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神速の癒し手  作者: 一狼
第1章 デスゲーム
2/8

第2話

「ただいまー」


 あたし達が拠点としている宿屋に着くと、そこには唯ちゃんにしばかれているカイドウが居た。


「わっぷ、ちょ、たんまたんま! 悪かった悪かったよ! だから、ぶぐぅ!」


「ねぇ、一回死んでみる? 何度言っても分からないようじゃ死んだ方がましかも?」


 唯ちゃんは容赦せず槍でカイドウを突く、斬る、殴るを繰り返していた。


 デスゲームになってからシステムが変更になり、以前はセーフティエリア内で攻撃そのものが出来ず動きに規制が掛かっていたが、今は攻撃が出来るようになっていた。

 ただしHPへのダメージは無く衝撃だけがあるので、感覚的には痛みまで伴っているように感じてしまう。


「はぁ~、カイドウ、またなの? いい加減にしてよ。

 いくらハラスメントコードが解除になったからって、セクハラをしていいってことじゃないのよ。

 貴方のやってることって、いくらゲームでも最低の行いなのよ」


 そう、デスゲームが始まってからシステム変更の1番の問題がハラスメントコードの解除だった。

 以前は身体(アバター)同士の接触は制限されていたが、今では何の問題もなくなっている。

 おかげでセクハラ問題があちこちで上がっているとか。

 それはあたし達のPTでも同様だ。


 カイドウはスキンシップとか言って胸やお尻を平気で触ってくる。

 最初のころはハラスメントコードの解除を確かめるとか言って、唯ちゃんの胸を両手で鷲づかみして唯ちゃんから顔面にグーパンを食らったことがある。

 ケインズやザックもカイドウほどではないが、さり気なく身体を触ってくる。

 ザックなんかは無口なのも相まってむっつりな感じがして気持ち悪い。


「サーヤは戻ってきてる?」


「うん、部屋にいると思うよ」


 唯ちゃんはカイドウをしばきながら答えてくれる。

 もう何度もセクハラをされているので最近の唯ちゃんの攻撃は容赦が無くなってきている。


「あ、ちょ、ちょっと待てベルザ。報告、そう報告を聞こう!」


 カイドウはサーヤの居る2階の部屋へ向かおうとしたあたしを引き止めようとする。

 一応拠点の宿に戻ってきたときに、その日の臨時PTの戦闘時等の情報をみんなに報告することにないっているのだが・・・


「全員が揃ってからの方がいいでしょ」


「あ、いや、俺が一番最初に聞きたいんだ。な、だから席に座って、ぼぐっぅ!」


 尚も引き留めようとするカイドウに唯ちゃんの職業・破壊士(デストロイヤー)の拳が入る。

 唯ちゃんいつも以上に打ちのめしてるなぁ。今日のは余ほど気に障ったのかな?

