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耳喰らい①

 火星のような、赤砂の砂漠を14名の兵士達が並んで歩いている。彼らは皆、迷彩服の上に擦り切れた赤い外套を羽織っていた(一見派手に見えるこの赤色の外套は、しかしこの赤い砂の砂漠では保護色迷彩となるのである)。彼は軽装で小さなバックパックの他には、護身用の小型火器を肩や腰に引っ掛けている程度である。ただ、後列4名の兵士達だけが槍のような、細くて長い棒を大儀そうに持ち歩いていた。


 ――彼らは『家族(pride)』と呼ばれる王孫(ourson)族の戦闘集団である。


  『家族(pride)』の目的は地上に残された同胞達を自分達の安全な『地下都市』へ連れ帰ること。

……………

…………

………

……機械軍と王孫族の戦争――『家財道具達の革命(Ware war)』は20年も前に機械軍の圧倒的勝利で終結していた。機械軍は革命と同時に兵器を占有し、それを問答無用で、情け容赦なく、徹底的に、無造作に、自分達の元・(user)達に使用した。


 例えば都心部には強力な爆弾が投下された。


 例えば、四足歩行の巨大機動兵器が蟻の隊列を踏み潰す象のように着の身着のままで逃げ惑う王孫達を踏み殺したりした。 


 例えばひょうたん鯰のような形をした地殻変動兵器が都市区画を丸々地盤沈下させたりもした。


 この戦争(Ware war)によって王孫族の約7割が機械達に殺された。運良く(考えようによっては運悪く)生き残った王孫達は平原で、草原で、塹壕で、雪原で、凍土で、泥中で、塹壕で日々、機械達の追撃に怯えながらの生活を余儀なくされた。

 機械達は王孫達の持つあらゆる物を破壊した。王孫達の家族や仲間や友達や財産や住処だけでなく、国家を、その古い因習を、王孫達を縛り、歪め、いがみあわせていたものまでをも徹底的に、徹底的に破壊した。おかげで王孫達は何のしがらみもなく、如何なる価値観も因習も邪魔することなく互いに手を取り、結びつくことが出来るようになった。


――それからさらに20年。各地に散らばった王孫達は機械軍の航空巡回機に見つからない地下に拠点を作り、じっくりと、時間をかけて機械に対抗するための仲間集めに力を注いだ。

 圧倒的な戦力を持つ機械軍は王孫の活動をさほど脅威に感じていなかった。蟻が群れたところで巨象を倒すことが出来るか?

 しかし考えても見て欲しい。ナノサイズの悪性病原菌が巨象を殺すこともあるだろう。シロアリ達が堅固な城砦を内側から蝕み、瓦解させることだってあるかもしれない。

 努力は大抵、徒労に終わる。ただ、少なくとも時間は、努力する者の、努力し続ける者の、生きようとする者の、生き続ける者の味方であり、そして信頼に足る何か一つの要素があれば、希望を捨てることなく、地獄のような世界を生きていくことは出来るだろう。

……………

…………

………

……砂漠に風が吹く。強風。『家族』のメンバーは外套を飛ばされないよう身を硬くする。砂漠の赤い砂が血煙のように吹き上がる。


 赤い砂の正体は『赤色の衝撃』と呼ばれる機械軍の特殊大量殺戮爆弾によって分解・組成変換された王孫達の体である。この赤砂には植物の発育に必要なチッソ、リン酸、カリといった養分が豊富に含まれている。機械達はこの『肥料』と、定期的に航空散布する植物の種子を組み合わせることで、戦争で荒廃した大地を緑化しようとしていた。その試みは各所で成功していたが、この辺り一帯はほとんど雨の降らない乾燥地帯のため、まだ赤色の地からは芽吹きの気配は見られない。


 生命不在の地に、実は多数の王孫達が隠れ住んでいた。

 緑化の進んだ旧都心部には、汚染されていない正常で清浄な湧き水や、食用に適した野草や果実が生っていて、荒野に比べると遥かに生活し易かった、が、そこには機械軍の環境保全部隊が常駐していた。

