#4
同じアドレスからのメール。
『野方で降りて下さい。CRY』
それだけが書かれていた。
ドアの上の路線図案内では……次の次の駅だ。
「これって見張られているのかな?」
と周囲を警戒しながらアッツ。
「よく使う路線なら、乗った時間と各駅停車って情報だけで分かるものよ。それに乗換案内なサイトとかアプリとかだってあるし」
【チョコ☆ラヴ】さんのアニメ声に、車内の何人かが振り返る。
「ともかくいま出来るのは、降りることだけね」
【ポポン】さんの言う通り俺達は野方で降り、改札を出た。
♪チャラッチャッチャラーチャッチャー チャチャチャ チャラーラ チャラー
着信したメールを慌てて確認する。
『改札を出たら右折して踏切を越えて下さい。そのまま商店街を抜けて三つ目のコンビニの角まで来て下さい。CRY』
黙ってそのメールに従う。時間も時間だから個人商店などはけっこう店を閉めてはいるものの、道としては明るいし仕事帰りと思われる人通りも少なくない。
「……今日って満月なんだね」
【チョコ☆ラヴ】さんの言葉にうながされ夜空を見上げると、綺麗な真円が俺達をじっと見下ろしていた。
昼に土砂降りだったせいか空は澄み渡り透明感に満ちていて、そんな飾らない美しさに見つめられると自分の中の恥ずかしさがふくらんでゆく。
俺の馬鹿な企画のせいで【CRY】にもコミュの他の皆にも迷惑かけて。いっそ消えてしまおうかとも思った。アカウントをも消して……。
「ほんとだ」
アッツや【ポポン】さんも月を見上げる。
俺ももう一度、月を見つめる。とても綺麗。
そうだよな。ここまで来てよかったんだよな。逃げることは事態の解決にはつながらない。単なる責任放棄。
どんな結末でも受け入れよう。俺が書きはじめた物語なんだ。最後までちゃんと書きあげなきゃ。
また歩き出し、コンビニの前まで着く。
個人的にはここでおにぎりの一つでも頬張りたい。腹がけっこう空いている……いやいや、ダメだろ俺。さっき月観て【CRY】に謝りに行く気持ちを反芻したばかりじゃないか。
「コンビニに着いたね」
と、言った直後、メールが届いた。
♪チャラッチャッチャラーチャッチャー チャチャチャ チャラーラ チャラーラ チャラーラ
『コンビニの横の道を入り、道の右側だけ電信柱を17本数えて下さい。CRY』
このままたどり着いた先で【CRY】が笑顔で待っていたらいいな。そしてみんなで改めて呑み直すとか……満月を見てからは、明るい気持ちがちょっとづつ増えてゆく。
「……15……あれが16でその次のが17本目ですね」
アッツが指し示すと、他の二人も黙ってうなずく。
商店街の外れからちょっと曲がっただけだと言うのに、人通りも道を照らす光量もぐっと控えめになっている道。
満月チャージした前向きな気持ちも、1本、2本と電信柱を数えているうちに段々と欠けてゆく。今はもう、チェシャ猫のにやにや笑いよりも薄い。
最後の17本目に到着するってとき、メールをまた着信した。
♪チャラッチャッ
即座にメールを開く。
『その右側のアパートの二階、一番奥の部屋です。洗濯機の下に鍵を隠してあるのでそれで開けて入って下さい。CRY』
俺がそれを読みあげたあと、誰も口を開かない。
夜の闇を背負った重たい空気がいつの間にかあたりを包みきっていた。
空の月はいつの間にか雲に隠れていて、かすかにその位置が分かる程度。
頼むよ。月よ、出ていてくれよ。
アッツが俺の肩をたたく。そして対象のアパートとおぼしき古いアパートの敷地に足を踏み入れ、携帯のライトで集合ポストを確認してから首を振る。
「ヒデトっぽい名前は書いてない。っつーかここ、名前ほとんど書いてないよ」
その重さを少しだけ軽くするアニメ声。
「行ってみようよ。お料理冷めちゃうかもよ」
【チョコ☆ラヴ】さんの考えが俺と同じ方向で少しだけ和む。
「だね」
【ポポン】さんもそれに話を合わせてくれて皆の顔が少しだけホッとすると、アッツを先頭に俺、【ポポン】さん、【チョコ☆ラヴ】さんと続いて階段を上ってゆくことになった。
ギシギシ……いやミシミシに近い足音。