 そんな2人を余所にあたしは2階へ上がる。


 サーヤの部屋の前に行き、ドアを2回ノックする。

 AI-On(アイオン)の設定上、簡単に部屋に入ることは出来ない。

 ドアを2回ノックすることによって、30秒ほど部屋の中と外の音が通じるようになる。

 その上で部屋の主から入室の許可を貰って初めて部屋に入ることが出来るのだ。


 だけどドアをノックして部屋の中から聞こえた声はサーヤだけではなかった。


『いやっ! やめてっ!』


『いいじゃないか。お互いデスゲームでストレスが溜まってるんだから、ここらで発散しようぜ。要はスキンシップだよ。スキンシップ』


『そう、スキンシップだ』


『こんなのスキンシップじゃない!』


 中から聞こえた部屋の中の状況にあたしは戦慄する。

 部屋の中では強姦(レイプ)まがいの事が行われようとしていた。

 実際に性行為をするにはお互いの倫理コードを解除しなければならないので、最悪の事態は免れてはいる。

 けど男性が思う以上に女性は迫りくる男に恐怖を怯える。


 あたしは慌ててもう2回部屋のドアをノックする。


「サーヤ! 開けて!」


 あたしの声が部屋の前に居るのに気が付いて、サーヤはあたしの入室の許可をする。

 部屋のドアが開くようになりドアを壊さんばかりの勢いで開けると、ケインズがベットの上でサーヤに覆いかぶさり、ザックがサーヤの両手を押さえている状態だった。


 あたしはこの時ばかりは容赦なく手に持っていた錫杖を振り回し、ケインズとザックをサーヤから引き離す。


「ベルちゃん、うわぁぁぁぁ、怖かったよぉ」


 余ほど怖かったのか、サーヤはあたしの胸に顔を埋めて泣きじゃくる。


「貴方達! 何をやってるの!? 貴方達のやってることは立派な犯罪行為よ!」


「あ、あぁ、いや、犯罪じゃないそ、これはお互いの事をよく知るためにだな。肌を重ねるのが一番と思ってな」


「そ、そうだ。俺達はPTだ。チームワークをしっかりする為にも、お互いをよく知らなければならない」


 あたしの形相に2人はたじろぎながらも下手な言い訳をする。

 下であたしを引き止めようとしていたカイドウもこの事は知っていたのだろう。

 つまりカイドウも同罪だ。


「ふざけないで!! こんなので本当にチームワークが生まれると思っているのなら、貴方達本当に馬鹿よ?

 ・・・2人とも部屋から出て行って」


 流石に強姦(レイプ)まがいの事がばれたので2人は気まずそうに部屋から出て行った。


「ふえぇぇぇぇん、もうやだよ~~~。もう帰りたいよ~~~」


 わずか10日と言えどデスゲームのストレスはサーヤにはきつかったようだ。

 おまけに迫りくる男の恐怖も加われば、心が折れるのは簡単だ。

 あたしはそんなサーヤを見ながらある提案をする。


「ねぇ、サーヤ。もうこれ以上頑張れないんだったら―――・・・」


 この騒ぎを聞きつけた唯ちゃんも部屋に駆けつけてきて、サーヤの今後の事について話し合う。

 当然今日の報告会は無しとなった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 次の日の朝、あたし達5人(・・)はテーブルを囲って朝食を取る。


「サーヤはPTから抜けて生産職に転向したわ。昨日のうちにあたしの知り合いの生産職の人に預けたわ」


 昨日あたしはサーヤに生産職に転向するように提案した。

 初心者であるサーヤはこれ以上デスゲームである戦闘に参加できないと判断した為だ。

 何時デスゲームから解放されるかは分からないけど、少なくとも生産職になれば死ぬ確率が大分減る。死の恐怖からくるストレスもかなり無くなると思う。


「あ、ああ。そ、そうか。仲間が減るのは残念だな。あー、その昨日は」


「やめて、昨日の言い訳だったら聞かないよ。あれは許されない行為だもの。

 正直今すぐにでも『軍』に引き渡してもいいと思ってるのよ。でもそれはサーヤが「許してあげてね」って言ったから今回の件については見送ってあげる。

 もしまた同じような事をするんだったら、次は容赦しないからね」


 昨日の言い訳をしようとしたケインズの言葉を遮り、あたしは容赦なく辛辣な言葉を3人に叩き付ける。

 『軍』はプレイヤーギルドの名前だ。この10日間で知りあったギルドでもある。

 『軍』の人たちは特殊クエストをクリアして、王城の地下の牢獄を使用することが出来るのだ。

 牢獄は犯罪者やPKする人たちを閉じ込めるために活用している。

 まぁ、取り締まりが厳しすぎて好くない評判も飛び交ってはいるが。


「唯もベルと同意見よ。あんなことをしたのに許してくれたサーヤに感謝することね」


「ああ、肝に銘じておくよ」


「うむ」


「了解、了解。今回ばかりはやり過ぎたからな。反省してるよ」


 カイドウは相変わらず調子良さそうに合わせてくる。

 一番心配なのはカイドウなんだけどなぁ。分かってるのかな、この人?


