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呪われ姫と強運の髭騎士  作者: 鳴澤うた
信じるのは貴方
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(2)

 私の結婚を喜んでくれたのは、私と離れるのが嬉しかったから?

 私が嫌いだったの?

 憎んでいたの?

 私、貴女に嫉妬されるような境遇なの?

 一緒に笑ったり泣いたり、喧嘩したり、励まし合ったり――

 それは全部、嘘だったの?


 頭の中に言葉が羅列する。全てパメラへの問いで。

 その全てを声に出すことが出来ず、ソニアはただ呆然とパメラを見つめた。

 彼女を見つめる瞳からは、大粒の涙が後から後から溢れては流れていく。

――パメラまで

(私を見ていない)

 このまま、私は消えた方が良いんだわ。

 パメラを追い込んで、こんな姿にしてしまったのは私の責任。

 セヴラン様も私がいなければ、財産目当てで近寄ろうとしなかっただろう。

 パトリス王も、何年も思い悩むことも無かっただろう。

 

ギュッと自分を抱き締める腕の力強さに、ソニアは我に返った。

「――ソニア様。惑わされてはいけません」

「クリス様……」

 すぐ近くに、こんな近くに、怖かった髭の顔があるのにどうしてだろう? 

 彼のその笑顔が自分を安心させ、胸に温かいものが沁みて、身体に広がっていくように感じられる。

 彼の笑顔はどうして『大丈夫』だと『逆境を乗り越えられる』と自信を持たせてくれるのだろう?

 ――彼のこの笑顔が、私をいつも勇気づけてくれた。

 必死に泣き止もうと笑顔を作るソニアに、もう一度クリスは微笑む。

 そうして、パメラに眼差しを向けた。

 意思のある強い眼差しを。

「『殺す』そう言ったわりには、ソニア様に近付きませんな? 何故です?」

 その言葉に、悔しそうにパメラの身体を乗っ取った男の顔が歪む。

「代わりに私が言おうか? ファーンズ司祭!」

 咆哮に似たクリスの声が、部屋中に響く。

「貴方は私の『髭』が怖い! だから、ソニア様に寄り添っている私がいるから貴方は近付けない!」

<ぅ……ぐ、ぐう……。違う、貴様の見当違いだ……>

 そう言いながらも、パメラから歯ぎしりの音が聞こえる。

「何故、『髭』が怖いのか……貴方は自分で理解されているか? そもそも理解していたら、いつまでも『神』の御使いだと名乗りはしないでしょうがね!」

<何を、何を……! 私は神に選ばれたのです! 神の名の下に罰して良いと!>

「では! 私に近付いて見ると良いでしょう! 私も神から授かった『加護魔法』を持つ身、貴方が死して尚も神の言葉に従っているなら、私に近付けるはず!」

<うう……! チクショウ! チクショウ!>

 歪んだ顔を更に歪ませて、身体まで捻り悔しがるパメラの姿は、女の形でありながら男のよがる様に見える。

 その時、クリスが動いた。

 猛突進する闘牛のように、パメラに向かって飛びついていったのだ。

「このお方から離れろ!」

 そうしっかりと抱き締めた――はずだった。

 フッ、とパメラの身体が消えた。

「―― !」

 クリスの腕を通り抜けたパメラの身体は、足も動かさずそのまま滑るように、バルコニーに向かっていく。

<アハハハハハハハハハハ!>

と、大きな口を開けて笑い、首をグルグルと回しながら。

 三百六十度に回転しながら笑う首に、ソニアは卒倒しそうだった。

 遠くで退避していた王妃は、それを見て既に卒倒していた。

 首は後ろ向きで止まると同時、身体も動きを止めた。

 そして、急いでソニアの元に戻り彼女を抱き締めるクリス。

 そして、恐怖で震えているソニアに向かって、

<この少女の身体は、クレア家の最後の血筋であるソニアと引き替えだ。クレア城の祈祷所で待っているぞ>

そう言い放つと、闇に消えた。



◇◇◇◇

 グラリ、とソニアの頭が揺れる。

「ソニア様!」

 驚いたクリスが、ソニアの頭の後ろを押さえた。

「大丈夫です……」

 それが気を失う寸前だったソニアの気付になり、彼女は自らゆっくりと頭を上げて、クリスを見つめて言った。

「……ようやく私のこと、名前で呼んでくれたのですね……」

「……申し訳ない、これは私の我儘なのです」

「我儘?」

 顔を赤らめるクリスに、ソニアは聞き返す。

 クリスは、彼女がしっかりと自分の足で立っていることを確認すると、腕を離した。

「誤解が多くあるので、どこから話したら良いか分かりませんが……馬車の中で話しましょう。今はすぐに、貴女のお友達の身体を奪ったファーンズ司祭を追わなければ!」


「私……、パメラに嫌われていたのね……」

 ソニアの表情が寂しさに沈む。

「なんて鈍感なのかしら、私。パメラの辛さや悲しみに気付いてあげられなかったばかりか、彼女を傷付けていたなんて……私だけだったのね、親友だと思っていたのは……」

 あの穏やかな微笑みの裏で、そんな憎しみを抱えていたなんて。

「私は……知らずに、色んな人を傷付けているかもしれない……」

 やるせなさに縮んでいくソニアの肩に、クリスの手が置かれた。

 クリスを見ると、彼の表情は真剣だ。

「パメラ様をお助けするのは、躊躇われますか?」

「いいえ! パメラは違う意図で私と親しくしていたかもしれません。でも! 私は彼女がいてくれたから、今まで辛い出来事を沢山乗り越えてこれたんです! パメラが辛くてあのようになったとしたら、今度は私が彼女を助けたい!」

「貴女は実に前向きだ」

 ソニアの決意に、クリスは破顔する。

「……前向きなんかじゃありません。現に私、『死』の誘惑に負そうになりましたもの……」

 でも、クリス様が側に来た時――

 腕の力強さに――

「思い出したんです。パトリス王とクリス様のいった言葉を……『貴女を救いたいと思っている者達がいることを、忘れないでくれ』との言葉を。クリス様は私を救いたいと思っていることを、感じることが出来たから……」

 身体も心も気力も運も。神から授かると言われている『加護魔法』の恩恵だけじゃない。

 周囲に光を与える存在のようなクリス様。

 私も、クリス様のようになろう。

 強く逞しくなろう――そう決意したことも思い出した。


「私がパメラを助けます。そして自分の運命に勝って見せます!」

 強い眼差しを見せるソニアに、クリスは口角を上げた。

「行きますか! クレア城に!」



「その前に、王妃様を……」

ソニアの言葉に、クリスは大慌てで王妃を抱き寄せて人を呼んだ。





次回は3/5です

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