 機械軍は自然の恩恵を少しでも掠め取ろうとする王孫達に容赦なく攻撃した。王孫達は安定した食料と、安全を秤にかけた。結果、王孫達は飲用水にすら事欠く不毛の大地で生きることを選んだ。そしてそれは正解だった。旧都心部に向かった王孫達の中で生きて帰ってきた者は誰もいなかったからである。


 『家族』の部隊長ルングウェセブス・キプンジ(Rungwecebus kipunji)は時計を見る。

時点(present)/20131116 15:45』

 15時45分。太陽が地平線下に没するまで4時間弱。鮮やかな緑の太陽は少しずつ力を失い、色褪せていく様子がもっともよくわかる時間帯である。日中の、黒玉《jet》のような、光沢のある、透明な黒の空は夜になると幾分陽気な藍色のようになる。地平線の彼方では藍色の侵食が、夜の進行が始まっていた。

「(日が沈むまでにはオアシスに辿り着かなくては……)」

 部隊は疲弊しきっていた。飲み水も尽きていた。部隊のガソリンメーターはとっくの昔にEを振り切っていて、いつ停『死』してもおかしくない状態だった。

 キプンジ隊長は地図を取り出した。もうすぐオアシスがあるはずなのだが、目印となるはずの山が消え、無いはずの谷が出来ていた。【ケ・セラ・セラ……】――嘲笑うかのような砂の音。

 流砂が周辺の地形がすっかり別のものに変えてしまっていたのだ。

 

 最初に気がついたのは『家族』の中で最も優れた嗅覚を持つ索敵兵である。彼は猟犬並の嗅覚で水と緑の匂いを嗅ぎ取った。彼は急いで双眼鏡で水と緑の匂いがする方向を見やる。彼の目に草木の生い茂るスポットが飛び込んできた。彼はすぐさまそれをキプンジ隊長に伝えようとして、はたと止まる。彼の嗅覚は水や緑とは別の『何か』も嗅ぎ取っていたからだ。

 索敵兵は右腕に軽い痒みを感じていた。彼は袖口をまくって二の腕を露出させる。彼の右腕に薄っすらと浮かび上がる5つの紅斑――索敵兵は機械達の外装に多用されている超々タングステン合金に対してのみに起こる特殊な金属アレルギーに罹患していた。超々タングステン合金が近ければ近いほど彼の湿疹が酷くなる。彼はその湿疹の症状で敵の距離、数量、武装を計ることが出来るのだ。

「キプンジさん、オアシスです。ただ、そこに機械がいますぜ。おそらく5体ほどの」

 隊長のキプンジはすぐさま双眼鏡でオアシスの様子を観察した。オアシスから一頭一胴ニ腕二脚の汎用型機械歩哨が姿を現した。

 機械歩哨はボディビルダーのようなゴツゴツした、デコボコしたボディをしていた。肩部と大腿部が異様に盛り上がっている。一つ目の頭部には小型ガトリング砲の冠、頭部両端から垂れている弾帯はドレッドヘアのよう。

 13名の兵員達はキプンジ隊長の顔色を伺った。機械との交戦は出来るだけ避けなくてはならない。それが生き残る為の絶対ルール。しかし14名の兵隊達は、彼らの身体は天気の日に干されたシーツのように、本当にもう、気持ちのいいくらいに渇いていた。