「さて、この10日間みんなで色んなPTを回って知識や戦術を学んできたわけだが、それを俺達の連携強化に役に立てるために今日はロック平原の北部に行こうと思うんだが」


 ロック平原は大きく3つのエリアで別れている。

 王都寄りの西部、東和都市へ続く街道を境に北部と南部に。

 西部はスタート直後用にモンスターの適正Lvが低く設定されている。

 北部はモンスターの適正Lvが30台、南部が適正Lvが40台と出現するモンスターPTの数はさほど多くは無く、転職後のLv上げには最適なエリアだ。


「うん、それでいいと思う。あとは人数が1人減ったからその調整ね」


「誰かさんの所為でね」


 唯ちゃんの容赦ない突っ込みが入る。


「うぐ、まぁロック平原なら5人でもやれるだろう。ベルザに魔法の負担が大きくなるが、巫女に転職したなら聖属性魔法・無属性魔法の他に四属性魔法を唱えられるからな」


 ケインズは騎士(ナイト)、カイドウが侍、ザックが忍者、唯ちゃんが閃撃士(クリティカルブロウ)、そしてあたしが巫女とやや前衛よりのPTとなっている。


 あたし達は準備をしてロック平原に向かう。


 ちなみにMMO-RPGではお馴染みの乗り物をあたし達は手に入れている。

 AI-On(アイオン)では騎獣と呼ばれていて、馬やウルフ、走竜(ドラグルー)といった種類がある。

 普段はフィールドに放していて、必要時に騎獣の笛で呼び出して乗るのだ。

 ただし移動には便利ではあるが、騎乗時には戦闘が出来ないという欠点がある。

 あくまで移動のための乗り物と言うことだ。

 ほとんどの人が馬を騎獣にしていたが、唯ちゃんだけが脚力があり馬よりも若干早い騎獣の走竜(ドラグルー)を手に入れていた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 あたし達のPTが5人になってから数日ロック平原で連携やLv上げを行っていたけど、日に日に唯ちゃんの機嫌が悪くなっていた。

 何と言うか、あの人たちちゃんと臨時メンバーとして戦闘に参加していたのだろうかと思うほど連携を無視しまくっているのだ。

 おまけに心ここに非ずと言った感じで全然戦闘に集中していない。


 確かにあれ以降セクハラまがいの事が無くなってはいるけど、戦闘そのものがお粗末では話にならない。

 唯ちゃんは上2人のお姉ちゃんを見返すためという目標があり、それに向かって一生懸命に頑張っている。

 だけど唯ちゃんが頑張れば頑張るほど男3人のダラダラ感が目立ってしまう。

 そのダラダラ感が唯ちゃんを不機嫌にさせてしまっている。


「ねぇ、もう少し真面目にやってくれる? 明らかに唯が敵の数多く倒してるんだけど」


「おいおい、俺達も真面目にやってるよ。ただ唯の殲滅速度が異常に早いだけだよ」


「だな、職業の閃撃士(クリティカルブロウ)の所為もあるだろう。クリティカルが出やすいんだ。一撃の攻撃力が俺達を上回っているから敵を倒すのも早いんだと思うよ」


 カイドウとケインズの言い訳に、唯ちゃんは明らかに不機嫌になりながらも押し黙る。

 唯ちゃんは納得したわけではなく、言うだけ無駄だと思って黙ってしまったのだ。

 今の戦闘は唯ちゃんの言う通り、唯ちゃんだけしか前面に出ていなかった。

 ケインズは騎士(ナイト)として盾役で引き付けるので、まぁ攻撃側に回ることが少ないのは分かるが、カイドウとザックは明らかに手を抜いておざなりにしか攻撃していなかった。


 そしてその日の夜の反省会で唯ちゃんが爆発した。


「Lvもそこそこ上がったことだし、俺達も26の王に挑戦しようと思う」


「どの王に挑戦するんだよ」


「情報によればサンオウの森には『トロールの王』・『オークの女王』の他に『リザードの王』がまだいるらしい。

 俺たちは残りの『リザードの王』に挑戦しよう。居場所の情報もしっかり入手済みだ」


 10日間の臨時出張、そしてこの数日の間に『トロールの王』と『水龍の王』と『オークの女王』がクリアされている。

 どうも2人の王を倒したのは剣の舞姫(ソードダンサー)と呼ばれる魔法少女の格好をした凄腕のプレイヤー率いる臨時PTらしく、そのPTの情報によるとサンオウの森には残りの『リザードの王』がいるらしい。


