んでいた。

 (此処(ここ)は一体...?)

 ぼんやりと思考する。今の今まで私は戦場に居たハズだ、と。

「はい、貴方はほんの一分前まで戦場に居ました」

 急に後ろから声がした。僕は振り向く。

 何の気配も無く、湧き出たかのように現れた声の主はまるで神のような美しさと雰囲気を纏った女性だった。

「神のような、でなく神なのですがね」

 思考を読んだかのように彼女は言う。

 いや、読んだのだろう。彼女が神様だというのならそれも納得できる話だ。

 そして、恐らくだが私は死んだのだろう。

「はい、察しが良いようで何よりです」

 やはりそうなのか、だが悲しい気は起きないな、これ迄多くの人を殺してきたからだろうか。多くの命を奪って、自分までも生に執着しなくなっていたか。

「いえ、貴方は死んだことを後悔しています。只、私がそれを薄れさせているだけです」

 そうか、僕は死んだ事に後悔しているのか、だがどうしようも無いな、もう生き返ることは出来ないのだし。

「確かに、貴方が生き返る事は叶わないでしょう」

 (では、僕が此処に居るのはあの世に行くためですか?)

 僕は目の前の神様に問いかける。もしそうであれば私は天国とやらには行けないだろう、私が殺した人殺し共の居る地獄に放り込まれるに決まっている。

「いいえ、この世界にはあの世と言うのは在りません。強いて言うならここがあの世です。しかし、此処に留まるのもほんの少しの間だけ、すぐに魂魄(こんぱく)を浄化し、新たな肉体にまた宿すのです」

 所謂、魂の輪廻というヤツだろうか。だが、そんな事をして何になるというのか、ふと疑問に思う。

「ふふ、元々は暇な神様のお遊びでした。しかし、今やそれは私達の生き甲斐になっています。一人一人の紡ぐ運命の物語は筆舌に尽くしがたく、私達が考える物語の何倍も面白い。貴方たちは、私達の退屈だった日々を潤す糧となっているのです」

 そういう物なのだろうか、僕には分からない話だ。

「そういう物なのです。そして、貴方たちの居た世界は特段に私達との関わりが少なく、独自の発展を遂げてきました。そんな世界で過ごした貴方が、前世の記憶を持ったままで、また別の世界で生きることになったらそれは面白い事になると思いませんか?」

 神様が怪しげな事を言う。つまり其は、僕が別の世界で生まれ変わるという事だろうか。

「はい、お察しの通りです。貴方はもっと生きたかったようですし、悪くない話だと思いますが」

 確かに、それも良いだろう。けど、僕にはもっと生きたかった理由がある。それが叶わなければ生まれ変わる意味などないのだが。

「分かっています。貴方と運命を共にした女性と会うことでしょう?」

 さすがは神様、お見通しか。

 そうだ。僕は彼女と、カチューシャとまた会いたいんだ。彼女と共に時を過ごしたいんだ。

「ええ、だから彼女も同じ世界に転生させます。いつか、向こうでも会うことが出来るでしょう。だから、転生してくれますか?」

 カチューシャに会えるなら僕は躊躇しない。転生でもなんでもしてやる。

「良い覚悟です。既に貴方の魂はその世界に順応させています。その影響で少々変化も有りますが、殆ど変わりはありません。強いて言うなら一人称程度でしょうかね」

 言われて、初めて気が付いた。確かに自分の一人称が私から僕に変わっている。でもその程度の変化なら別に関係ないだろう。

 僕の準備はもう出来ている。

 さあ、僕を転生させてくれ。

「それでは、貴方を転生させますね。貴方が長生きできるようにしておきます」

 そりゃ有り難い。長生きできるに越したことはないしな。

 そんなことを考えているうちに段々意識が遠のいてきた。これが転生か、何だか眠りに落ちるような感覚だ。

 私はゆっくりと意識を閉じる。

「そうそう、言い忘れていましたが、今度の世界は『ザカート』。前の世界より私達との繋がりが深い世界です。目一杯(めいいっぱい)生きてくださいね」

 その言葉を最後に、僕の思考は完全に停止した。


 これが、新たな人生の始まりである。

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