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第4話 あたらしいなかまが はいってきたぞ

「ふぅ……ここまで来りゃ大丈夫だろ」


 アクシルは肩で大きく息をしながら、後ろを振り返った。

そこには城門があり、警備兵が数人で守りを固めている。

俺達はティターニア平原での薬草集めの仕事を中断して、城下町まで逃げてきたのだ。

逃げすぎではない、いつどこで魔物に追いつかれるか分からないからな。

……いやでも、たかがゴブリン一匹にビビりすぎかな……。


「しっかしよ~、何で本当にゴブリンに気付いたんだ?」


 息を整えて、アクシルはギルドの方向に歩き始めながら俺に言った。

俺も大きく息をついて歩き始める。


「いや……何となく……。

 ほら、あれだ、一人芝居の練習をしてて辺りを見回してたら、たまたま見つけたんだ」

 

 我ながらひどい言い訳だ。

 

「さすがだなっ! 観察眼があればいい演技もできるもんな!」


 我ながらひどい相方だ。

薄情って意味じゃなくて、馬鹿って意味で。

 まあ……逆に変に詮索されないところは助かる。

突然、魔王の親父から魔物がいるって教えられた、なんて言えないしな。

説明がめんどくさいし……というか、俺も説明もできないし。

けど、本当に魔王の力が手に入ったのかな……。

魔法は使えなかったし、岩は砕けなかったけど。

まさか、本当に魔物が現れた事を察知する能力だけ身についたのか?

 そうだ、あの魔王の親父さんに聞いてみれば……。

俺は魔王の親父さんに話しかけるように意識を集中させた。

だが、返事は返ってはこなかった。

そういえば……話ができるってことは近くに魔物がいる証拠、とか言ってたな。

ここは城下町だし、魔物がいないから当然か。妙に俺は納得してしまった。

いやそうじゃない、そもそも、何なんだ? あの声は……。


「おーい、どうした~?」


 俺はその言葉に我に返ると、思わず顔を見上げた。

目線の先には風呂敷を片手に不思議そうな顔で俺を見ているアクシルがいた。

どうやら、俺は考え込んで俯いたまま一人で立ち止まっていたらしい。


「あー、悪い悪い、ちょっと疲れちまって……」

「そりゃそうだよな~、ここまで全力疾走で逃げ帰ってきたからな~。

 ま、今日はこの薬草をギルドに届けてお開きにしようぜ」

 

 そう言って、アクシルは風呂敷を軽く持ち上げてみせた。

 

