序の回 二
目を開けると、そこは事務机が並ぶオフィスルームだった。
予想していた場所とは違う、見慣れぬ風景に頭が追いつかない。
「こちらエリアス。おいスリア、なんで本部に転送されてないんだよ。つーか何処だよここ」
左耳に取り付けられた通信機のスイッチを入れ、希望する相手に繋ぐ。
少しの間ノイズの耳障りな音が響くが、それが収まると聞こえてきたのは、鈴を転がした様な女の声。
『こちらオルスリア。悪いね、エル。実は御上から依頼来ちゃってね。そこのビルに霊具の反応があるの。どう?そっちで何か分かる事はある?』
スリアことオルスリアは仕事の同僚。先程のオペレートも、コイツがしていた。
一度、部屋の中を可能な限り見渡してみる。そして、その感想をスリアに伝えた。
「あー、結構ヤバい状況だ」
この部屋の机の上や天井、床に至るまで黒いシミが其処彼処に付いており、部屋に漂うのは鉄臭さと生臭さ。
「ここ数時間で何十人もの人間が殺害された。あたりに付いた血痕や漂ってる異臭が酷い」
『あちゃー、かなり被害がデカイみたいだね。椎奈、周辺に被害は出てる?』
『今のところありません。暴走状態の霊具は未だ、建物内に潜伏しているかと』
スリアとは別の、落ち着いた女の声が俺の耳に入ってきた。この椎奈と言うやつも俺の仕事の同僚だが、今は割愛。
――こいつ等とその多数十人の職員+俺が所属しているのが、政府公認霊具回収結社、『八咫烏』。その存在は闇に隠れたままで、二〇年近く前より格段に情報技術が発達した現代でも、その存在は明かされていない。
俺達の任務は政府から依頼を受け、対象となった霊具を回収。それを使いまた別の霊具を回収するのが、俺達の主な業務内容である。他にも情報規制や霊具の研究・補完など色々と仕事がある――
「了解。スリア、どこら辺で反応が確認できる」
『エルがいる階から上に三つ。現場に到着したらまた連絡頂戴。椎奈は引き続いて周辺の状況を探って』
「了解」
『畏まりました』
もしエレベータに乗った場合、いざって時に対処出来ない。先ずは階段でも探すか。
そうして部屋を出ようとした時、後方から微かに視線を感じる。振り返って目を凝らしてみるも、そこには何もいない。
一通り部屋を探索してみたが、何かがいた形跡はなかった。
「逃げられたか……?」
此処は先を急ぐ方が良さそうだ。
部屋の外に出てみると、そこにも大量の血痕と異臭が存在していた。
「早く解決しないと、外に被害でそうだな……」
そうしているうちに階段を発見したのはいいが、何やら嫌な予感がする。上手く言えないが、この階段には入ってはいけない気がするのだ。
「おいスリア」
『何? 敵に見つかった?』
「いや、罠が張ってあるかもしれない。効果的な霊具はあるか?」
『それならこの前ゲットした十番が良いかもね』
「了解した」
『使用前に眼帯外してね。今回は右目に霊具のデータがいくから』
「あいよ」
右目を覆うように隠している眼帯を外す。入っているのは義眼の為、視界の右側は真っ暗のまま。
いつも通り左手を前に突き出して言葉を唱える。鉱石が光を放つと同時に、右目に熱がこもりだした。
「第十番霊具、ホルス・アイ、現界!」