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第6話 まものたいじを まかされたぞ

 ……しかし、俺は本当に魔王の力なんて手に入れたのか?

俺は昨日から幾度と無く見ている自分の右手を握っては放してみた。

あの時、ゴブリンに止めを刺されそうになった時は、確かに妙な力みたいなものが沸いてきた気がするけど……。

 今日も天気はいい。

眩しい日差しが降りる中、俺は城下町をギルドに向かって歩いていた。

昨日は、あの後……ゴブリンを倒した後はアクシルとシャルアに賞賛の声をもらったが、結局薬草集めは中断して帰る事にした。

アクシルは渋ったが、俺自身はゴブリンを倒せたという自覚もなく、また襲われても倒せる自信はなかったからだ。

シャルアの回復魔法にも期待できそうになかったし……。

 結局、あの後、アクシルの傷はシャルアの回復魔法で癒してもらえた。

魔法を唱えるのに5分もかかったけどな。

まあ、箱入り娘で実践経験も無いんだ、仕方ないか。

魔法がどれだけ難しいものかも俺には分からないし。

 そんな事を考えながら歩いていると、ギルドの前まで辿り着いた。

ふと、道の脇に生えている木に目がいった。

……魔王の力か……ええっと、昨日はこうやって……。


「魔王に楯突くとは……」


 俺は拳を固めた。

 

「いい度胸だっ!」


 固めた拳を木に打ち込む。

ごん、という音をたてて、俺の拳は砕けた。

木に楯突いた俺の方がいい度胸だったらしい。


「っくうぅ~……」

「何やってんだ?」


 右手を押さえてうずくまる俺に、背後からアクシルの声がかかった。

見ると、彼は棍棒を肩に抱え、呆れた顔で俺を見ていた。


「い、いや……一人芝居の練習……」

「おおっ! お前の一人芝居は戦闘ものかっ!? 楽しみだぜ!」


 本当にこいつは馬鹿で……あ、いや、単純で助かる。

ここで「魔王の力を試していた」なんて言うと、妙に食いついてきて話がややこしくなりそうだ。

昨日の事もあったし、見せてくれ、としつこく頼まれるに違いない。


「そのうち見せてやるから、ギルド行こうぜ」

「おう!」


 俺はそう急かすと、アクシルは何事もなかったように勢いよくギルドの扉を開けた。

今は午前中だ、ギルドの中には多くの冒険者が居た。

皆、これから仕事を探して各々の仕事の現場に向かうのだろう。

俺達はいつものカウンターの、いつもの受付嬢の前の席に向かう。


「お、シャルア、おはようさん」

「あ、おはようございますっ」

「あら、アクシルさん、おはようございます」


 アクシルが陽気に挨拶した先にはシャルアの姿があった。

シャルアの座るカウンターの前には水の入ったグラスが置いてある。

どうやら彼女は先にギルドに来ていて、受付嬢と話でもしていたらしい。


「シャルアさんから聞きましたよ、ゴブリンを倒したんですって?」

「おおっ、そうだ! 昨日はゴブリンと死闘を繰り広げてよ!」


 あ、そうか、昨日はまともに薬草も集めてなかったから、ギルドに寄らずに家に直行したんだった。

普段は大抵アクシルの方が俺よりも先にギルドに来ていて、受付嬢にナンパ……いや、武勇談に花を咲かせているんだが。

昨日の事はどうやって脚色するんだろう。

俺はちょっと気になって、アクシルの話に耳を傾けるとした。


「俺達はいつものように薬草を集めてて、シャルアに薬草の集め方なんかを教えてやってたんだ。

 意外とシャルアも薬草集めが上手くてよ、シャルアが一本の薬草を見つけた、その時だった」

 

 そこでアクシルは俺の背中を強く叩いた。


「ディールの奴が、魔物の気配がする、気をつけろ! って言ったんだ。

 その時おれは半信半疑だったね、一昨日も襲われたんだ、そう都合よくまた襲われる訳が無いってな」

「ふふ、そうですか」

「だけどよ、昨日はシャルアも連れてきてたんだ、危険があっちゃいけねぇと思って、俺はディールの言う気配の所に向かったんだ。

 武者震いってやつか? 俺はこの棍棒を持つ手が震えるのを感じたんだ。

 今か今かと迫る戦いに備えて、獲物を狙う俺の両手が疼いてたんだろうな」

 