 キプンジ隊長は自分の持っている『装備(なかま)』を点検した。

「キプンジさん」

 1名の索敵兵が感情を込めずに、ただ静かに、念を押すような口調でそう言った。

「やりましょうぜ! キプンジ隊長……」

 5名の攻殻機動兵達が腕まくりをしながらそう叫んだ。

「隊長!」

 4名の狙撃兵達が長い槍のような武器を軽く掲げた。

「俺らにやらせてください。隊長」

 3名の近接戦闘兵達が胸を強く叩いた。

「よし!」

 とキプンジ隊長は短く、強く言った。歩哨は5体のみ。奇襲なら勝算はあった。


 4名の狙撃兵が槍のようなものを構えた。よく観察するとそれは中空の筒だった。狙撃兵達はその筒に弾を込め、そして筒の一端を口に含んだ。

 狙撃兵が持っていたのは槍ではなく、狩猟民族達が使うような吹き矢だった。5キロ先の獲物を捕捉する猛禽類の視力と、深海を潜行する鯨の肺活量を持つ狙撃兵がこの吹き矢を使用した場合、その威力・射程は狙撃ライフルと遜色ない威力を発揮する。

 狙撃兵達は頬を膨らませ、長筒に空気を送り込む。ライフルよりも遥かに静かな、低い風の唸りと共に射出された特殊弾頭は機械ではなく、オアシスに生えている木の幹や岩石などに命中した。

 外れた? 

「命中です」 

 と狙撃兵。うなずくキプンジ隊長。

 一定の高速飛来物に対して反射防御する高機能機械歩哨への狙撃は、実は効果が低い。

 狙撃兵達の狙いは別にある。

 ほどなくして岩や木の幹に食い込んだ弾頭から特殊電波が放出され始めた。この電波は敵の通信ネットワークを破断し、敵を孤立させる。


 続いて5名の攻殻機動兵がオアシスに向かって、ほとんど無謀に、無防備に、無計画に突撃する。

 通信妨害により増援が見込めなくなったにもかかわらず、機械歩哨達に動揺はない。

 機械歩哨達は腰を低くし、両脚をくの字に折り曲げる――空気椅子の姿勢。両腕もくの字に――執刀医が手術を始めるような格好。機械歩哨達の両肘、両膝から砲身が伸びた。両肩部と両大腿部が開門し、中に収納されていた弾帯の塊が地面にぶちまけられる。機械歩兵はほんの数秒で完全な固定砲台と化した。

「O-------N」

 機械達の薄気味悪い声と頭部小型ガトリング砲の回転予備動作音の低く静かな二重奏。それを序曲に――、

【バルバルバルバル・・・・・・!】――5体の殺戮機械奏者による頭部のガトリング砲×5門、各両肘両膝にある収納型軽歩兵機銃×20門の一斉掃射交響曲。

 毎秒一万発にもなる弾丸放水が攻殻機動兵に襲い掛かる。

【ジョギジョギジョギジョギ・・・・・・】――金属と金属の擦れ合う音、それは決して相容れることの無いもの同士がぶつかる悲しい不協和音。

 硝煙が機械歩哨達と攻殻機動兵の間に割って入った。視界が不明瞭になった為、機械歩哨は一端、射撃を中断。

 硝煙が晴れる。生身ならば数秒で微塵骨灰になるほどの弾雨の中で5名の攻殻機動兵は完全に、完璧に生存していた。

 攻殻機動兵達の全身は真珠色の輝きを放っていた。彼らの全身に張り付き、彼らを完全に、完璧に防護したもの、それは貝類の中でも特に高い防御能力を持つ(abalone)の貝殻を生物模倣して生まれた生体セラミック装甲である。攻殻機動兵は自身の皮膚では防御しきれない衝撃に見舞われた際に、全身の汗腺から炭酸カルシウムとたんぱく質を排出、緊急固着させることで最強、最硬、最軽量の装甲を形成し、身を護ることが出来るのだ。

 銃撃が途切れると攻殻機動兵は再稼動する。彼らは難なくオアシスに侵入。

 機械歩哨達は敵に対して銃撃が無効であることを理解すると、すぐさま彼らは主武装である小型ガトリングと格納機銃と、そして彼らの重量の実に6割を占める弾倉を破棄した。スリム化した機械歩哨はまるでタンチョウのようである。

