No.17 司教
バドミール・カヒトという人は、意外な場所にいた。
「ここはザカート教の教会で、この王都で最も大きい教会だ。熱心な教徒も多いから何時でも人がいるのだよ」
そう、ここは教会だ。バドミールという男は余程のザカート教徒なのか、或いは...神父か。
因みにザカート教と言うのはマーリア王国における主な宗教で大体の人間はザカート教だ。
ウォーデンが扉を開けて中に入る。
「ああ、これは。ウォーデン様ではありませんか」
深い紺の修道服を身につけた女性が出迎えてくれた。
「シスター、お久しぶりです。バドミールはいらっしゃるか?」
「ええ、事務室におります」
「そうですか、有難う」
そう言って彼はどんどん奥に行ってゆくので、急いで付いて行く。奥の部屋の前に来て止まり扉をノックした。
「ウォーデンだ。いるか?」
「おや、ウォーデンさんか!入っていいよ」
扉を開けたのはウォーデンと同じ位の歳であろう初老の男だった。白い祭服を身に纏い、にこやかな笑を浮かべている。彼がバドミールらしい。
「実はこの2人が君に用があるらしくてな」
「私にかい?...おや、小さきお方達だ」
バドミールは僕達を見て、慈愛の神のような表情を浮かべた。
「初めまして、アルバート・シュティーアと申します」
「イレーナ・ルセイドと申します」
簡単に自己紹介をしたところ、彼は少し驚いたような顔になった。
「シュティーアとルセイドといえば、あの人達の...」
「ああ。あの、あいつらの息子と娘だ」
「おお!やはり...!そうですか、遂にご子息が」
バドミールは、今度は嬉しそうな顔をして言った。表情豊かな人だ。
「そうだ、で。オンスからの手紙を預かったらしい」
僕はそれを懐から取り出して渡した。彼は受け取ると丁寧に封を切って手紙を取り出し、読み始める。途中途中で「ふむ」やら「ほう」やら言って表情をころころ変えるのだが何が書かれているのだろうか。
「どうやら、君達はとても大切にされているようだね。君達への言葉もある。読み上げよう...
『アル、イレーナ。元気にしているか?これを聞いている頃には1ヶ月も経って、もう4月に入ろうとしている頃だろう。これからの3年間良く頑張ってくれ。バドミールは俺の古い友人で、そちらでは良くしてくれるだろうから何かあれば頼るように』
そう書かれているよ。ああもう一つ...これは私に向けてだが、君達に力を手に入れる機会を、と」
彼が読み上げたオンスからの言葉は、彼らしいサッパリとした言葉でありながら心配しているのが分かる文であったが、最後の言葉は不可解だ。
「力...とはどういう意味なのでしょうか?」
すぐさまイレーナが問う。
「うん。これは私の仕事にも関係するのだがね...ではイレーナさん、私は何の仕事をしているように見えるだろうか」
逆にそう問うた彼は、白い祭服を身に纏い、顔には慈悲深い笑を浮かべている。誰がどう見ても神父だろう。
「神父様でしょうか?」
「うん、そうだよ。私は神父をしている。その中でも私の役割は司教と言ってね、神様のお告げを聞いているのだよ」
司教、といえば相当な権力者だ。そんな人にまでなれば神様のお告げも聴けるのだろうか。この世界なら有りうるな。
「まだ、よく分かりません」
「うむ、私がしている事はそれだけではない。私を介して神様が信徒に力を授ける事も出来るのだよ。こちらがオンスさんが言っている事だね」
神から、力を授かる...だと?それはつまり、神様の言う『面白い事』を起こす為の火種ではないだろうか。かの人はこの世界に『面白い事』を求めていた。そういう事ではないだろうか?
「よし、それではその準備を初めましょうか。
しかし、君達には一つ忠告がある。力を授けられるのは才ある者に限られる。例えば強大な魔力を有していたり、強靭な身体であったり、神様への信仰心であったり、慈悲深い心であったりね。
まあ、滅多に授かれる者は居ないから、もし力を授かる事が出来なくても悲しまないで欲しい」
この世界で生き延びる力が貰えると言うなら、それに越した事はない。物は試しと言う事でやってみる事にした。