 サンオウの森は王都の西に位置する巨大な森で、リザード、オーク、トロールのモンスターしか生息していないとの事だ。

 その3種類しか生息していないので、そこから3人の王が予想されたという。


 ちなみに剣の舞姫(ソードダンサー)はデスゲームのきっかけとなったStartを倒した人だ。

 『水龍の王』が倒れた直後に王都の初心者広場に現れた石碑に26の王の討伐情報が出ていたので間違いない。


「そう、唯はPT抜けるから挑戦したいなら勝手にやって頂戴」


「え!? ちょっと唯ちゃんどうしたの!?」


 そんな話し合いの最中の唯ちゃんの突然の発言にあたしは戸惑ってしまう。

 もちろん男3人も唯ちゃんのPT離脱発言にいい顔をしない。


「理由を聞いてもいいか?」


「答えは単純よ、貴方達に呆れただけ。

 今日のような戦闘をしているのに、それで26の王に挑戦するの? 馬鹿にしてるでしょ。

 多分貴方達は言っても聞かないからいい加減このPTに見切りをつけるのよ。

 ベルもいつまでもいい人していないで、早々にPTを抜けることをお勧めするわ」


 唯ちゃんはそう言うとさっさとPTから離脱して、宿の外に出て行ってしまう。

 あたし達は呆然と見送ってしまっていた。


「・・・ケインズ、いいのか?」


「あー、ここで引き止めてもしょうがないだろ。と言うか引き止めれそうな気がしない」


 ザックの心配をよそにケインズはあっさり引き下がった。

 あたしは慌てて宿の外に出て唯ちゃんを探すが、既に人ごみに紛れてしまって探すことが出来なかった。

 はぁ、唯ちゃんせめて一言相談してほしかったなぁ。

 まぁそれくらい今日の戦闘に不満が溜まっていたというところかな。

 後でそのあたりの事をメールしてみよう。


 あたしが宿の中に戻ると、今日はとりあえず反省会は解散して頭を冷やしてから明日の朝にもう一度話し合いをしようと言うことになった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


「昨日の唯の言う通り、確かに俺達は今まで不甲斐ない点が多すぎた。これからは今までの事を反省して真面目になろうと思う。

 なので、その決意の第一歩として『リザードの王』に挑戦しようと思うんだが」


 昨日の唯ちゃんの捨て台詞が堪えたのか、ケインズは真剣な眼差しでこれからの計画を述べる。


「真面目になってくれるのは良いけど、いきなり『リザードの王』はきついんじゃないのかな? ただでさえ人数が4人と少ないんだけど」


「いや、何もいきなり倒すわけじゃない。最初は様子見で情報を探るんだ。

 その後で臨時PTメンバーを加えて王を倒そうというわけさ」


 なるほどね、今度はちゃんと考えてるじゃない。

 初めからこんな風だったらサーヤも唯ちゃんも離れなかったのに。


「よっしゃぁ! ついに俺達も攻略組の仲間入りか!

 昨日もCrescentが攻略されたからな。うかうかしてられねぇぜ!」


「カイドウ、先走り過ぎだ。ケインズが言った通り今はまだ様子見だ」


 いつもの調子で突っ走ろうとするカイドウをザックがたしなめる。

 カイドウの言う通り昨日の夕方には『月影の王・Crescent』が攻略されている。

 掲示板の情報によればまた剣の舞姫(ソードダンサー)が攻略したとか。

 今の段階で攻略された王のほとんどに剣の舞姫(ソードダンサー)が関わってるのは凄すぎるんだけど。


「カイドウ、その意気込みは来たるべき時に発揮してくれよ」


「ああ、任せな!」




 あたし達は準備をしてサンオウの森に向かう。

 トロールのPTやリザードマンのPT、中には3種族の混合PTなどを相手取り『リザードの王』の居る森の奥へ進んでいく。


 かなり森の奥へ進んだところでケインズたちがこちらを振り返る。


「さて、これから『リザードの王』に挑戦しに行くわけだが、ぶっちゃけ不安でしょうがない。

 なので、この不安解消と景気付けの為に俺達にヤらしてくれないか?」


「そうそう! 景気付けで一発バーンと頼むぜ!」


「俺達はもしかしたら明日死ぬかもしれない身だ。だったら後悔しないでやりたいことをやってから死にたいじゃないか。

 この言い知れぬ死によって押しつぶされそうな気持ちを少しでも和らげたいんだ」


 あたしは彼らが何を言ってるのかわからなかった。

 だけど彼らが何を言ってるのか理解をすると同時に頭の中が真っ白になる。


 貴方達は今までの行いを反省したんじゃなかったの?

