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呪われ姫と強運の髭騎士  作者: 鳴澤うた
エピローグ
33/34

強運はきっと……

 二人しばらく泣き笑いをしていたが、落ち着いた頃、徐にクリスがソニアの目頭を擦り始めた。

 ――ああ、涙を拭ってくださっている。

 恋人同士のようで、何だかこそばゆい。それでも嬉しくて、ソニアはされるがままでいた。

 ふいにクリスの顔が近いことに気付いた。

 ある予感にソニアは、そっと瞳を閉じる。

 ――が

「……続きは後にしましょうか。後ろから沢山の視線を感じますので」

 ソニアは、クリスの背中越しに目を開けて薄闇の向こうを眇め見る。

 ――そこには様々なアイマスクをつけた男女数人が、こちらを見ながらにやついていた……。

 王に王妃。それに王太子に王太子妃。そしてセヴランだ。


「……王家ファミリーで何、覗き見しているのです……?」

 恨めしそうにクリスが呟いた。



◇◇◇◇

 結婚式は、絢爛豪華であった。

 中央教会と王家、それにクレア家が協力して組んで準備をしたのだから、そうなるのも当たり前だが。

 クリスの実家、コルトー家は置いてけぼり感が拭えないものの、仕方ないと思っていた。

 クリスは三男でコルトー家の財を継いでいない。要するに姓だけを受け継いでいるだけだ。

 それでも、屈指の財産家のクレア家の婿養子に入るクリスのために、実家も出来る限りの結婚の準備をさせた。

「逆玉でも程度を考えろ」

と、長兄に溜息をつかれたクリスだった。

 クリスも自分が騎士として働いて貯めた俸禄があるし、王がこっそりと援助をしてくれたお陰で体裁を整えることができた。

(しかし、これほどとはなあ……)

 クレア城に向かう道に、ずっと続くパレード。

(いつ城に着いて、ゆっくりできるのだろう……)

 隣に座ってニコニコと、幸せ一杯な表情で民達に手を振るソニアに気付かれないよう、欠伸を噛み殺した。


 ――一方、ソニアの方も

(つ、疲れた……)

 オープン式の馬車に揺られ民衆の視線に、にこやかに手をふって応える――堪えるわ

(……ああ……。つまんない冗談が頭を巡るわ……)

 今日の結婚式の準備が、こんなに大変なものだったとは。想像が甘かったとソニアは反省していた。

――いや、自分達が想像していた結婚式は昔の流れそのままに数人の参列者と司祭の中、主城であるクレア城で厳かに行い、それから数日間、宴会を開いておしまい――の筈だった。

 ――なのに王家と中央教会が

『世紀の英雄同士の結婚なのに、そんなひっそりと行うつもりか!』

と横やりを入れてきたのだ。

(資金も援助しないくせに……)

 このオープン馬車、王に売り付けよう。とソニアは笑顔の裏で、早速クレア家の主人として財産の計算をしていた。


 ゆっくりと進み、ようやく城下街を抜けたソニアとクリスは、ほー……、と全身の力が抜けるような息を吐いた。

 同時にやったので、お互いに顔を見合わせ笑い合う。

「クリス様も同じ気持ちでした?」

「ソニア様も? ただでさえ緊張をするというのに、こんな馬車で見られっぱなしでは疲れますよね」

 そう話すクリスに、ソニアは不満げな顔を見せた。

 クリスは不思議に思い首を傾げる。

「如何しました?」

「私達、もう夫婦なんですよ? 『様』なんて他人行儀みたいなの、つけないでください」

 それはそうでしたな、と軽い笑いをあげるとクリスは、ソニアの手を握り彼女を見つめて言った。

「ソニア」

と。

 自分だけに聞こえるよう低く囁く声に男の色気を感じて、ソニアはかあ、と顔が熱くなる。

「……あの、その、私は、クリス様のことを、何と呼べば、良いでしょう?」

 顔を真っ赤にしながら尋ねてくるソニアを、クリスは可愛いと思いながら、

「好きに呼んで下さい」

と微笑む。

「う~ん……『クリス様』だと今までと変わらないし、だといって呼びつけだと生意気に感じられますし……『旦那様』は如何でしょうか?」

「良いですよ、ソニアの好きな呼び方で」

「――もう! それではクリス様がどんな呼び方が好きなのか――あっ……クリス様って呼んじゃった……」

はたと気付き慌てるソニアを見て、クリスは楽しそうに笑いながら言った。

「少しずつでいい。慣れていきましょう。先はまだまだ長いのですから」

「そうですね、慌てなくても――」

 ソニアの口が塞がれた。

 塞ぐのはクリスの温かい唇だ。

「――ん」

 ソニアの詰まった声のあと、彼の唇が離れた。

「これもね。結婚式の誓いの口付けから、まだ二回目ですから」

 ウィンクして見せた彼は、何処かいたずらっ子のような表情を見せた。

 だけど、余裕ある大人の雰囲気は隠せようがない。


 ディヤマンで国最強の騎士。

 強くて逞しくて、朗らかで優しい。

 そして何より自分を愛してくれる。

 彼のお陰で解けた呪い。


「そんな彼と結婚できた私こそ、もしかしたら『強運』なのかも」

 呟くように言った言葉はクリスには届かず

「?  何か言いましたか?」

と、じっと自分を見つめる。

「――今は人がいないから、馬車の屋根を付けてゆっくりしたいな、と言ったんです」

「それは賛成です」

 聞いていた従者が気をきかせ、本体に付いているハンドルをグルグルと回す。

 すると、折り畳まれていた部分が広がり、屋根が出来た。

 屋根が完璧に閉じる瞬間、二人が寄り添う場面を従者は見逃さなかった。


 従者はゆっくり進む馬車から飛び降りると、手綱をひく仲間の所に移っていった。


 しばらく、そっとしておこう。

 次のパレード場所まで時間はたっぷりあるから。


 ガタコトと、音を立てながら馬車は進んでいく。

 ほんの少し、二人を乗せた馬車の揺れに気を付けてクレア城へ向かっていった。



 それから二人はどうなったかと?

 それは、ありきたりだけど、一番皆さんが望むもの。


 ――そういうことです。






これで本編はおわり。

ここまでお付き合い下さりありがとうございました。

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