#8
「ああ。続けてくれ」
「ヤリたい時はいつでもこよみの家でヤッてた。英都は普段、小学校終わったあとすぐ塾に行ってたから誰も居なかったんだ。でもある日のことだ。オレがこよみとヤッているとき、風邪か何かで体調悪くて早く帰ってきた英都が扉の隙間から覗いててな」
うーわ。
「それがキモかったから、オレはしばらくこよみの家に寄り付かなくなったんだ。こよみは学校ではオレに話しかけて来なかったし接点はまたなくなりかけた……でもな」
「ある晩、ポストに手紙が入っていた。見てすぐに分かったこよみの字。こよみからの手紙だった」
「……手紙、どんな内容?」
「ラブレターみたいなもんだよ。オレのどんなとこが好きとか、オレにどんなことを教えてもらったとか、自分は勉強ばっかりの人生を送るって思っていたのに、新しい世界を教えてくれてありがとうって……一緒に居た時間はとても幸せだったって。一緒にいられる人が本当の家族なのかなって勝手に思ってた……それをごめんね、とか」
過去形?
「その内容ってさ、なんかお別れっぽいじゃん。バカでガキなオレでもすぐに気付いた。だからオレはダッシュでこよみの家に行った。時間的にはまだ親が帰ってこない時間だったから。イタズラみたいにインターホン連打してさ……そしたら英都が出た。こよみがな、まだ帰ってないって言うんだよ……オレは一晩中こよみを探して街を走り回った」
「そしてさ、真夜中だよ。こよみの家のほうが騒がしくて……救急車とか来ているんだよ。それだけじゃない。パトカーも。普通じゃないだろ? そんな中で近所の人が話しているのが耳に入った。自殺ですって……お姉ちゃんのほうみたいって」
自殺……。
何度も読み返した【CRY】の最期の文章の中にあった一節がすぐに頭に浮かぶ。「家族も姉の自殺以降ずっと壊れたまま」ってところ。
「そりゃ……はじめのうちはヤルだけだったよ。でもそのうちいろんな話をするようになった。こよみはさ人にモノを教えるの上手なんだよ。コツの押さえ方って言うか。オレはいつの間にか勉強教えてもらってた。あとはオレの経験した馬鹿なこととかよく知りたがった。うちの親父のDVとか誰にも話せなかったことも話せた。なんでも受け入れてくれたし、どんな話も茶化さずにまっすぐ聞いてくれた」
DVの話は俺も聞いたことがなかった。親友だと思っていたけど、アッツのこと知らないことばかりじゃねーか。
「こよみは美人じゃなかったしスタイルだって普通。でも、二人きりの時はすげー幸せそうな顔するんだ。気がついたら惚れてたよ……でもな、やっぱりオレはガキで、見映えしない真面目女が彼女ってのは仲間の手前恥ずかしくってさ……オレは一度も好きだって言えてないんだよ」
アッツはいつの間にか俺の目をまっすぐ見つめていた。涙のあふれる真っ赤な目。
「好きだったんだ。本当だよ。こよみのさ、幸せそうな顔がさ、すげー好きだったんだ。なのにオレは……こよみを殺したんだ。追い詰めたんだ。冷たくし過ぎたんだ。好きだって伝えていれば、結末は変わっていたかもしれなかったのに……」
「自分で自分を刺したって噂が流れたよ。妊娠してたって噂まで。警察が中学にもいろいろ聞き込みに来た……ダッセーことにさ、そんなに好きなのにオレは、自分のせいで人が死んだっていう恐怖に耐え切れなくてずっと嘘ついていた。仲間にはもちろん言われたぜ。本当はお前らヤッてたんだろ、子どもの父親ってお前だろって。オレは精一杯の作り笑顔で、もしそれが本当だったら5万ゲットしてたぜ、なんて冗談めかしてみたりした。仲間のほうはそれでおしまい……でも、あと一人……」
……【CRY】か。
「バカでダサくてどうしようもないクズだよ。オレは英都を脅したんだ。オレとこよみがヤッてたこと誰かにバラしたらお前も殺す、って。殺すなんて簡単に出来ないのにな……でも英都は大人しくオレに従った。オレは本当にクズだった。その時に殴った傷、あいつの目の横にいまでもあったんだよ」
傷……【CRY】がヒデトだと気付けた理由か。
しかし……なんて話だよ。いや、信じないとかじゃない。俺は、アッツが真実だと言って語るなら信じるさ。
だけど。
アッツの表情には、まだ何か言葉にしていないナニカが潜んでいるような気がしていた。




