No.10 旅立ち
ウォーデンの勧誘から3日余り、王都に向けて旅立つ準備が出来た。
とは言っても学園で必要になってくる教材や制服なんかはウォーデンが準備してくれるので、僕がした事は旅に必要な生活必需品や私服を幾つか鞄に入れただけ。
あとはオンス父さんが王都に行くための運送屋を雇ったのと、彼の知り合いが王都に居るそうなので彼への手紙を渡された。
そして昨日にはシュティーア・ルセイド両家の送別会を行った。
そうこうしていると、あっという間に出発の日になった。
早朝、僕達の家の前には馬車が停まり、その周りには人が集まっている。僕達だ。
「それじゃあ、レーナは任せたよ」
ハンクさんが僕に向かって言う。これは昨日の送別会でも言っていたのだが自分の娘がよほど心配なのだろう。そのイレーナは今アイナさんに抱きしめられている。
「アル、学園で色んなことを学んでくるといい」
対してオンスは自分の息子の事を対して心配していないようだ。
男ならば逞しくあれ、という事なのだろう。
「アルくん、元気でね!」
シャルル母さんが抱きしめてきた。ギュッと、この時を噛み締めるように。
彼らとは暫く会えなくなってしまうが、次会うときには立派になっておきたいものだ。
馬車が出発する。
乗っているのは運転手と護衛の冒険者3人とイレーナと僕で6人だ。
屋敷の方を見ればオンス達や使用人の方々が見えなくなるまで手を振っていた。
ここは極西のモアルド、辺境の町だ。王都までは約1ヶ月かかるらしい。初めてこの世界で経験する長期の旅になる。馬車での旅がどのようなものか知るにはいい機会だろう。
◇◆◇◆◇
さて、今日で旅を始めて6日目、丁度1週間になる。王都まではあと4週間、つまり24日ほどと言ったところだ。
馬車は北の国境沿い近くの森林にある一本道をかれこれ4日、走り続けている。
ここは北マーリアの大森林と呼ばれ、一度迷えば一生出られないとも言われているらしい。その大森林を一刀両断するように出来ているのが、今僕達が通っている一本道だ。馬車が大森林を通り抜ける方法はこの道以外にないのだと運転手は言っていた。
運転手や護衛の冒険者とは上手くやっている。
特に護衛の彼ら(剣士、槍使い、魔道士の男3人組)はこの世界における野宿の右左を心得ているので、使用している魔法具について質問していたら仲良くなった。
その魔法具についてだが、気になるものが幾つかある。
一つが魔力を送ると魔力が無くなるまで燃え上がる魔石を用いたシングルバーナーのようなもの。使い切りではなく魔力さえ送れば何度でも使える上にサイズもコンパクトであった。
二つめはランタンなのだが、こちらも魔力を送れば無くなるまで光り続け、何度でも使える。ただ、この世界には一点を照らす懐中電灯の様なものは無いらしく、どうにかして作れないものかと思ったのだが機会があれば学園で作ってみたいと思っている。
他にも気になるものはあったがこの二つが現状最も気になるものだ。
あと、面白い事があった。大森林に入って2日目の夜、キャンプ中に「とあるモノ」が現れた。
ファンタジーがテーマの作品には必ずと言っていいほど登場するモノ。
そう、魔物だ。
正確には今回のは魔獣と言われるらしいが、全長2mほどの狼のような生物だった。
魔獣は護衛の冒険者があっという間に仕留めた。
魔獣が突進してきたとことを魔道士が中級魔法の火球で足元をすくい、転んだところを剣士が首を一刀両断して終わりだ。
流石は冒険者、とでも言うべきか綺麗な連携であった。
倒した魔獣は毛皮を剥ぎとってから捨てた。冒険者の集会所に持っていけば買ってくれるらしい。所謂、ギルドというやつか。
「次魔獣が出たら僕達も戦って良いですか?」と聞いたところ「はは、坊ちゃんらにも任せられそうなのを見繕っておきますぜ」と言って笑われてしまった。前世では歴戦の特殊部隊員であってもこの世界ではまだ12歳にもなっていない少年少女なのだ。
ちなみに坊ちゃんとは僕の事で、イレーナは嬢ちゃんだ。一応、領主の息子とその親友の娘だから礼儀をはかってそう呼んでいるのだろう。イレーナは「馬鹿にされているようで少し気に食いません」と言っていたが僕は愛嬌があって少し気に入っている。
それと、3日目の夜から僕とイレーナは護衛の彼らがしていた夜番に加えさせてもらった。夜、2人ずつ3回交代する。
彼らの負担は減るし、彼らとの中も深められるし、僕やイレーナにとっては訓練になる。一石三鳥と言えるだろう。
とは言っても、前回の狼の魔獣、森林狼と呼ばれているらしいが、ソイツが現れた時以外は襲われていないので基本は暇な任務だ。
毛布に包まって相方と雑談するだけでいい。
そんなこんなで、あっという間に1週間だ。
サスペンションもないこの世界の馬車は振動がちょっと身体に堪えるが、どうってことは無いだろう。