「ああ、そうだな」


 確かに疲れてはいた。肉体的にというよりは精神的に。

そういえば、俺が生き返る前にあの魔王の親父と話す不思議体験をしたのは今日の午前中だったっけ。

もう随分前の事のような気がする。

アクシルの言う通り、今日はこの薬草をギルドに届けて、もう休もう。

また変な夢見なきゃいいけど。


 俺とアクシルは城下町を歩き、冒険者ギルドに帰ってきた。

正午過ぎに来た時よりも人は少ない。皆仕事に行っているんだろう。

基本的にギルドでは、午前中に仕事を請けて、昼過ぎに出発する冒険者が多いしな。


「おーっ、ただいまー、しっかり薬草集めてきたぜ~」

「おかえりなさい、少々お待ち下さいね」


 アクシルはカウンターに薬草の入った風呂敷を広げる。

受付嬢はそれを確認すると、報酬の手続きを始めた。

薬草集めの仕事は決められた薬草を集めてギルドに持っていくだけで構わない。

そこから薬草屋に持っていかれるか、調合屋に持っていかれるかはギルドまかせだ。

ギルドが全て仲介してくれるため、俺達は最初から最後までギルドを通すだけでいい。

 もちろん、単純に雑草だけを持っていっても報酬は貰えない。

ちゃんとギルド専属の薬草調合師が持ち込まれた薬草を選別するからだ。

最初の頃は雑草ばかりを集めてしまって、丸一日働いても報酬は銅貨1枚、なんてこともあった。


「はい、清算が終わりました。

 アクシルさんは銀貨2枚、ディールさんは銀貨1枚と銅貨8枚ですね」

「へっへ~ん、今回は俺の勝ちだなっ」


 アクシルは得意げに腕を組んでみせた。

銅貨2枚の差だけどな。まあ、別に競っていたわけでもないし。

薬草集めの仕事は、完全に出来高制だ。

よっぽど在庫が余ることがない限りいつでも仕事は請けれるし、いつでも完了の報告はできる。

儲けはたいしたことはないが、時間制限もなければ拘束時間もないので気軽にやれる。


「それでよ~、大変だったんだぜ~。途中でまたゴブリンに襲われてよ」

「ふふ、そうですか」


 ……また始まった……。

受付嬢もよく疲れないな、毎回アクシルのしょっぱい武勇談なんて聞かされて。

まあ、それも仕事の一環なんだろうけど。


「悪いけど、俺はちょっと先に帰って今日は休むわ」

「ん? おう、お疲れさん。また明日な」

「ああ」


 アクシルに別れを告げて、俺は報酬を受け取るとギルドを後にした。

なんだかんだで今日はもう疲れた、少し早いけど休むとするか。

まだ陽が落ちるのには早いが、俺は帰路についた。




 次の日、俺は心配していた悪夢を見る事も無く、いつも通り目を覚ました。

昨日の『この世とあの世の狭間』で妙な夢を見てしまったから、正直その続きでも見るんじゃないかと心配はしていた。

でも、こうして何事もなかったんだし、昨日のはただの夢だったんだろうな。

ティターニア平原でゴブリンを見つけたのも、単なる虫の知らせだったに違いない。

うん、そういうことにしておこう。

 俺は服を着替えると、昨日教会から拝借した錆びたナイフを腰に差し、ギルドへ向かった。

今日も薬草集めの仕事かな……たまには他の仕事もやってみたいけど。

でも、他の仕事と言えば、溝さらいだったり、廃屋の掃除だったりと、冒険者ぽくないんだよなあ。

薬草集めも冒険者ぽい仕事とは言えないけど。

いや、実際の冒険者が使うポーションの材料集めだから、掃除なんかの仕事よりは冒険者ぽいだろう。

……たぶん……。

 そんなことを思いながら俺はギルドの扉を開けた。

 

「それでよ、ディールの奴がその時叫んだんだ、ゴブリンがいるぞ!ってな」

「ふふ、そうですか」


 今日もアクシルは受付嬢へのナンパに精を出していた。

でも、こいつの場合はナンパというよりは、年老いた戦士が昔の武勇談に花を咲かせている感じかな。

昨日の話をどうやって脚色するのか聞いていようかと思っていた時だった。


「あら、ディールさん、おはようございます」

「ああ、おはよう」


 珍しくギルドの受付嬢の方から声がかかる。

俺は返事をするとカウンターの方へ行き、腰掛けた。


「おう、ディール、おはようさん」

「おはよう。で、俺は昨日ゴブリンがいるぞ、なんて叫んでないけど?」

「似たようなもんだろ~。

 それで、俺達はゴブリンに先手が打てるってんで考えたんだ。

 けど、薬草集めの最中だ、ゴブリンのヤツに薬草を踏み荒らされちゃあたまんねぇ。

 俺達は真っ先に退却をいう道を選んだんだ」

「ふふ、そうですか」


 アクシルの武勇談と受付嬢の対話を聞いていると、本当にアクシルが年老いた歴戦の戦士が昔話をしているように聞こえる。

そして、受付嬢はそれを「はいはい」と軽く受け流すベテラン介護士のような。


「退却も戦略の一つ、って感じさ」

「ふふ、そうですね」

「そいじゃ、昨日撤退して守った薬草を集めに今日も精を出すか」

「あ、その件なんですけどね」


 すぐにでも仕事に出発しようという気持ちだった俺を受付嬢は制した。

 

