No.15 王都到着
「王都が見えてきたぞ!」
その言葉を聞いて僕とイレーナは荷台から身を乗り出して前方を見る。都市を囲むようにして築かれた外壁が見える。その高さは遠くから見ただけでも相当なものに感じられる。
「あと半時間もすれば王都につきます。それまでは外壁しか見えやせんが、中は見かけによらず広いもんで、家が多けりゃ店も多い。毎日が五月蝿いくらい賑わってますぜ」
五月蝿い位に、か。それもその筈、家にあったこの王都について書かれた書籍によればこの『王都ハリスク』が擁する人口はおよそ3万人、他の都市や町が多くても人口1万に満たないのを考えれば数の比が違うのがわかる。
王都ハリスクに近づけば近づく程、荘厳さが増してゆく。そうさせるのは外壁だ。高さは約25m、幅は3m、50m置きに設けられた監視塔によって防備は完璧。その威圧感が人々の王都に対する畏敬を引き立てるのだ。
「もうすぐ検問所でさあ。怖い兵士様が目を光らせてますぜ」
そう言った頃にはもう外壁は見上げるほど近くにあり、目の前には巨大な門があった。その側には小さな建物があり、その前に統一された鎧を着た兵士が門を通る者を審査している。
「...よし、次!」
その声で馬車がゆっくり前に進み、また止まった。
「貴様らは何の目的で王都へ来た?」
隙のない面持ち(怖い顔ともいうが)をした兵士が荷台を除きながらおやっさんに訊ねた。
「へい、後ろに居らっしゃるお2人をお運びする為でさあ」
むっとした顔の兵士が僕を睨む。
「君達は何の為に王都へ来た?」
「はい、王都魔法科学園へ学問を学びにやって参りました。
こちらが、学園長ウォーデン・チェーホフ様の推薦状になります」
そう言って二人分の推薦状と冒険者認識票を渡す。旅に出る前、王都に着いたらこの紙を検問所で見せるように言われていたのだ。認識票は、念のために渡した。
「ぬ、暫しお待ちを」
それらを受け取った兵士は、態度を変えて一度建物の中に入ってゆく。3分もしない間に戻ってきた。
「お待たせして申し訳ありません。確かに、確認が取れました。これをお返し致します」
戻ってきた兵士は僕に紙と認識票を返してくれた。ふと見れば、もう1枚見慣れない紙があった。
読めば『3月の末頃に2人組のエルフの少年と少女が来るだろうから私の推薦状を見せたら確認して通すように』という旨の証明書だった。
「ではお通り下さい」
そう言って兵士は馬車を降り、また次の通行人の審査をしに行った。
「へえ、お偉い方には態度を変えるんですなあ。ご機嫌取りって訳だ」
おやっさんが兵士に聞こえない距離になってから愚痴っていた。普段とはよっぽど態度が違うのだろう。
「それもお仕事ですよ」
そう言ってなだめておく。
「...んで、右に見えるのがこの町の集会所ですぜ。あと、あそこにあるのがこの町で一番デカイ教会でさあ。なんでも、素質有る者に力を授けるとか...」
現在、王都のメインストリート『謁見通り』(王に謁見する貴族や他国の王がこの道を通るためそう呼ばれている)を通って学園を目指している。隣には訛りのきついガイド付きだ。
「アル、あそこに菓子屋が見えます。また今度一緒に行きましょう」
イレーナが柄にもなく興奮している、いや「柄にもなく」と言うのは失礼か。やはり彼女も立派な女の子なのだから。
「あ、着きましたぜ。ここが学園の入口でさあ」
僕は馬車を降りる。目の前には大きな鉄格子の門があった。
「ん、何方かな?」
門の横にある、同時に2人通るのが精一杯程度の通用門から初老の男が出てきた。
「学園の方でしょうか、実はウォーデン様に勧誘されて今年からこの学園に通うことになったのですが、通ってもよろしいでしょうか?」
イレーナが推薦状を渡しながら言った。
「これは...おや、おや。御二人がアルバート様とイレーナ様でありましたか。
学長殿より話は聞き及んでおります。少し早いご到着ですな、さあ中へどうぞ」
そう言いながら彼は門の向こうに一度戻って門を開いた。
「私めはエルゲイ・ガーランド。ここの生徒からはエル爺などと呼ばれております。普段は学長殿の補佐をしておりますが、御二方が近日中にご到着なさるだろうという事で門の前で気長にお待ちしておりました。
ああ、馬車は彼処に停めておいて下され」
「分かりやした。それじゃ、俺らはそこで待っておきますぜ」
おやっさんと3人とはここで一旦別れる事になった。僕とイレーナはゆっくり歩くエルゲイさんについて行く。
「右に見えますのが寮になっております。こちらは一般寮ですから御二方は別の寮に住むことになりますな。
まあ、後で見ておいてくだされ。
ああ、あちらは食堂ですな。何を食べても美味しいですぞ。
そして目の前に見えておりますのが学舎、我ら知の探求者が集う場所であります」
のんびりと解説するエルゲイさん。
「意外と広いのですね」
「ええ、それもその筈。なにせこの学園は街区丸々2個分の土地ををふんだんに使用しておりますのでな」
走行しているうちに学舎の入口に到着する。
「さて、改めて。我ら王都魔法科学園は御二方を歓迎いたしまする。
ここは最先端の魔法研究の場、選ばれた者のみが入る事を許される思考の学舎であります。
存分に学び、存分に満喫して下され」
そう言われると、なんだか感慨深いものがあった。今僕は新たな環境へと足を踏み入れるのだ。しかも、前世では国も違えば歳も違った彼女と肩を並べて。俄然やる気も出てしまう。
「では、学長殿のところへ案内致しましょうぞ」
彼の導きのもと、僕達は新たな生活の場へと足を踏み入れる。
次回から学園編に突入します。今後とも応援宜しくお願いします。




