No.16 学園
学舎の一角、職員室がある廊下を真っ直ぐ行った突き当たりに、両開きの扉がある。
僕らはそこへ立っていた。
「校長殿、失礼しますぞ」
「エルゲイか、入ってくれ」
中に入ると、壁一面の棚に本が並んでいた。奥に座っているのはウォーデンだ。彼は以前会った時とは違い眼鏡を掛けて書類仕事に勤しんでいた。
「何の用だ...と、おお!2人が到着したのか!
よく来たねアルバート君、イレーナ君!」
それまで落ち着いた雰囲気であった彼は僕達を見つけた途端に、まるで久しぶりに友人にあった少年のようにはしゃいだ。
「ご無沙汰しております。漸く到着いたしました」
「これから宜しくお願い致します」
「ああ、是非に宜しく頼むよ。エルゲイ、寮へ案内はしたか?」
「いえ、先ずはご報告をと思いましてな。これから案内するところであります」
それを聞いて、ウォーデンが嬉しそうに立ち上がった。
「そうかそうか!なら私が案内しよう!
エルゲイ、君は戻ってくれて構わないぞ」
エルゲイさんは「無邪気なお方だ」と笑いながら職員室に入って行った。
案内されたのは正門から見て学舎の右隣隣、食堂の前にある屋敷だった。
「ここが君達特待生用の寮だ」
「...寮、といった出で立ちではありませんね?」
僕も思っていた事をイレーナが訊ねる。
「ああ、ここは学園が出来る前からあった屋敷でな。元々はエルゲイが住んでいた。それを今は寮にして使っているのだよ」
大きさとしては小ぶりな屋敷だが、住むには十分すぎる広さだろう。
「...学園の設立当時はまだめぼしい生徒も居らんかったのでな、エルゲイがまだ住んでおったのだが、そのせいでついた名前が『エルゲイ荘』だ。君達はここで他の3人の特待生と暮らす事になる...
と言っても今はまだ君達2人しか居らんがな。はっはっは!
まあ、中に入ってくれ」
中に入れば、そこはリビングになっていた。さらに2階の廊下が吹き抜けになっており、一部が見えている。脇には2階に上がるための階段もあった。
「さあ、ここが集いの場になる中央室だ。
2階は君ら個人の部屋、左奥の扉は風呂でその隣がトイレ...
そこが資料室で、こっちは厨房。厨房から地下の保存室があって。
最後にそこが研究室になる」
ウォーデンはひとつひとつ扉を開けたりしながら紹介する。ただ、最後の研究室というのが気になった。
「研究室、ですか?」
「ああ、そうだ。ここでは個人で魔法や魔法具の研究ができる。これも特待生の利点だな」
成程、自由な研究も出来るのか。
「では、二人の部屋を紹介しよう。2階の一番奥だ。
その部屋はそれなりに広いものだった。壁に向かった机が2つにクローゼットが1つ、そして二段ベッド。
「ん、おや。ダブルベッドの方が良かったかね?」
「いや、まさか」
「...私は、それでも良いですよ?」
......冗談を言うなら、言葉を選んでほしいものだ。
「あ〜、まあその話は二人で話し合ってもらうとして。まずは荷物を運び入れてもらおうか」
そういう事で、ラルズ達と合流して荷物を部屋に持ってきた。それらの収納は後でやろうと思ったのだが、服だけでもクローゼットに掛けておこうと思って扉を開ける。
「!...これは...」
既に、2着の服がハンガーに掛けられている。
「ああ、それは学園の制服だ。サイズは私が目分量で選んだから合わないなら言ってくれ。取り替える」
そう言われたので上着を脱いでから着てみる。イレーナはロングワンピースのような服なのに対して、僕は執事服に似たものだった。どちらも黒を基調としており気品と落ち着きの見られるデザインだ。
「サイズもぴったりです。アル、どうですか?」
「似合ってるよ。とってもクールだ」
イレーナは褒められると、嬉しそうにする。
「お楽しみのところ悪いが、もう一つやらねばならん事があるんじゃないか?」
ウォーデンは、荷物から出して机の上に置いていた封筒をヒラヒラさせる。封筒の表には「バドミール・カヒト殿へ」と大きく書かれていた。オンスの手紙だ。
ウォーデンには手紙の事を話していないのだが、そう言えばオンスは彼の居場所はウォーデンに聞けと言っていたので共通の知り合いなのだろう。
「彼の元へ案内しよう。丁度時間もまだあるのだしな」
そういう事で、屋敷を出た。
「坊ちゃん、お嬢ちゃん。俺らは戻って報告しなきゃいけねえんでここいらでお別れになりまさあ」
ラルズ達とはここでお別れになってしまう。名残惜しいものだが仕方がない。
4人はモアルドに戻るというのでオンスへの手紙を書いて渡した。
いつかまた会う時があるだろうし、その時には酒も飲めるようになっているだろうから一杯やりたいものだな。
その後、ウォーデンの案内の下バドミールという人物がいる場所へと向かった。




