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第5話 まおうのちからに めざめたぞ

「それで、これとこれの薬草を集めるんだ。分かったか?」

「は、はい……。うーん……」


 俺はティターニア平原でシャルアに薬草の集め方を教えていた。

シャルアは難しい顔で、俺が先に摘み取った薬草の見本を見つめていた。

眉をしかめ、小さな口を尖らせて必死に薬草を覚えようとしている。

うふふ、可愛いなあ。


「あ、そうだ、この草だけは摘んじゃいけないぜ」


 アクシルは俺の風呂敷の薬草の隣に、一房の草を置いてみせた。

薬草や他の雑草と大して変わらない草だが、葉の先の方が丸まって尖っている。

 

「これは毒があるんだ。って言っても、腹を壊す程度だけどよ」

「え? は、はい……うむむぅ……」

「おいおい、一気に全部は覚えられないだろー」


 ある意味、俺とアクシルは薬草集めのプロだ。

俺達が簡単に見分けられる薬草と雑草、毒のある植物は普通の人にはすぐには見分けがつかないだろう。

ましてや、箱入り娘の新米神官だ、草なんて子供の頃に遊んだ時以来、意識して触れていなかったに違いない。

でもまあ……こうして悩んでるシャルアを見ているのも悪くはない、うふふ。


「ま、とりあえずは、この二種類の薬草だけを集めることに専念してくれ」


 俺は最初にシャルアに教えた二種類の薬草を、彼女の風呂敷の隅に置いてやった。

 

「は、はいっ、分かりましたっ」


 元気よくシャルアは答え、再び薬草に視線を落とす。


「ま、気楽になー。別にノルマも制限時間もないし。

 それに、薬草だけ見つめてても薬草は増えないぜ?

 とりあえず、草むらをいろいろ探してみなー」

「は、はいっ」


 この一生懸命な姿、可愛いなぁ、うふふふ。

元よりシャルアに薬草集め仕事を本格的にまかせた訳ではない。

ギルドの受付嬢が言った様にに、あくまで『同行させた』だけだ。

別にシャルアに働いてもらわなくても構わない。薬草集めは出来高制だしな。

 言ってみれば、彼女は俺達の護衛、と言っても差し支えないかもしれない。

ギルドの受付嬢の言葉の裏にはそういった意味が込められていたし……。

アクシルはたぶん気付いていないと思うけど。

でも、毎回、それも常に魔物に襲われる訳でもない。

ゴブリンに襲われる事よりも、この平原を見回りしている他の冒険者に出会う事の方がよっぽど多い。

そんな状況で、ただ何もしないで暇させているのはかわいそうなので、薬草の集め方を教えているという訳だ。


「あっ、あっ、これですか?」


 シャルアは一房の薬草を俺に差し出してみせた。

 

「そうそう、これが薬草だよ」

「これを集めればいいんですねっ」


 初めて見つけた薬草に少し興奮気味のシャルアは、大事そうに摘み取った薬草を自分の風呂敷に置いた。

陽の光を受けて透き通るように輝く金色の髪、無邪気な笑顔で薬草を見つめる薄青色の瞳。

神官服の純白さも相まって、彼女はさながら地上に舞い降りた天使の様にも見えた。

何が言いたいかっていうと、可愛い、ぐふふ。

 そんな俺とは対照的に、アクシルはさほど興味もないようだった。

ただ黙々と薬草を集めている。

お前は本当にあのギルド受付嬢が大好きなんだな。


「そう言えば、シャルアって何で冒険者ギルドなんかに?」

「はい、社会勉強ですっ」

「社会勉強ねぇ……」

「教会では、仕官して一定期間が過ぎると、必ず一度は冒険者ギルドで冒険者さん達のお供をすることになっているんです」

「なるほどね」


 神官にも大きく分けて二種類の職種がある。

一つは教会に常駐し、死者を蘇らせたり、呪いを解いたりする神官。

もう一つは冒険者に同行し、旅先で回復魔法や蘇生魔法で戦闘のサポートをする神官。

教会では最低でも一度は後者の神官の仕事を経験させる、ってのが神官育成方針なのか。


「私はまだ仕官して3ヶ月ですが、まだ教会でしか蘇生はできなくって……」

「ん? じゃあ、例えばここで俺達がやられても蘇生はできないってこと?」

「はい……ごめんなさいです……。

 教会ならフィリス神の加護の力が強いので、私でも祈りを捧げれば蘇生はできるんですけど……」

 