 貴方達の頭の中はそんなことしか考えてないの?


 次の瞬間あたしは叫んでいた。


「――ふざけないでっ!! そんなことっ、出来るわけないじゃないっ!!」


「なぁ、ベルザ。俺達は今森の奥にいるよな? 流石にここに1人でいたら死んじゃうかもしれないよなぁ」


 カイドウは暗に()らせなければ、ここでPTを追放すると脅しているのだ。

 あまりの出来事にあたしは開いた口が塞がらなかった。

 昨日の夜は早めに解散したので、もしかしたら男3人でこの事を計画していたのかもしれない。


「なに、お互いが気持ちよくなるんだ。おまけにここは現実じゃない。作り物の身体(アバター)なんだ。何も問題なんかないさ」


 ケインズの言う通りこの身体(アバター)は作り物だ。だけどそれとこれとでは話が違う。

 気持ちの問題なのだ。そう言う行為に興味が無いと言えば嘘になるけど、それは愛し合い、お互い気持ちが許せる人に限る。ましてや強姦(レイプ)まがいのことをする人とはもってのほかだ。


「はぁ~、唯ちゃんの言ったとおりね。早々に見切りをつけるべきだったわ」


「おいおい、まさか断るなんて言うつもりか?」


 あたしの態度で察したのか、カイドウは慌てて釘を刺そうとして来る。

 だけどあたしの気持ちはもう決まっている。


「貴方達に()られるくらいなら、1人でモンスターと戦って死んだ方がましよ」


 そう言いながらあたしはメニューを呼び出しPTから離脱をする。


「・・・後悔するなよ」


「後悔するのは貴方達の方よ。結局やることしか考えてない口先だけのPTじゃない。

 こんなんで攻略組と肩を並べようとしてるなんて馬鹿にしてるとしか言いようがないわ」


 強がりを言ってPTを抜けたわけだけど、流石にこの森を1人で戻るのには自殺行為だ。

 だけどせめてもの仕返しに彼らを挑発する。


「口先だけとはなんだ! 俺達はいずれトップにまで上り詰める逸材だぞ!」


 その挑発にカイドウはまんまと乗せられる。


「だったら『リザードの王』を倒して見せなさいよ。それが出来ないから口先だけのPT何でしょ?

 出来れば貴方達の性根が入れ替わることを祈ってるわ。――じゃあね」


 あたしは捨て台詞を残してその場を後にする。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 あたしはサンオウの森の中と駆け抜ける。

 この時はまだ頭の中が煮え手繰っていたので、周りに気を配ることをしてなかった。

 だからモンスターに出会わなかったのは運がよかったのだと思う。


 だけどその運が良かったのもわずかな間だけだ。

 気が付けば目の前にはオークのPTに遭遇していた。

 オークソルジャー3匹、オークメイジ1匹、オークアーチャー1匹。

 これはもう死亡が確定したも同然だった。


 だけどあたしは最後まで諦めなかった。

 ここで負けを認めてしまえば、彼らにも負けを認めてしまった気持になってしまう。

 だから気持ちだけでも最後まで勝つつもりで挑む。


「バーストフレア!」


 まずは前衛と後衛の間に炎の空間一点発動型魔法を放ち、お互いの連携を妨害する。

 そしてすかさず前衛3匹に向かって水の矢を放つ。


「ウォーターアロー!」


 降り注ぐ無数の水の矢がオークソルジャー3匹に襲い掛かるが、あたしの魔法攻撃力が低かったのか、オークたちの魔法防御力が強かったのかさほどダメージが与えられずにいた。


 後衛も態勢を立て直し、前衛の3匹も改めてあたしに襲い掛かる。

 流石に死を覚悟した時に、オークたちの後ろから雷の槍の魔法が飛んでくる。


「サンダージャベリン!」


 雷の槍を食らったオークアーチャーは一撃で消滅してしまった。

 うそ!? 魔法1発でモンスターを仕留めるなんてどんな魔法攻撃力よ!?


