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106回目のさよなら未遂  作者: 英汰一
【1】月見ず
5/7

暁鐘5

迷い迷って声を掛ける決心をようやっとした。恐る恐るスーツの男に近付いて、喉から声を絞り出す。



「あ、あの…」



返事はない。

私の声が小さすぎるのだろう。

それにしても彼はピクリともしないので、それは私の推測を悪い方へ向かわせる。

心臓が耳元で鳴ってるかのように煩かった。


もし、これで彼が反応せず、息が止まっていたりしたら…それでなくとも、怪我をして動けないのだったら。

まず、ここらの家の人に電話を借りて救急車を呼んで。それから…。


最悪の事態に備えて、私の脳内はすでに近所の民家に走っていっていた。



「あの、」



もう一度、大きめの声で呼びかける。

すると彼の肩が揺れて、ゆっくりと上体を起こした。



「…はい」



ああ、よかった。彼の身は何ともないようだ。

普通に動けてるし、喋てる。意識もハッキリしているようだ。


ゆっくりと瞬きをして気持ちを落ち着かせた。

これで慌てて走る必要も救急車を呼ぶ必要もなくなった。ここの場所はなんて説明したらいいのか悩んでいたのだ。

安心して瞼を上げたとき、自然と男と目が合った。



「え…」



思わず声が出てしまった。不意だったのだ

完全に男を日本人だと思い込んで声を掛けた私は、彼の瞳の色素の薄さに驚いた。


その目の色は鮮やかな青色で、私の周囲にはいない珍しいものだった。

けれど彼が外国の人かというと悩むところだ。顔立ちはアジア系と見受けるし、それに流暢な日本語を話している。

黄色人種の碧眼。

ハーフなのだろうか。



「なんですか?」




彼の目に釘付けになっていた私は相手の声で我に戻る。



「…あっ、う、項垂れてたので具合が悪いのかと…」



慌てて説明して少しずつ後退した。

…瞳に吸い込まれそうになるというのはこういうことか。視線を外すことができないくらい、綺麗な色だったのだ。

初対面の人なのに失礼なことをしてしまったな…。



「大丈夫そうですね、急に話し掛けてすいませんでした」



ここに長くいても決まりが悪いので、彼の安否を確認できたところで早く立ち去ろうと思う。

失礼します、と言い置いて踵を返した時であった。



「待って!」



背後から妙に慌てた声で呼び止められた。肩越しに振り向くと男がベンチから立ち上がっていた。

立った状態の彼は、思いのほか身長が高かった。夕也や慧介さんよりもいくらかあるだろう。目測で百八十センチいくかいかないか…。


「?」



返した踵を再び戻して、なんでしょうかと男に問う。

彼は眼前に来ては先程の私のように、喉に言葉を詰まらせていた。



「…み、り」



やっと聞こえた言葉の意味がわからない。

みり。ミリ?

何がいいたいのだろうか。

今ここで単位の脈絡はおかしいし、聞き間違いかもしれない。

私には聞き返すほか選択はなかった。



「はい?」


「君…ミリだよね」


「みり?」



どうやら人の名前らしい。

彼は私が『ミリさん』であるかと聞いているようだが、私は暁さんだ。ミリというあだ名にもなったことなどないし、かといってそれに聞き覚えなどなかった。

ミリって誰のことだ、と思った時には彼に左手を掬われていた。



「ちょっ」

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