 なるほど、冒険者に同行するような神官は自分の魔力と信仰の厚さでどこでも蘇生できるって訳か。

とりあえず、俺達がやられて、シャルアがその場で蘇生してまたやられて、っていう悪夢の心配はしないでいいって事か。

なんとなく俺は無駄に安心してしまう。


「で、でも、回復魔法は少しは使えますからっ……」

「はは、期待してるよ」

「は、はいっ」


 シャルアの回復魔法があれば、もしかしたら俺とアクシルでもゴブリンの一匹くらいは倒せるかもしれないな。

彼女の回復魔法の能力がどの程度によるか、だけど。


「どうでもいいけど、シャルアって何歳?」


 アクシルの奴、俺が気を遣って今まで聞かなかった質問を堂々と……。

しかし、俺も気になっていたところだ、アクシルグッジョブ。

 

「はい、今年で16歳になりますっ」

「へぇ~、じゃあ俺らの二つ下って事か」


 予想通りというか、シャルアは歳相応に見え、俺はやっぱりそうか、と思った。

とりあえずはっきりしたことは、アクシルは16歳の娘じゃ食指は動かないということだ。

あのギルド受付嬢は何歳なんだろうな……怖くて聞けないけど。


『おーおー、年頃の娘とデートだなんて羨ましいな』

「っ!?」


 あまりに突然だった。またあの魔王の親父の声が俺の頭に響き渡る。

 

『突然驚かせるなよな……』


 さすがに二度目だ、俺は必死に冷静を装いながら心の中でそう言う。

でも、それに反して俺の鼓動は一気に早くなっていた。


『別に驚かせる気はねぇけどよ。それとも、こっそりと小声で話し始めた方がいいか?』

『……それはそれで気持ち悪い』


 これは本当に一度、医者か神官に診てもらった方がいいな……。

とてもじゃないがシャルアには頼めないけど。

……ん? またこうやって魔王の親父の声が聞こえてきたってことは……?

俺は立ち上がり、辺りを見回した。


「どうしたんですか?」

「ん? 何だ? また魔物でも見つけたか?」


 アクシルとシャルアは不思議そうに俺を見ている。

俺はなんとなく……近くの小高い丘の向こうを見つめた。

……気配がする……。


「どうした? あの丘の向こうにゴブリンでもいるってか?」

「なんとなく……そんな気がするだけだけど……」

「はっはっは、お前、本当に魔物を察知する能力を身につけたってのかぁ?」

「シャルアはここで待ってて、様子を見てくる」

「は、はいぃ……」

「おいおい、水臭いぜ、俺も一緒に行くぜ」


 シャルアは不安そうな面持ちだったが、アクシルは少し楽しいようにも見えた。

シャルアの回復魔法があれば、ゴブリン程度なら倒せるだろうと楽観視しているのだろう。

でも……もしも本当に丘の向こうに魔物がいたとして、どうする?

すぐにでも逃げるか、シャルアの回復魔法を期待して戦ってみるか……。


「居やがったぜ! ゴブリンだ!」


 俺が迷っていると、アクシルは一人で丘を駆け上がり声を上げた。

その声を聞いてか、ゴブリンは丘の向こうからこちらに姿を現した。

骨と皮だけのような細い四肢、鎧を身に纏っているわけでもなく、持っているのはナイフ一本。

最下級の魔物ではあるが、俺とアクシルは一度もこいつを倒したことはない。


「今日は負けねぇからなぁ!」


 そう意気込むと、アクシルはゴブリンを目掛けて駆け出した。

いつもなら姿を見ただけで逃げ出すのだが、今日はシャルアがいる。

見栄か自信からか、アクシルは迷いも無くゴブリンに両手持ちした棍棒で殴りかかる。

しかし、アクシルの渾身の一撃は、あっさりと避けられる。

ゴブリンも大して避けようとしていた訳でもない、完全にアクシルは棍棒に振り回されている格好だ。

その後もアクシルは何度か棍棒をゴブリンに振り下ろすが一向に当たる気配がない。


「くっそ! ちょこまかと!」


 ちょこまかとしているのはお前だ。

普段ならこうやって傍観などする余裕もないのだが、俺もやっぱりシャルアの回復魔法に期待しているんだろう。

昨日、教会から持ってきた錆びたナイフを握り締めてはいるが、逃げようとする体勢には入っていない。


「おい、ディール! ぼさっと見てねぇで手伝え!」

「お、おう!」


 アクシルに急かされ、ようやく俺もゴブリンの元へ向かう。

走り込む勢いで、そのまま俺はゴブリンに斬りかかる。

しかし、ゴブリンに少し身を引くだけでかわされる。

 くそっ、そうだ、俺の武器はナイフだ、懐に入らないと当たるはずもない!

