白の翼、輝きの徒
彼は私の手を放すと、檻に向かってすうっと手を伸ばした。そして暗がりの中で鍵を探り当てると、ぱきんとそれを壊した。
「あ、取れた!」
ガチャンと扉を開けて入ってきた彼は、中をゆっくりと見回して首を傾げた。
「鳥籠?」
彼は私に向かって問いかけた。
誰かと会話をするなんていつ振りだろうか。父が死んでから、私は一人だったから。
ご飯は食べなくても生きていけた。元々ほとんど食べなかったから、それでも大丈夫だったのだ。水は必要だったけれど、籠の中には水入りの小瓶がたくさんあったから、これも大丈夫だった。他に必要なものも、全てはここに揃っていた。
私はここで生きてきたのだ。
じっとわたしを見つめてくる彼の方に視線をずらして口を開いた。
「そう、ここは私の為の鳥籠。お父さんが私を囲うために作った小さくて頑丈な檻」
答えてあげる。私を見つけてくれたお礼に。
私はベッドの上の私の隣に腰を下ろすように彼を手招いた。
「君はずっとここにいるの?」
彼はゆっくりと近づいてきて私の隣に座った。
「そうだよ。私はずっとここにいた。……といっても、ここは暗闇の中だからどれだけの時間がたったかなんてわからないけれど」
「どうやって生活するの? 親はいないの?」
彼はよく理解出来ていないようで、不思議そうに首を傾げた。
彼はきっと恵まれているのだろう。両親とともに、明るい空の下で生きているのだろう。こんなにきれいな羽を持っているのだから、さぞかし人気者なのだろう。
……私はとても惨めだ。
「必要なものは皆全て揃っているの。お父さんが用意してくれたからね。私にはお父さんしかいなかったんだけど、多分死んじゃったんじゃないかな? 最近会ってないからちょっとわからないんだよね」
にこにこと笑って私の話を聞いていた彼は、それを聞いた途端にしゅんとした。
「ごめんなさい。無神経だったよね。……一人で寂しくない?」
「気にしないで! 寂しかったけど、貴方が遊びに来てくれたから、もう寂しくないよ」
私は微笑んだ。
そう、もう寂しくない。彼を取り込んでしまうから。この闇の中に。逃がさない。
戸惑いは多少あったが、迷ってなどいられないのだ。私には後がないのだから。 彼を逃がしてしまったとしたら、次はいつ誰が私の元に訪れるというのか。
彼の瞳が硝子玉のように濁ってしまったとしても、私は迷わない。
私が怖いものは、独りになることだけなのだから。
「ねえ、外の話をして頂戴! 私、外の世界については本で読んだことしか知らないの!」
私は彼の瞳を見つめて微笑んだ。彼はほっとしたように笑って頷いた。白い髪がふわふわと揺れる。
「いいよ! でもその前に、名前を教えて! 俺、君の名前が知りたいんだ!」
そういわれてみれば、確かに名前を言っていなかった。
私は笑って手を差し出した。
「私の名前はアルレシャ。闇を生きる徒」
「俺の名前はレグルス。輝きの徒」
やはり彼は、『輝きの徒』だったようだ。