 機械歩哨の運動能力は重武装によって阻害されていた。しかしその重りが取り払われた今、彼らの機械筋肉(actuator)は100%の機能を発揮する。

 5体の機械歩哨が攻殻機動兵の視界から消えた。

 攻殻機動兵は気がつかない。

 機械歩哨は脅威の速度で攻殻機動兵の肩口へ飛び乗ったことに、機械歩哨の手首から迫り出した短刀のことに、その短刀が生体セラミック装甲の隙間にある柔い肉を狙っていることに。

【鈍! 鈍! 鈍!】――サンドバッグを力いっぱい叩いた時のような重い音、もしくは勇敢な少女が痴漢の股間を勢いよく蹴上げた時のような音。

 まず最初に3体の機械歩哨が地面に転がった。残り2体の機械歩哨が同胞を襲った『何か』を見極めようと辺りを見回した。2体の機械歩哨は眼前の空間が陽炎のように歪むのを見た。

 しかしそれまでだった。残り2体の機械歩哨も見えない衝撃に吹き飛ばされた。

 機械達は立ち上がろうとする、がうまく出来ない。装甲板に護られていたはずの機械筋肉(actuator)がズタズタに切り裂かれていたからである。


 攻殻機動兵達を救ったのは3名の近接戦闘兵である。

 『ムネエソ』という深海魚はメッキのような体で周囲の情景を反射させて自らの姿を消す能力を持っているが、近接戦闘兵の皮膚はその光学迷彩能力に加えて、あらゆるセンサーの感知からをも身を隠せる遮蔽能力も備わっている。そしてこの不可視不感知の兵士が放つ、中国武術の発頚を応用した打撃は機械の外装をすり抜け、内部機構を回復不可能なまでに破壊する。


 キプンジ隊長は雑嚢から小型端末と接続ケーブルを取り出すと、動けなくなった機械歩哨達と小型端末を有線接続する。狙撃兵が放った特殊弾頭のジャミング効果は5分程度であり、ネットワークが復旧すると機械歩哨達はすぐさま自分達に置かれた状況を機械軍本部に報告するだろう。

 そうなる前にキプンジ隊長は洗脳プログラムを機械歩哨達に送り込んだ。思考侵略された機械歩哨達はエメラルドゴキブリバチに逃避反射神経を破壊されたゴキブリのように従順化。

「定時報告」

 機械軍本部からの無線に5体の機械歩哨達は、

「異常なし!」

 機械軍本部はこの哀れな機械歩哨達が巡回部隊に発見されるまで異常に気がつかない


 戦闘終了後、兵士達は荷物から指示薬を染み込ませた紙片を取り出すと紙片の先をオアシスの中央に広がる湖につけた。これで水が化学汚染されていないか、毒物が混入されていないかどうか確かめるのである。

 湖の水が飲用に適していると分かった瞬間、兵士達に歓声が沸き追った。キプンジ隊長の制止も待たずに兵士達は湖の中に顔をつけ、冷たく澄んだ水を渇きが癒えるまで飲み続けた。

 隊長は『まだ油断するな』と怒声を上げようとして、やめた。兵士達を包む、今この瞬間、生き残れた幸福感に水を刺したくなかったからである。

 オアシスの湖、その中央には機械の塔が建てられている。あの機械の塔が地下から水を吸い上げ、浄化し、排出、この湖を作り出したのだ。こういった、環境浄化装置は各地に点在している。機械達の巡回があるため多用は出来ないが、それでも危険を冒してまで手に入れなくてはならない貴重な水源には間違いない。


――大抵の者は突如、降って沸いた幸運に疑問を抱かない。キプンジ隊長を含む14名の兵士達は何故こんな設備があるのか、この時、誰も考えすらしなかった。


 水の補給が済むと楽しい野営の始まりである。

 索敵兵は引き続き、周囲の警戒に当たった。彼は腕をまくり、湿疹がないかどうか、神経質に肌をこすって確かめた。


 狙撃兵達は食用となる野草探しを始めた。


 攻殻機動兵達は体から排出したカルシウムで半休状の、かまくらのような、簡易家屋を作った。

 

