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未来への扉  作者: 上野 北平
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さよなら式部・・・

 「早く出て行ってください!!!!!」そう式部に言われた僕はもう宮を抜け出すことしかできなかった。しかしこの平安時代は現代語で言う警察が居ないため治安は悪い方だろう。しかもいい人ばかりではないのでいつ誰に何をやられるか分からない。あたりは真っ暗で照明も無い。寒いしとても辛い。すると後ろから男の声が聞こえてきた。しかしそんなこともお構いなしに歩き続けた。そして次の瞬間『覚悟!!」という叫び声と共に木の棒で殴られた。幸い気絶も何もせず大事には至らなかった。そして男が「ちっ、しぶとい奴め。次こそ殺ってやる」と小さな声で囁いた。僕は覚悟を決めて目をつむった次の瞬間「お待ちなさい!!」と聞いたことのある女の声が聞こえた。暗くてよく見えなかったが男はびっくりして逃げて行ってしまった。女が僕の元へ駆け寄るとよく顔が見えた。式部だ。なんで?「大丈夫ですか?縷縷雅さん」と優しい声で言われた。こうして訳も分からず式部の宮へ戻った。

 宮に着いたときにはもうぐったりだった。今日はもう寝なさんな。と言われたので素直にそうした。

 朝起きると僕の分の朝食まで用意されていていた。食べ終えると式部に縁側でお茶を一緒に飲まないかと誘われた。

 お茶を飲みながら式部が「昨日はあんなに大声を張り上げて申し訳ありませんでした。」と言った。僕は申し訳なくなって何も言えなくなってしまった。式部はそれでも続けた。「昨日貴方が宮を出て行った時私は涙が枯れるほど泣いていました。本当に申し訳という気持ちでいっぱいでした。そこで障子様が訳を聞いてくれて・・そうしたら、では今から探しにお行きなさい。本当に申し訳ないと思っているのなら。と言われました。そう言われた瞬間私は目覚めました。そして全ての人を思いやるという気持ちが私の中で生まれました。私はここ最近お父様の為時様に怒られてばかりで本気で仕えるのはやめようかと何度も考えました。しかし今は違います。障子様のようにあんなに立派なことを言えるお嬢様に仕えて今は胸を張って生きています。」僕は自然と涙が溢れていた。そして最後に式部はこう言った「縷縷雅さん、貴方は今日帰るのでしたよね。」僕はコクリと頷いた。「では最後に貴方に伝えたいことがあります。それは一人一人の人を平等に愛しなさいということです。私は宮中に居る限り自由の身にはなれません。しかもうまくいかないこともあるでしょう。いやうまくいくことのほうが遥かに少ないでしょう。しかし私は為時様、障子様を共に愛すことでうまく行くことが一つでも増えると信じています。だから貴方も一人一人の人を愛しなさい。分かりましたか?」そういうとすっと立ち上がって「また会える日を楽しみにしています。お世話になりました」と言い奥へ行ってしまった。僕は見た。式部は泣いていた。それほど障子や為時に強い思いがあったんだなと思った。

  今でも「源氏物語」が一人でも多くの人に愛されていることを願う。

〜いずれの御時にか女御、更衣あたま候ひ給ひける中に、いとやむごとなききはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり〜源氏物語冒頭より。(平安時代完)

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