 単にビビってただけだろ。

俺はそう言いたいのをぐっと堪えてアクシルの話に耳を傾ける。


「そして気配の方に近づくと、いやがったんだ、ゴブリンの奴が!」

「ふふ、それは驚きますね。

 そして、ゴブリンと戦って倒したんですね」

「おう、俺の棍棒が宙を裂き、怯んだゴブリンにディールが止めを刺したんだ!」


 アクシルは気付いているんだろうか、受付嬢に随分と話を省略されてしまった事を。

普段なら、これからまだしばらく戦闘の様子が語られるんだろうな。


「先手を打った俺はゴブリンと熱い闘いを繰り広げた!

 しかし、ゴブリンは一瞬の油断をついて俺の脇腹に一撃を浴びせてきた!

 そして傷ついた俺を、シャルアが癒してくれたんだっ!」

「えっ? は、はいっ」


 突然話を振られ、シャルアは驚いたように返事をした。

まあ、アクシルもあながち間違った事を言ってはいないな。

過度な脚色が含まれてはいるが。

というか、アクシルは冒険者よりも作家か何かになった方がいいんじゃなかろうか。


「ふふ、大変でしたね。

 でも……ゴブリンを倒せるくらい実力がついてきたのであれば……」

 

 受付嬢は手元の資料をめくり、視線を走らせた。

 

「シャルアさんの回復魔法もある事ですし、今日は別のお仕事をやってみませんか?」

「うお、マジか!? どんな仕事だよ!」


 アクシルのテンションはピークに達していた。

食って掛かろうかという勢いで彼は受付嬢を見ている。


「そうですね、このゴブリンの巣の残党退治のお仕事なんてどうでしょう」

「おおっ! やるやる! な、ディール!」

「え? お、おう」


 思わずそっけなく返事をしてしまったが、正直俺も胸の高鳴りを隠せなかった。

遂に薬草集めの仕事から魔物退治の仕事へのランクアップ……!

 だが、俺の不安は、やはりシャルアの詠唱の遅すぎる回復魔法と、本当に身についたのかどうかも分からない魔王の力だった。

いくらゴブリンの残党退治という本格的な魔物退治の仕事ではないとはいえ、正直、まだゴブリンを倒せるか自信はない。

さっきも、木の前に俺の拳は砕かれたしね……。


「この仕事は、昨日討伐されたゴブリンの巣付近の、ゴブリンの残党を退治するお仕事です。

 場所はティターニア平原の西の方にしばらく進んだところです。

 地図をお貸ししておきますね」

 

 そう言うと、受付嬢は一枚の地図に印をつけてカウンターに置いた。

 

「この付近です。

 昨日討伐が済んだばかりですので、付近にまだゴブリンが居る可能性があります。

 それの討伐というのが今回のお仕事です」

「うおお、ゴブリン討伐か……! 腕がなるぜぇ!」


 アクシルは右手を握り、拳をかかげると、明後日の方向を向いていた。

おそらく、ゴブリン相手に獅子奮闘する自分の姿を思い浮かべているのであろう。


「それでは、ゴブリン残党退治のお仕事、ディールさんも請けてもらえますか?」

「え? あ、はい」


 俺は闘志に燃えるアクシルに見とれてしまい、思わずそっけない返事で仕事を了承する。

あまり自信はないが……まあ、本格的な魔物退治の仕事でもないし、いざとなれば逃げればいいか。


「それでは、この集魔のお守りをお渡ししておきますね」


 そう言って、受付嬢は透明な水晶が埋め込んであるペンダントをカウンターに置いた。

 

「これは魔物を退治すると、その魔力の一部を吸収するペンダントです。

 魔力が溜まっていくと、少しずつ黒く色が変わっていきます。

 お仕事が終わったら、これを忘れずにギルドに返却してください。

 これを持たずに魔物を討伐しても報酬はお支払いできませんのでご注意下さいね」

 