昨日手に入れたばかりの武器だ、刀身の長さまで把握できてはいない。

それはアクシルも同じ様だった。

彼もまた、新しく装備した棍棒の重さに慣れずに無駄に素振りを繰り返している。

 魔物は容赦などしない。

アクシルが振り下ろした棍棒が地面に叩きつけられた隙をついて、彼の左胸を目掛けてナイフを突き出す。


「おわっ!? っぶねぇ!」


 アクシルは掴んでいた棍棒から手を離し、辛うじてその一撃を避ける。

だが、その弾みでゴブリンのナイフは彼の左脇を布の服ごと切り裂いた。


「いってぇ!? くそっ!」


 慌ててアクシルはゴブリンとの間合いを広げる。

 

「あ、アクシルさん! 大丈夫ですか!?」

「なんとかなっ! ちょっと回復してくれ!」

「は、はいっ!」


 そう言うと、シャルアは腰に下げていた袋から分厚い魔道書のようなものを取り出した。

 

「ええっと、回復魔法……回復魔法……!」


 シャルアは魔道書をパラパラとめくる。

……こりゃあ回復魔法には期待できないな……。

そうしているうちに、今度はゴブリンは俺にターゲットを切り替えた。

ジリジリとゴブリンは俺の方の間合いをつめてくる。

くそっ、どうする……!?

シャルアの回復魔法に期待できないとなると、ここは逃げた方が得策か……!?


『俺の力を使いたいんなら、魔王の気持ちになってみるといい』


 俺の頭にあの魔王の親父の声が聞こえてくる。

いきなりそんなことを言われても訳が分からない。

俺は必死に冷静さを保ちながら、頭の中の魔王の親父と言葉を交わす。


『魔王の気持ちって……どうやるんだよ!?』

『自分は魔王だ、って考えるだけだよ』

『俺は魔王だ……って思っても、それからどうすんだ!?』

『だから、俺は魔王だ、って考えながら攻撃すればいい』

『んなこと言われてもよっ!』


 俺は魔王の親父との脳内会話に必死になりすぎて、ゴブリンの攻撃に気付くのが遅れた。

次に目に入ってきたのは、俺に斬りかかって来るゴブリンの姿だった。


「うわっ!?」


 俺は慌てて横っ飛びにその攻撃を避ける。

避けると言っても、何も考えずにただ思い切り横に飛んだだけなので、俺は着地もできずにそのまま草むらに転んだ。

その衝撃で、持っていたナイフを無くしてしまう。

落としたナイフを探している暇なんてない、俺の目には追撃をかけるゴブリンの姿……!


『そうだな、魔王に楯突くとはいい度胸だ! とか思って攻撃してみれば?」


 な、投げやりなっ……!

でも、転んだままの姿勢だ、これ以上攻撃を避けることもできない……!

俺はダメ元で叫んだ。


「くそっ! 魔王に……!」


 一瞬、体に妙な力が生まれるのを感じた。

 

「楯突くとはっ……!」


 ゴブリンの攻撃が、時がゆっくりと流れるように遅く感じられる。

 

「いい度胸だ!!」


 俺は転んだままの姿勢でゴブリンに右手をかざした。

 一瞬、時が止まる。

次の瞬間、ゴブリンは背後から凄まじい力で引き込まれるように、四肢が限界を過ぎて伸びる。

俺の右手から衝撃を受けたように、ゴブリンの体は押し返された。

そして、断末魔をあげること無く、一瞬にしてゴブリンは塵となって消えた。


『上出来だ』

「え……?」


 魔王の親父の声は、ゆっくりと遠くなっていった。

え……? 俺が……ゴブリンを、倒した……?

これが……魔王の力……?

俺は自分の右手を見つめた。

見慣れた自分の手、特に何も変化はなかった。

 そして視線を移すと、アクシルとシャルアが唖然とした表情で俺を見つめていた。

たぶん、二人にも俺が唖然としている表情が映っているんだろう。

小鳥のさえずりや、草木の風に吹かれる音が妙に虚しい。


 どうやら俺は……本当に魔王の力を手に入れてしまったらしい。


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