暗闇の世界
目覚めた場所は、再び暗闇の中だった。彼もいない、光がない。
鳥籠の中よりも暗い世界。
思わず走り出した。風の抵抗がない空間を駆けた。
スピードが増す。何も変わらない景色が恐ろしい。変わっている気配など何もないのに、何かが変わってしまっているようなそんな感じだ。私が知らないうちに全てが移り変わって、私が、私だけが取り残されてしまっている感覚。
「ここは、どこなの」
答えは返ってこない。木霊すら、返らない。
「ここは! どこなのよ!」
声は聞こえない。私の声だけが、暗闇の中に吸い込まれて、消えた。足元さえも見えないこの空間に、私だけが一人、浮いている。
「どうして? 私ばっかり……」
涙が溢れてきた。いつだって、私は運がない。折角捕まえた道連れすら、私の手から離れてしまった。
「暗闇は怖いよ……」
私はしゃがみ込んでしまった。立ち上がる気力さえない。絶望が私の心を食い散らかし始める。
――コンッ……カツツーン……。
「音? 何の?」
不意に聞こえた音に反応して顔を上げる。それは私以外の誰かがたてた音だった。
音がするということは、誰かがいるということ。
誰かがいるということは、入口があるということ。
私の入ってきた入口は無くなってしまったかもしれないけれど、もしかしたらどこかに出口があるかもしれない。ここで立ち止まっている方が、心を病んでしまいそうだ。
この閉塞感はあの時と同じだから、もしかしたらあの時と同じように誰かが、私を抱きしめて眠りにつかせてくれるかもしれない。夢の中で夢に泣くよりは、夢の中で夢を見ている方がよっぽどいいに決まっている。
私は出口があるか無いかわからない状況の中、走りだした。