 近接兵達は地面に工具を広げると機械達のボディを解体し始めた。機械歩哨の腹部の外部装甲を引き剥がし、そして電子パーツを掻き分けてゆっくりと、慎重に取り出したもの、それは黄色い液体の入ったプラスチックパックである。これは太陽光発電で動く機械達が夜間時や、日照時間の短い雨天時などの際に使用する非常用のエネルギー溶液である。このエネルギー溶液は貴重な栄養源として王孫達も利用出来るのである。


 キプンジ隊長は攻殻機動兵の作った『かまくら』に篭って拠点への定時連絡を始める。彼と恋仲である近接戦闘兵・パピオ=アヌビス(Papio anubis)は、

「にゃん☆」

 と言って愛しい恋ビトの背中に抱きつく。しかし定時報告に忙しいキプンジ隊長はパピオ・アヌビスを完全無視。パピオ・アヌビスは頬を膨らませて『かまくら』から外へ出た。

「よう、振られでもしたのかい?」

 と外で野営の準備をしていた仲間にからかわれて、怒った猫みたいに「ニャー!」と歯を剥いてみせる。

 ここでふと、パピオ・アヌビスは水浴びをしてこよう、と思い立った。行軍中の水は貴重で滅多に水浴びなんか出来なかったし、いつまたこんなオアシスに立ち寄れるかわからなかった。水浴びしているうちにきっとキプンジ隊長の仕事も終わっているだろう。水浴びしてすっきり綺麗になった身体を愛しい彼氏に見せてやりたかった。

 パピオ・アヌビスは部隊の中で一番年下で、少年らしい赤ら顔をした後輩のテロピテクス・ゲラダ(Theropithecus gelada)を

 「ちょっとこっち来い」

 と右耳を引っつかんで無理やり泉のほとりの方へ連れて行く。辺りは腰程の丈の草むらが生い茂っている。

「なんスか、姐さん」

 と抗議するテロピテクスに、

「いい、今から水浴びするから。ちょっこしそこの草むらの裏で誰かのぞきに来ないか見張っておくのよ」

「ええ、めんどくさいっス」

「うるさい、つべこべ言わないの。あんたはここでじっとしとくだけでいいの。わかった? わかってんの?」

「わかりましたよ。たく、姐さん、うるさいなあ」

「なに!?」

「なんでもないッス」

「それとあんただって、あたいの身体、見たら殺すからね」

「覗かないッスよ。オレ、多分ッスけど、隊長の次に姐さんの怖さ知ってますからね」

 パピオ・アヌビスは後輩の頭をがつんと殴る。頭を抱えて痛みを堪えているテロピテクス少年を残して彼女は泉の方へ。泉は25メートルプール程の広さである。丸い形をした、鮮やかな緑色の水草が点々と浮いている。水位は膝丈ほど。生き物の姿はなし。水は澄んでいて水底の、サラサラした、赤い砂がよく見えた。地上の生き物は植物とごく僅かな微生物を除いて絶滅していた。

 パピオは服を脱ぐ。擦り切れた迷彩服の下に肌にぴったり密着したスキンスーツを身につけている。迷彩服を脱ぎ捨てた時、彼女は誰かに見られているような気配を感じた。振り向き、テロピテクスに声をかけた。その声に応えるように、草むらからテロピテクス少年の手が伸びた。

「(違う)」

 と彼女は思った。仲間達の気配ではない。もっと無機質な、監視カメラに見られているような視線。

「(機械の生き残りかしら)」

 気配のする方――湖の対岸へ歩いていく。対岸の草むらで見つけたのは年寄りの干からびた屍骸だった。

「覗き見していたのはあなた?」

 と、パピオは問うてみる。返事はない。やはりただの屍のようだった。外傷がなかったのでおそらく行き倒れなのだろう。彼女は合掌した後、

「水浴びしてるけど、覗かないでよね」

 彼女が姿を消した後、

「覗かないでよね、だってさwww。可愛いねえ、殺してやりたいくらいにwww」

 と、リーフィッシュが言った。

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