#9
アッツは話を続けた。
「結局こよみの一家はすぐにどこかへ越していった。俺はこよみの墓さえもわからないんだよ。自分にすっごく嫌気がさして荒れた時期もあった。でもそんなときな……こよみの手紙を読み返して……オレは変わろうと思った。自分でこよみのために何が出来るか考えて……それで出た結論が勉強だった。もともとバカだったけどよ。こよみのこと考えながら勉強したんだよ。つるんでた連中は俺がこよみの自殺背負ってたからだんだん縁遠くなったし、おかげで勉強だけに集中できた……そうして入った高校で、お前と出会った」
俺とアッツが出会った高校は、公立ではあったがそこいらでは一番の進学校だった。
アッツは早く家を出たいとバイトをいくつもして金を貯めていた。いろんなことを達観していたしすげー大人だった。つるんでいられるのは内緒だが誇らしかったんだ。
あの頃アッツにお前ってば大人だよな、って言ったことがあった。そのときの答えをいまでも覚えている。
「季節みたいに喜怒哀楽重ねてりゃ、心の歳なんてあっという間に重なるさ」って。
俺は痺れたし憧れた。
俺の目がアッツの目を見つめるのを待って、話は再開した。
「こよみのことはずっと覚えていた。だけど英都のことはいつからか忘れてしまったんだ。覚えていたくなかったのかもしれない。実際会ったのは覗かれてたときと、脅したときの二回だけだったし」
「……本当はさ、三回目の探索のときにオレは英都を見つけてたんだ。だけど向こうは違う気付き方をした。オレのことを【カレンダーZ】じゃなく【篤春さん】って呼んだんだ。そりゃ英都にしてみりゃ「オフ会」にはまだ参加してない状態だもんな。知るわけはない。オレは咄嗟に話を合わせて……というか、また脅した。ほら【CRY】のやつ、オレたちが探している最中に小説アップしてただろ。あれ、近所のマック」
なるほど。学生が安くメシ食えて、文章も書けて……って、脅した?
「【CRY】が英都だと分かった時点で、オレは皆のところへ連れて帰るのはやめにした。そしていったんお前らのとこに戻っている間に、英都がオレとこよみのことを思い出してなんか書いたらやだなって思ったんだ。本当に勝手だなって思っている。でも、そのくらいオレはうろたえていた。自分の過去があの場で晒されてしまうようで怖くなったんだ。オレは英都の携帯と財布を取り上げてもう少しだけ待ってろって指示を出した。英都は静かにうなずいた……そしてオレはしらばっくれてお前らのとこに戻った」
「アッツ、てめ……」
「本当に悪いと思ってる。もし、あのオフがお前と……せめて管理人さんだけとかだったらオレの行動も違っていたと思う」
「そういう問題じゃ」
「わかってる。でも、本題はここからなんだ」
そうだよな。人が一人死んでいる。まだ、アッツが人殺しという感覚は持てないでいる。だからこそ続きを聞かねばならない。
「皆と解散したあとオレは英都を迎えに行った。怒っていなかったし、むしろ懐かしんでくれた。積もる話もあるし自分の部屋に来て欲しいと誘ってきたんだ。半分は保身のためだったってのは否定しない。でも本当はこよみのことで謝罪したい気持ちはずっとあったから、だから英都の部屋まで着いていったんだよ。あの部屋だ」
あの部屋。いまだにあの時の気持ち悪さが咽のまわりにまとわりついているかのよう。
部屋の前までしか行っておらず中は見ていないというのに、だ。
「英都の部屋はこざっぱりとしていた……表向きはな……だが英都が取り出したファイルには新聞記事やネットから出力したページや写真があふれていた。中にはけっこうえぐいのもあった。それらは作品のための資料ですよと真顔で言われたのにはゾッとした。それと同時に、英都をそんな風にかえちまったのはオレなのかも、と申し訳ない気持ちにもなった」
「オレに本当のことを話しておきたいって前置きして、英都は押し入れの奥から古い大きなクッキーの缶を取り出してきた。オレたちがガキの頃、お道具箱とかに使ってたようなよくある缶だ」
あったあった。うちにもあった。
「そしてあいつは言った。怖い話はすごいですね、って。自分の中の闇を物語として封印することが出来る、と。オレはどういうことかと聞き返した」
「ああ」




