第19話 きがついたら きょうかいにいたぞ
暗い……何も感じない……。
……ああ……そうか……また俺死んだのか……。
今度は何で死んだんだったっけ……。
……薬草を集めててゴブリンに襲われたんだったっけ……?
……それとも……無人のゴブリンの巣のお宝を漁ってて、ゴブリンの生き残りにやられたんだったっけ……。
……どっちにしろ、ゴブリンばっかりだな……。他に心当たりも無いし……。
……いや、心当たりはある……。
……ゴブリンじゃない……魔王だ……。
俺はあの後……どうしたんだっけ……?
確か……そうだ、あの毒舌神官が俺に光を当てて……。
……なんであの神官は俺に光を当てていたんだ……?
直射日光か? こんちくちょうめ……。
『生命を司るフィリスの神の元……』
……ああ、俺を生き返らせる神官様のありがたーい祈りが聞こえてくるな……。
この声は……あの萌え声新米神官かな……うふふ。
なんか……泣いてるように聞こえるけど……大神官に怒られたのかな……?
……でも……。
……なんか……今のままの方が心地良いな……。
……このまま……死んでいくのかな……俺……。
…………。
……まあ……それでもいいや……。
……なんでそんな風に思えるのかは知らないけど……。
……いいや……。
……俺はこのまま死んでしまおう……。
「起きろディールうう!!」
「うおっ!?」
突然の声に俺は飛び起きた。
目を覚ますと、俺は教会に居た。
見ると、俺の入っている棺桶を囲む様にたくさんの顔。
得意げな顔で俺を見つめるアクシルの顔。
珍しく心配そうな顔で俺を見つめるギルド受付嬢の顔。
厳しい表情のまま俺を見つめるエクリアの顔。
今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめるシャルアの顔。
え、何? 俺って今注目の的?
「な? やっぱり俺の言った通りだったろ?」
アクシルは得意げにそう言うが、俺には何の事かは分からない。
ついさっき生き返ったんだし、何も知らないのは当然か。
随分長いこと『この世とあの世の狭間』にいた気がするし。
……随分長いこと?
「ディールさん……ディールさぁん!」
棺桶の中で半身を起こしている俺の首元にシャルアが抱きついてきた。
俺は考えるのをやめた。
シャルアに抱きつかれるのであれば、他に何も考える必要は無い、うへへ。
「その割には、お前の大声には反応しなかったようだが?」
ジト目でアクシルを見つめるエクリア。
彼女が身に纏う神官服は目が覚めるように白い。
……白い?
あれ? なんで俺はエクリアの神官服の白さに目がいっているんだ? 驚きの白さ?
「そこはあれよ、エクリアの信仰の厚さが現世を彷徨うディールの魂を……!」
「ふふ、そうですね」
笑顔で速攻受け流し態勢に入るギルド受付嬢。
彼女の笑顔はなんか久々に見た気がする。
……なんでここに? ここって教会だよね?
「いい加減目を覚ませ」
そう言って、エクリアは俺の頬を叩いた。
乾いた音と共に感じる軽い頬の痛み。
え? なんで俺殴られたの?
俺は殴られた余韻に浸る様にしばらく呆然としていた。
いや、そんな趣味は無いが、少なくともエクリアに殴られるいわれはない。
「……待て、お前本当に何も覚えていないのか?」
エクリアは俺の顔を両手で掴み、覗き込むように俺を見つめた。
こうして間近で見ると、やはりエクリアは美人である。
いや、だめだ、俺にはシャルアがいる。すまんな、エクリア。
などとよこしまな考えができたのは最初だけだった。
エクリアは真顔で、しかし、どこか心配するように俺を見つめていた。
何も覚えていないのか……?
そのエクリアの言葉を元に、俺は必死に記憶の糸を手繰り寄せた。
俺はこのエクリアと、アクシルと魔王討伐に魔王城に向かった。
そして、メフィストと戦った。
アクシルはあっさりやられた。
エクリアは深手を負った。
メフィストはシャルアを人質にとった。
俺はメフィストを倒したついでに魔王を倒した。
……ついでに魔王を倒した?
「えっ? 俺……魔王を倒した?」
「ふっ……そうだ。やっと思い出したか」
エクリアは軽く笑うと、俺の顔を押さえつけていた両手を離した。
「もっとも、魔王を倒したのはお前に取り憑いていた前魔王のようだったがな」
その言葉で俺の記憶が一瞬にして蘇る。
「そ……そうだ! ど、どうなったんだ、魔王の親父は!?」
「は? 魔王の親父?」
「あ、いや……前魔王、か?」
「お前に憑いていた前魔王は私が封印した」
そうだ、俺の記憶の最後は、エクリアの放った封印の光。
そして次に思い浮かぶのは、片膝をついた血塗れの神官服を着たエクリアの姿。
「封印……できたのか……よくもったな、エクリア」
「ああ、私もダメかと思っていた」
この会話は、当事者の俺とエクリアにしか分からないはずだ。
「まあ……おそらくは私だけの力ではなかったのだろう」
そう言うと、どことなくばつの悪いそうな、嫌味の無い苦笑を俺とシャルアに向けた。
「全く……この新米神官が。
危うくお前ごと封印してしまうところだったぞ」
「ご、ごめんなさいぃ……」
シャルアは抱きついていた腕を俺から離すと、エクリアの目を見る事もできずに俯いてしまう。
エクリアはシャルアの頭をくしゃくしゃと撫でると、背を屈めてシャルアの耳元に顔を寄せた。
「……おそらく、お前のおかげだ」
俺はエクリアのその言葉を聞き逃さなかった。
「えっ?」
「さあ、死者は蘇ったんだ、教会にはもう用は無いだろう、さっさと帰れ」
エクリアは屈めていた身を起こすと、お開きとばかりに手を叩いた。
「ディールさん、いつでも構いませんのでギルドにお立ち寄りくださいね。
魔王討伐の報酬をお渡ししますので」
ギルド受付嬢はいつもの笑みで俺に言った。
報酬……報酬?
「あ……ああ、そうだ」
俺は絶対に落とさないようにと、腰紐に頑丈に括り付けていた小さな袋の括り紐をといた。
そしてそれをシャルアに手渡す。
シャルアは訳が分からないというような顔をしていた。
「これ、あの時の報酬。
本当はすぐに分け前を渡そうと思ってたんだけど……。
いつでも渡せるように、持っておいたんだ」
シャルアの顔は、驚きから喜びに変わり、再び俺に抱きついた。
「わあああん……ディールさん……!」
「おうおう、お熱いこったねぇ」
「ふふ、そうですね」
「……やれやれ……私はさっさと帰れと言ったんだがな」
「ごめんなさい、ごめんなさいぃ……!」
シャルアは震えながら俺の胸で泣きじゃくっていた。
「謝るなって、もう気にしてないから。
それに、あの時、俺にビビった分は差っ引いてあるからさ」
そう言うと、シャルアは更に大きな声で俺の胸でいつまでも泣き続けた。




