望むもの
すとんとピエロの隣に腰を落とす。ころころと笑いながら、ピエロはボールを取り出した。そしてすすすすと空中に放り投げた。
無責任に放り投げられて、為す術もなく手の中で翻弄されている姿はまるで憐れな私の姿のようではないか。
ボールが宙に浮かぶ様子を視界に入れながらぼうっとする。認識はしているものの、私の瞳はボールの様子をただ映すだけだったようで、ジャグリングが終わった瞬間すらも捕えられなかった。
突然始めたジャグリングを突然辞めたピエロは、すうっと右手を高く持ち上げると、パシンっと指を鳴らした。そしてまるでマジシャンであるかのように、その指先から花束を出した。
「わ⁉」
ふわっと私の手の内に降りてきたそれは色とりどりの花束だった。知識だけなら持っているが、見るのは初めてだ。ピンクに白、青の綺麗な花束だ。
「この花は、なんていう名前なの?」
「んんー? ピンクのはオンシジューム、白はフリージア、青はロベリアだよお」
「綺麗、だね……初めて見た、かも」
あまりに綺麗な花束、初めてもらった花束に、知らずのうちに笑みがこぼれる。
そんな私を見て笑みを深めたピエロは、私の頭を撫でると首を傾げた。
「君はぁ……、お休みってする前にぃ……何を、望んだのお? オイラはねぇ、強さを望んだんだよお」
ピエロは笑った。屈託のない笑顔をみせて笑った。
不意に涙が零れそうになった。淋しさがこみあげてくる。
そうだ、私が必要としていたのは光。暗闇にかき消されそうな私を救い上げてくれるだけの輝きを持った光……!
でも、その光は…。
「私は、独りは嫌だから誰かと一緒にいたいって望んだの。でも……」
「大丈夫! きっとまた、誰かに会えるよお!」
ピエロは私の言葉を遮った。何でもないような顔をして空間を探る。
そしてふわふわと笑いながらパチンと手を叩くと、ポシェットを取り出した。
「これ、あげるよお」
ポシェットを私の手に持たせて、ユラユラしながら後ろに下がる。
「これは? 何?」
「ポシェット。誰かと出会える魔法のポシェットだよお。オイラが君に会えたのはきっとこのおかげだものお! オイラはもう君に会えた。だからこれ、あげるねぇ」
何も言えずに呆然と立ち尽くす私に手を振ると、ピエロは一回転してお辞儀をした。
「じゃあ、またねぇ」