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第1話 まおうのちからを おしつけられたぞ

 暗い……何も感じない……。


……そうか……また俺死んだのか……。

今度は何で死んだんだったっけ……。

……薬草を集めててゴブリンに襲われたんだったっけ……?

……それとも……無人のゴブリンの巣のお宝を漁ってて、ゴブリンの生き残りにやられたんだったっけ……。

……どっちにしろ、ゴブリンばっかりだな……他に心当たりも無いし……。


 ……まあいいや、そろそろ神官様のありがたーいお祈りで生き返るだろうしな……。

あの萌え声の新米神官だったらいいなぁ……。

この前もお祈りの台詞間違えてたなぁ……。

『生命を司るフィリスの神の元、その魂をここに呼ぶびぅみゅ……ぁう……』

とか言ってたなあ……うふふ……。

あの娘の祈りを聞けるなら何度死んでも……。


「目ぇ覚ませこら」


 ……あぁ……今回はあの毒舌神官かぁ……よくあんなんで神官務まるよなぁ……。

というか、よくあんな祈りで蘇生できるよな……。


「おい、二度と生き返らせねぇようにしてやろうか? ああ?」


 うふふ……言ってる言ってる。

どうせ、あいつも大神官の前じゃ……。


「地獄に行きてぇのかよ!!」

「うおっ!?」


 突然の大声に俺は驚いて身を起こした。

とは言っても実際に身を起こした気分になっただけだけど。

今は俺は『この世とあの世の狭間』にいる。

視界もなければ感覚もなく、自分の体でさえも確認できない、そんな空間だ。

幽霊ってのはきっとこんな感じなんだろうな。

 聴覚だけは感じる事ができるが、今まで蘇生の祈りしか聞いた事がない。

神官様のありがたい祈りの言葉には何か特別な力があるのだろう。

いつもならここでふわふわと意識だけを漂わせながら、この世側にいる神官の祈りで生き返るのを待つだけなんだが。


「やっと起きたか。手間取らせやがって」

「な、なにがだよ、驚かせやがって……」


 俺を起こしたのは、腹にまで響くような低音の男の声だ。

男の声は俺の脳内に直接響いてくるようで不気味だった。

視界は全て闇に覆われているため、声の主の姿など確認するもできない。


「いつまで夢見心地だこの野郎」

「うるさいなぁ、別にいいじゃん、どうせもうすぐ生き返るんだし」

「ったく、だらしねぇな」


 俺に声をかけてきた男は溜息をついたように感じた。

死んでから生き返るまでの間は本当に夢見心地だ。

というか、実際に夢なんだろうと思う。

この『この世とあの世の狭間』で経験した事は、生き返ってからも覚えていることがある。

正直、一刻も早くあの萌え声新米神官の声で上書きしたい。


「なあ、お前、力が欲しくないか?」

「イラネ」


 沈黙が降りた。

いや、別に俺は素直に思った事を言っただけだが。

今の俺には萌え声新米神官の祈りさえあれば他には何もいらない。

確かに力は欲しいけど、今は萌え声しかいらない。

力を与えられるなんて言われても、どうせこれも夢なんだろうし。


「おいおい、悔しくねぇのか? いっつもゴブリンにばっかりやられちまってよ?」

「別に」


 再び沈黙が降りた。

というか、なんでこいつ俺がゴブリンにいつもフルボッコにされてるの知ってんの?

それで? 力なんてもらったところで? 別に夢だし?

面倒だから早く夢が覚めるのを待つだけだ。


「ちっとは関心持てよ」

「何だよもう、こちとらさっさと生き返りたいんだよ」

「生き返りたい……ねぇ……」


 男はにやりと笑った気がした。

実際には俺は暗闇の中にいて、その男の笑みが見えている訳ではないが。

……なんか物凄い嫌な感じの含み笑いだ……。


「じゃあよ、生き返らずにそのまま地獄に直行するのと、俺から力を受け取るのと、どっちがいい?」

「え?」


 急に、俺は体に寒気を感じた。

これは夢のはずだ……でも、体から体温が奪われていくのがはっきりと分かる……!

寒気で意識まで止まってしまいそうな冷気……!