 なるほど、ちゃんと魔物退治の仕事をしてきたかを確認する道具みたいなもんか。

ということは、ギルドの討伐の仕事も薬草集めと同じで、出来高制って訳か。

こういった魔法の道具については詳しくないけど、たぶん、このお守りに倒した魔物が記録される感じなんだろう。

仕事を請けるだけ請けても、サボってちゃあ報酬は貰えない仕組みになっているんだな。


「予めお伝えしておきますが、このペンダントはパーティにつき一つです。

 誰が持っていても構いません。

 報酬もパーティ単位なので覚えておいて下さい」

「おう! んじゃあ俺が持っておくぜ!」


 アクシルはそう言うと、ペンダントを自分の首にかけた。

 

「絶対に無くすなよなー」

「おう、まかせとけよ!」

「もしも無くしちまったら……報酬はゼロってことだよな?」


 俺は受付嬢を問うように見る。

 

「はい、そう思ってもらって構いません。

 ですが、魔物討伐の基本報酬はお支払いします」

「基本報酬ってどれくらい?」

「今回のこのゴブリンの巣の残党討伐のお仕事の基本報酬は、一日で銀貨1枚です」

「んじゃあ、ゴブリンを倒した時の追加報酬は?」

「最初の一匹は、銀貨2枚が追加されます。

 それ以降は一匹につき銅貨3枚になっていきます。

 後は、総合的な追加報酬ですね」

 

 ……なるほど、ゴブリンを一匹でも倒したという証拠があれば、ちゃんと仕事をしたと見なされるのか。

例えば、ゴブリンを一匹も倒さずにギルドに報告をすれば、3人で銀貨一枚……一人頭銅貨3枚ってところか。

これなら一日かけて薬草集めした方が儲けはいいな。

じゃあ、ゴブリンを一匹だけ倒したら……一人頭の銀貨は1枚……これも薬草集めの方が割りは良いな。

仮に、ゴブリンを10匹倒せたとしたら、銀貨は6枚、一人当たり2枚か。

昨日のアクシルの薬草集めの仕事も銀貨2枚だったよな。

うーん……そこまで割のいい仕事とは思えないが……。


「ふふ、最初は余り報酬には期待しない方がいいですよ」

「えっ?」


 俺が一人悩んでいると、受付嬢はそれを見透かした様にそう言った。

 

「本格的な魔物退治のお仕事だと、中級冒険者さんなら一日でゴブリンは何十匹も倒してきますよ。

 それに、もっと格上のモンスターもたくさん退治してきます。

 ゴーレムなんかの中級魔物だと、一匹辺り銀貨5枚を報酬にしているんですよ」

「そ、そうなんだ……」

「最初は魔物退治のいろはを学んで下さい。

 実力をつけていけば、いずれは魔物退治のお仕事だけで食べていけるくらい稼げるようになりますよ」

 

 そういう受付嬢の笑顔はいつもより優しげに見えた。

そうか、初級冒険者支援って思えば、報酬を貰えるだけまだマシか。


「それと、薬草集めの報酬とは比較しないで下さいね。

 お二人の薬草集めの技術は本業の方も顔負けするくらいの実力はあるんですから」

 

 普段はあまり気にしてなかったけど、こうして改めて薬草集めの能力を認められると、ちょっと嬉しかった。

……まあ、それだけ今まで薬草集めの仕事ばかりをやっていたという事だけど……。


「それでは、シャルアさんもよろしいですか?」

「は、はいっ!」

「ふふ、回復魔法でしっかりと支援してあげてくださいね」

「はいっ! あれから練習して、初級回復魔法なら3分で唱えられるようになりました!」


 一瞬、受付嬢の顔が引きつった様に見えたのは気のせいだったのだろうか。

3分もあれば、自分で薬草を塗るなり、ポーションを飲むなりして回復できるぜ……。


「……お、おーし、それじゃあ、行こうか」


 俺は妙に凍りついた空気を打ち崩すように、柄にも無く先陣を切った。

 

「よっしゃ! ゴブリン共を倒しに行こうぜ!」


 アクシル、お前の威勢が今は頼もしいぜ。

かくして、俺達は初めての魔物退治の仕事を請け、ギルドを後にした。

正直、不安しかないけどな。


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