「今日も薬草集めの仕事をされるのでしたら、一つお願いしたい事があるんですが」

「ん? 何?」

「シャルアさーん」


 受付嬢はギルドの待合室の遠くの方まで響く声で名前を呼んだ。


「はーいぃ」


 その視線はすぐに返事の方へ向けられた。

淡い金色の腰まで伸びたストレートの髪に、雪の様に白い肌。

まだ、あどけなさを残す顔、俺の肩程までしかない体に、白を基調とした神官服を身に纏っていた。

シャルアを呼ばれた女の子は、とてとてと俺達の座るカウンターまで歩いてきて隣に座った。


「お? なんだなんだ?」

「今日の薬草集めのお仕事に、この子も連れて行ってもらいたいんです。

 この子はシャルアさん、見ての通り神官の方です」

「はっ、初めまして、シャルアと言いますっ。

 よ、よろしくお願いしますっ」

 

 その声には聞き覚えがあった。

 

「あ……あぁ~、昨日俺を蘇生してくれた子か」

「えっ? ……あああ~、昨日はごめんなさいぃ……」

「いいよ、気にしてないし」


 こんなところでまたあの萌え声新米神官の声が聞けるなんてな、うふふ。

しかも、薬草集めの仕事に拉致……いや、連れて行ってくれだなんて、大歓迎だ。


「なんでまたこの子を薬草集めなんかに?」


 アクシルはそんなに嬉しい様子でもないようだった。

そういえば、アクシルは年上好きって言ってたっけかな。


「まず一つに、この子はまだ神官の見習いで、外の事はあまり知らないそうなんです。

 それで、教会から勉強させて欲しい、とギルドに依頼があったんです。

 神官職と言えば、上級冒険者パーティには欠かせない職業ですからね」

 

 箱入り娘って訳か。シャルアを見ているとなんとなくそれも分かる気がする。

 

「いくら神官とはいえ、いきなり魔物の討伐の仕事に同行させるのは危険なので、簡単な薬草集めのお仕事に同行させてあげようという訳です。

 アクシルさんのお話を聞いていると、薬草集めの最中にゴブリンに襲われることも多そうなので、初めての仕事の経験としては丁度いいかと思いまして」

「ってことは、回復魔法なんかも使えるの?」

「は、はいっ、まだ初級魔法しか使えませんが……」

「二つ目に、シャルアさんを同行させることで、お二人の生存率も格段に上がるかと思いまして」


 受付嬢はこの上なく笑顔でそう言った。

その言葉の裏に込められている意味を理解し、俺は少なからずこの受付嬢の笑顔に恐怖を覚えた。

暗に「あなた達死にすぎです。死体回収するこちらの身にもなって下さい」と言われているような気もして……。

そりゃあ……毎回、見回りの仕事をしている冒険者に俺達の死体搬送の追加報酬を払ってたら赤字にもなるわな……。

いくら冒険者ギルドが初級冒険者のサポートも兼ねているとはいえ、背に腹はかえられないということか。


「おおっ、こいつは頼もしいぜ! よろしくな、シャルア!」

「は、はいっ!」


 こいつらは気が合いそうだな。

天然なところとか、ちょっと間が抜けているところとか。

どちらにせよ、神官がパーティに加わったことは大きなプラスだ。

いつでも萌え声が聞けるし、うふふ。


「よーっし、それじゃあさっそく昨日のゴブリンを倒しに行こうぜ!」


 アクシルは昨日貰った棍棒を肩に担ぐと、いかにも熟練冒険者の様に堂々と歩き出す。

神官がパーティに加わっただけで随分気が大きくなるようなところが、いかにも単純な性格の彼らしい。


「ふふ、お気をつけて」


 今日も笑顔で見送る受付嬢の笑みは、どことなくいつもと違って見えた。

暗に……いや、考え過ぎか……。

とりあえず今日はゴブリンに出くわさないことを祈ろう。

正直、このおっちょこちょい新米神官が一緒でも、ゴブリンは倒せる気がしない。

……連キルなんてマジ勘弁だ。


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