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破の回 一

 ――霊具。

 それは、第三次世界大戦末期に開発された神話等の武器を軍事用に開発したもの。

 大戦終了から数年、日本に集まったそれらは各地で密かに事件を起こしていた。

 これは、その霊具を回収する一人の男の物語である――

 ――まず感じたのは、痛みだった。

 右目に襲い来る、焼けるような痛み。眼球だけに熱した鉄を当てられたような感覚に、『僕』は絶叫する。

口からは雄叫びのような声が漏れ、今まで経験したことのない痛みに身をよじる。

 まだ機能する左目は涙で視界がぼやけ、はっきりと見えない。それでも映るのは、白をまとった人の形だった。

途端、体を押さえつけられ右腕に何かが刺さり、血管の中に液体が流し込まれた。

 そして場面が変わる。

 真っ暗な空間にただひとり『僕』だけが立っていて、辺りを見渡しても何もない。

 足元を見ると、黒い地面から手が伸びてきて、足をつかむ。やがてずるずると引きずり込まれていき、耳元にうめき声とも叫び声とも聞こえる声が響く。いやに響くそれは、耳をふさいでも聞こえなくならない。

 叫ぶ。ただただ叫ぶ。助けを求め、『僕』はひたすらに手を伸ばす。

 でもその手を取ってくれる人は誰もおらず、ずるずると地面に引きずり込まれていく。

 真っ黒に染まった視界。それが、『俺』の知る最後の光景だった。



「……っ」

 はっとして目を開ければ、そこは見慣れた自室だった。

(また、いやなモン思い出したな……)

 眼帯をそっと撫で、ため息を漏らす。シャツには嫌な汗が染み、背中にへばりついていた。

 今でも時々思い出すのは、少年兵として戦場を駆け回っていたころの記憶。あのころの思い出は、なかなか抜けてくれはしない。今でこそおさまってきたものの、俺が所属している政府公認の会社、八咫烏(やたがらす)に引き取られたころは職員たちの視線が気になって仕方なかった。

 まぁおかげで殺気をいち早く察知できるようになったし、武器の扱い方もだいぶ学べた。

「で、だ」

 部屋の中を見渡して、一つため息を漏らす。

 床には衣服や食い物の空き袋が散乱しており、一応それらをまとめたゴミ袋も部屋の中に置いてある。

「部屋、どうすっかな」

 片そうとは思うのだが、なにせ仕事が次から次へとやってくるし、元々が物臭な性格のため放っておくとすぐにこうなる。

「明日までは仕事ないだろうし……でも疲れたし面倒だし……」

 などと思考がループしていく中、部屋のドアが開かれる。

「おや、お帰りですか御主人(マスター)

 振り向いてみると、そこにいたのはクラシックタイプのメイド服を着た女だった。

 黒の髪は頭の後ろで束ねられ、所謂ポニーテールを形作っている。本来まとめるための髪型だが、それでも腰まで届く長さだ。

 切れ長の瞳は赤く、作り物めいたその顔は誰もが振り向くほど美しく出来上がっている。服の上からでもはっきりと形がわかる胸、くびれた腰。女性ならおそらく憧れるであろう体のできをしたこの女の名前は、椎名。先の任務で、周辺警護を担当していた。

 手に箒とゴミ袋を持っており、どうやら俺の部屋に掃除に来た様だった。

「そろそろ部屋が汚くなったと思ってきたのですが、案の定ですね。前回以上にひどくなったのでは?」

 呆れを含んだ視線を向けてくる椎名。

「仕方ねぇだろ? ここんトコ仕事が多かったんだからよ」

「まぁ、御主人のその性格は今に始まったことではありませんからね。これ以上は何も言いません」

「そうかよ」

 淡々と答えたコイツは、掃除に取り掛かろうとした。

「あぁそう言えば。創造主(クリエイター)がお呼びでしたよ」

「あ? マジか」

 ならさっさと行くか。

「掃除、頼んだぞ」

 そう言って、俺は部屋を後にした。

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