No.11 会敵
旅8日目、北マーリアの大森林もあと2日で抜けられると言ったところで、すれ違った行商馬車の男が気になることを言っていた。
なんでも、この先の道が荒らされていたとのこと。その程度の事か、と思ったら違うようで馬車が何とか無理やり通った程度に荒れているらしくこんなのは何年ぶり、らしい。
しかもそこの両脇の木々が薙ぎ倒されていたらしく、よほど大きな魔獣が出たんじゃないか、お前達も気をつけろよ。と言って去っていった。
それから半日程度、昼食も食べ終えて馬車で走っていた所、件の道が見えてきた。
確かに、道には激しい凹凸が出来ており、両脇の木々は薙ぎ倒されていた。
「こりゃあ、相当でけぇ魔獣が争った跡だな」とは護衛の剣士の言葉。
荒れた道には先の行商が言った通り無理やり馬車で通った跡があったのでそれをなぞる用に通ろうか、と話していた矢先。
グォォオオオオオオオオッ!!!
唸るような咆哮が響き渡った。
「左の森だ!」
その声で皆が左側の森の中を警戒する。
しばしの静寂。
「こりゃ大物だぜ...声が違う...おやっさん、馬を落ち着かせてろ」
おやっさん、とは馬車の運転手の事だ。言われた彼は「あ、ああ」と若干頼りない声で返事をして、落ち着きのない馬達をなだめ始める。
その瞬間、どしん。と地鳴りがした。続けざまにまた、どしん。どしん。その音はどんどんと大きさを増してゆく。
続いて何かが折れるような音が連なる。木だ。木々が次々とへし折られているのだ。
「ッ!こっちに来るぞ!」
剣士が声を抑えて叫ぶ。
「おやっさん!馬はもういい、坊ちゃんと嬢ちゃんを連れて逃げろ!」
今度は槍使いの言葉だ。運転手は今までおどおどしていたのが、僕とイレーナを見た途端に覚悟を決めた顔になった。
「わ、分かった...!任せろ!」
「坊ちゃん方、ついてきてくだせぇ」
おやっさんは僕らを右側の森へ逃がそうとする。
しかし、僕達は...
「いえ、僕達は一緒に戦います」
「は、坊ちゃん...?」
「ラルズさん、前に言いましたよね」
ラルズとは剣士の名前だ。僕は彼に問う。
「言ったって...何を...?」
「次、魔獣が出たら僕でも倒せそうなのを見繕ってくれるって」
今がそのときじゃないのか、と言外に込めて言ってやった。
「今はそんな冗談言ってる状況じゃ...」
その刹那、左側の森から『光』を感じた。今まで何度も見てきた光。いや、粒子が集まって一つになったモノ。長耳族が感じ取ることが出来る第六感。
魔力だ...ッ!
「来ます!」
イレーナが叫んだ瞬間に光の見えた方の木々が吹き飛ぶ。何か飛んで来る。
「ッ...ウォール!」
咄嗟に前に手をかざし、中級土魔法の土壁をありったけの魔力で展開する。途端に前方へ光が集まり手をかざした先を中心に硬い土壁が形成された。それが地面まで伸び、地に刺さったと同時に飛来物が土壁に衝突する。
「石弾ッ...!?」
ラルズが顔を青くして、呻くように声を絞り出した。
この世界で、地鳴りを起こすほどの巨体で、唸るような咆哮をあげて魔法を放つ生物。そんな生物は一様にこう呼ばれる。
竜だ。
「ど、土竜だ!土竜がくる!」
竜は、種によってそれぞれ一種類の属性魔法を無詠唱で放つ事が出来る。そして、扱う属性によって呼ばれ方が変わるのだ。火属性魔法なら火竜、水属性なら水竜と言ったように。
今回は、土竜。土属性魔法を扱う。土竜は別名『甲竜』とも呼ばれ、他の龍よりも重く、体を覆う鱗が強靭な代わりに飛ぶことが出来ない。その巨体から繰り出される攻撃は正に一撃必殺、おまけに無詠唱の土魔法付きなのだ。この事から土竜は地上最強の竜とされている。
しかし、御伽噺にも出てくるほど有名な生物だ。対処法なら誰でも知っている。
眼だ。どれだけ装甲が厚くても眼だけは露出する。そこを狙うのが常套手段。そして口内と巨体の下側、口内はかなり弱いし腹の部分も他よりは刃が通る。あとは火に若干弱い程度。
「小さい、まだ子供だ!はぐれに違いない!」
魔道士がそう叫んだ後、詠唱を開始する。火球を飛ばして眼を潰すようだ。それに合わせて槍使いが飛び出した。側面に回り込んで眼に向けて突きを飛ばす。が、土竜は首をすっと上げてそれを回避、どころか口に咥えた。
「不味い!槍を放せ!」
剣士がそういった時にはもう遅い。咥えた槍を首を捻って振り上げる。すると、それをしっかり握っていた槍使いが空に頬り出され、それに土竜が噛み付いて...
「そうはさせるかッ!」
僕は開いた口に向けて特大の石弾を打ち出した。一直線に土竜の顔へと向かう石弾は直撃...する前に土竜が反応して開いた口でそれを噛み砕く。攻撃は無効だ。
しかし、そのおかげで槍使いは食べられずに済んだ。彼はそのまま背中から地面へと落下する。
「うッ...がァッ!」
鈍い音が聞こえた。骨折したに違いない。だが、それよりももっと不味い事がある。彼が落ちたのは土竜の目の前だったのだ。
「救助します!アル、カバーを!」
そう言って飛び出したのはイレーナだ。
「馬鹿ッ、無茶だ!」
剣士はそう言いつつも彼女の逆サイドに回り込んで土竜の気を引いた。土竜は一瞬どちらを攻撃するか迷った様子だったが直ぐに大きい方、つまり剣士のを方を狙って攻撃しだす。
これは戦局を動かすに足るだけの要素であった。剣士の方を向けば、つまり魔道士に側面を見せることになるのだ。
「...なれば、これを穿つ為に燃え上がれ、ファイアバァァンッ!」
丁度、詠唱が完了した。中級魔法とは比べ物にならないほどに長い詠唱、上級の火属性魔法だ。途端に魔道士の手の先に集まっていた魔力が解き放たれ、紅蓮の炎へと姿を変える。そしてそれは土竜の顔へ向かって一直線に、飛んだのだ、が。
「飛んだッ!?」
そう思えるほどの跳躍力で後ろに跳び退いた。火球は木にぶつかってそれを燃やした。
だが、土竜が飛び退いたのは好都合でもある。イレーナが無事に槍使いを連れて帰ってきた。首根っこを掴んで、引きずってではあるが。
「彼の回復、お願いします」
イレーナが魔道士に頼んだ。任せろと言って魔道士は詠唱を始める。
ちらと後ろを見る。運送屋のおやっさんが馬車が壊されないように馬をなだめて後方に退避させていた。彼に戦闘能力はないが、彼は彼に出来る最大限のことをしているのだ。
さて、前に向き直る。敵は前方、道路上を陣取る形でこちらの様子を伺っている。
ここからが第2ラウンドだ。