「ちょ……!? ま、待てって! 何だよこれ!?」


 急激に凍えていく感覚に恐怖を覚え、俺は混乱する。

これが本当の死ってヤツか……?

まさか、マジで二度と生き返れないのか!?

俺は本能的にそれを察して声を上げた。


「わ、分かった! とりあえず話だけは聞くからっ……!」

「最初から素直にそう言えばいいのによ」


 男の声と共に、俺の身の凍えるような寒さは引いていった。

何者なんだ、こいつ……いくら夢とはいえ……いや、これって夢なのか?

夢にしては……あの寒気はリアルすぎる……。


「それじゃあ、お前に俺の力をやろう」

「いや、ちょっと待てよ、どういうことだよ? ていうか、お前誰だよ?」

「俺か? 俺は現魔王の先代だ」

「……はぁ?」


 さっきの身の毛も凍る死の経験をした俺は、冗談のようなその言葉を簡単に笑い飛ばすことはできなかった。

普段なら魔王の先代とか何とか意味の分からない事を言われても、あっさり受け流すところなんだが……。

さっきの凍てつく寒さの感覚を味わった今、下手に相手を刺激することなど俺にはできなかった。

 

「お前も魔王くらいは知ってるよな?」

「え? ああ……まあ……」

「俺はその魔王の死んだ親父ってわけだ」


 確かに魔王は知っている。

俺なんかの弱小冒険者から見たら雲の上の存在の魔物だ。

一生関わり合うことなんてないと思っている。

いや、むしろ関わりたくない。


「最近の魔王はすっかりナメられててなぁ。あ、俺の息子のことな」

「はぁ……」

「あいつは大して力もないクセに、取り巻きの魔物ばっかり揃えてやがる」

「そ、そうッスか……」

「だからよ、ちっとお前に力をやるから、一発ビシッと鍛え直してくれよ」

「は……はぁ……」


 全然話が飲み込めん。

魔王の親父さんが、自分の息子を鍛え直すために俺に力をくれる?

ええっと……つまり……。


「俺に魔王と倒せってこと?」

「そういうことだ」

「んなもん無理に決まってんじゃん! まだゴブリンすら倒せないんだぜ!?」

「だから力をやるって言ってんじゃねぇか」

「だったら、勇者様でもなんでもいいから、もっと強い奴に頼めば……!」


 俺が言いかけた時だった。

 

『生命を司るフィリスの神の元……』


 聞き慣れた祈りの声が響く。

あの萌え声新米神官の声だ。


「おっと、もう時間が無いようだな。それじゃ、頼んだぜ」

「え? いや、ちょっと待ってくれよ! 俺は……!」




 そうして俺は生き返った。

……いろいろとひどい夢だった……。

目が覚めると、いつもの教会の祭壇の手前にある棺桶に俺は横になっていた。

重い体を起こすと、直射日光が俺の眼に突き刺さる。


「あっ、大神官様~、ディール様が生き返りましたぁ!」


 すぐ近くで、あの新米神官の能天気な声が聞こえてきた。

目が光にも慣れ、辺りの景色が少しずつ見えてくるようになる。


「……おい」

「はい?」

「棺桶の向き逆じゃねぇか……」

「えっ? えええっ!? ご、ごめんなさい~!」


 通りで妙な夢を見たはずだ……本来、陽の光は足元にかかるもんだが……。

俺は死んでる間中、顔面日光浴をしていたことになるのか……。


「ご、ごめんなさぃい……その……お顔は大丈夫ですかぁ?」


 新米神官娘は小さな肩をすくめ、両手で口を覆いながら涙目で俺を見つめていた。

捨てられそうな仔犬の様な目で俺を上目遣いで見……よし、許す。


「ははっ、大丈夫だよ、蘇生ありがと」

「よかったぁ……」


 安堵の表情を浮かべ、新米神官の顔は綻んだ。

なんだろう、この笑顔のために生きている気がするなぁ。

いやさっきまで俺死んでたけど。


 生き返った俺は妙に疲れていた。

いやまあ、もちろん瀕死の状態であるからというのもあるが、特に精神的に。

この娘が俺の蘇生担当だったのなら、もうちっと萌え声を堪能したかったぜ。

それにさっきの顔……うん、またゴブリンにやられてこようかな、うふふ。

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