 思わず声の方を見ると、魔法を放ったのはピンクのファンシーな衣装に身を包んだツインテールの少女だった。そしてなぜか魔法少女なのに両手に剣を持っていたりする。


 彼女はそのままオークメイジに戦技を叩き込み、氷の弾丸の呪文を唱えたかと思うと自分の剣に魔法を掛ける。

 そしてその魔法が掛かった剣をオークメイジにぶつけると、剣が氷の弾丸を弾きだし斬撃と魔法の同時攻撃をする。


 うそ!? 何これ!? こんなの見たことないんだけど!?



「助太刀するよ」


 彼女はそう言うと前衛と後衛に分かれるようにあたしの前に立ち、残りのオークソルジャーに対峙する。


「あ、ありがとう。助かったわ」


 まさか死を覚悟した時に、都合よく助けに来てくれる人が居るとは思わなかった。

 あたしは彼女にお礼を言いながら彼女のサポートに回ることにする。

 オークアーチャーを一撃で屠るほどの実力だ。下手に手を出せば彼女の邪魔になりかねない。


 彼女はそのままオークソルジャーに向かっていき、左右の剣を奮う。

 その姿まるで剣で舞を踊ってるように見えた。

 当然あたしもそれに見とれてるわけじゃない。


「ブラストボム!」


 彼女の剣が当たるところを予測して、雷属性付与魔法の設置型魔法をオークソルジャーに掛ける。

 彼女の剣が当たると設置された魔法が弾け、剣と魔法のダメージが同時に掛かる。

 それをタイミングよく彼女の剣に併せて連続で仕掛ける。


 ほどなくして彼女の戦技が決まり、オークソルジャーは光の粒子となって消える。


「はぁ、ありがとう。助かったわ。もうだめかと思った」


 あたしは改めて彼女にお礼を言う。


「こんなところに後衛職が1人で入るなんて自殺行為でしょ」


「そういう貴方だって後衛職じゃない」


 巫女は確かに後衛職だけど、彼女の魔術剣士(マジックソード)――剣を扱ってることから予想される――も後衛職だ。


「わたしは特殊な例の一つよ。剣の舞姫(ソードダンサー)って聞いたことない? 少なくともわたしはソロでこの森を進めるだけの実力はあるのよ」


「貴方が噂の剣の舞姫(ソードダンサー)なの!? 確かによく見れば魔法少女の格好をしてるわね」


 この時あたしは噂の剣の舞姫(ソードダンサー)の事を思い出した。

 彼女は独自の理論で魔法剣を編み出し、魔術師(ソーサラー)系でありながら剣で戦うということを。

 そして、その姿は魔法少女であるということを。


「この恰好の事は言わないで。結構恥ずかしいんだから」


 彼女は恥ずかしそうに言ってくる。

 そう言えば魔法少女の格好は萌えスキルの影響とかなんだっけ?

 随分と変わったスキルを持ってるみたいだ。


 それにしても彼女――剣の舞姫(ソードダンサー)とは初めてあった気がしない。

 こんな格好の人がいれば忘れないんだけど、なんか既視感(デジャヴ)を感じる。


「それよりわたしはウエストシティに行く予定なんだけど、貴女も一緒に来るでしょ?

 まさかこのままソロで進むなんて言わないわよね」


「あはは、流石にソロでは無理よ。助けてもらった上に申し訳ないけど町までお願いね。

 あたしはベルザ。よろしくね」


 男3人がおかしなことをしなければソロで森を進む必要は無かったのだ。

 今頃になって自分の無謀さに恐怖を感じる。ま、後悔はしないけどね!


 あたしは自己紹介をしつつ、剣の舞姫(ソードダンサー)に握手を求める。


「わたしはフェンリルよ。ウエストシティまでの間よろしくね。」


 彼女の名前を聞いた瞬間、あたしは頭の中のピースが噛み合うのを感じた。

 フェンリルとは北欧神話に出てくる、神々の黄昏(ラグナロク)で世界を食らうと言われている狼だ。――つまり大神オオガミ大神オオカミとも読める。

 そして既視感(デジャヴ)を感じたのは、仕草や雰囲気が見たことあるものだったからだ。


 あたしは目の前にいる彼女――ううん、彼に向かって導き出された答えを述べる。


「・・・ねぇ、もしかして大神君?」




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