#3
「30分後ならなんとかなりそうなんだ。俺、行くよ」
もしあれが【CRY】本人でなかったとしても、ひょっとしたら関係者かもしれない。なんとしても謝りたいという気持ちでいたから。
ずっとずっと気になってたんだ。
俺がホラーを書くのは人を怖がらせるのが楽しいからってのもそりゃあるけどさ、ホントは気づいてもらいたいからなんだ。
平凡な日常の素晴らしさに、いま当たり前のように周りにあるものの大切さに。
怖さを感じたあとで、日常の中の平穏を噛みしめてもらいたいのが、俺の書く理由なんだ。
あのサプライズ企画も根底では喜ばそうって考えていたんだよ。まさか【CRY】が、そんなトラウマを抱えていたなんて全く気付かなかったんだ。
俺は何も見えてなかった。ホラーで人の幸せに貢献するんだ、なんていい気になってたのに、こんなに毎日「会話」をして、お互いの作品を読みあっている仲間の心の傷に気付けなかった。
だから、絶対に謝りたかった。
「そう言うと思ったぜ。オレも付き合ってやるぜ」
アッツの言葉に早くも涙がにじんだ。ダチって有り難いな。
俺と【カレンダーZ】とが参加表明をした後、時間的には無理だと思っていた俺達以外の参加者も現れた。
今日は仕事が休みという【ポポン】さんと、職場が近い【チョコ☆ラヴ】さん。残念ながら出張中の管理人は参加不可能とのこと。
他の人達の中にも参加してくれようとした人は居たが、いかんせん平日夜の時間というのが、しかも突然過ぎってのが難しかったのだろう。
19:55。
俺たち四人はホルモン蔵々の入口に集合した。
こんなことなら【チョコ☆ラヴ】さんに借りたハンカチ持ってくればよかった……とか邪念が浮かぶ自分の意識をぶるぶると振り払う。
あの日、あの時、一瞬だけ見た【CRY】の姿を探す……が、現れない。
20時を過ぎ、「本当に悪戯かもねー」なんて【ポポン】さんがため息をついた時だった。
♪チャラッチャッチャラーチャッチャー チャチャチャ チャラーラ チャラーラ チャラーラ
急に鳴ったのは俺の携帯。
「わっ……す、すいません……あ……メールです」
見たことのないアドレスからだった。中を見ると……
「『西武新宿線に乗ってください。CRY』って書いてあります。これ、どう思います?」
「……ヨーグルトSkyさんは、CRYさんにメアド教えたことあるんですか?」
「いえ、こないだのオフでメアド教えたのは管理人の【有りそうデュボア】さんにだけです」
まさかあの管理人さんが? ……いや、一度会えばそんなことしそうじゃないってすぐに思うほどの人だし。
受信したメールの発信元アドレスはcry_cry_cry_hideto1990で始まっている。
「っぽいよな、アドレスだけだと。んで【CRY】の本名はヒデトで1990年生まれとかな」
アッツが俺の携帯を覗き込みながら推理をはじめる。
そこにうす怖コミュの生き字引き【ポポン】さんの一言。
「……そういやあの子、前に【ミレニアム・チャイルド】って作品書いたときに『ぼくは2000年生まれではないです。それより10年上です』ってレスしてたわよ」
あまりにも鋭い指摘というか記憶力に、俺たちの背中はうっすら寒くなる。
「理由はともあれ、俺はとことん付き合うつもりです」
「よし。こうなったら、アタシも最後まで付き合うよ。子ども達は旦那が見てくれているし」
「オレも……乗りかかった船だしな」
【チョコ☆ラヴ】さんも付き合ってくれることになり、俺達は西武新宿線に乗った。
「電波、けっこう悪いな……オレ、この路線乗るの初めてだ」
アッツはイベントの方へ実況もしているようだ。他の二人はじっと俺の携帯を見つめている。
あの直後に一通だけ返信した。
『行きます。あと10分くらいで西武新宿線の駅に到着します。ヨーグルトSky』
俺から送ったメールに対しては特に返事などなかった。
そしてさっき乗り込んでからももう一通送る。
『西武新宿線乗りました。指定がなかったから各駅停車に乗りました。ヨーグルトSky』
返事はなかなか来ない。というか、俺の出したメールは薄気味悪い闇の中に吸い込まれていっているような。
やがて何駅か過ぎる中でまた、メールを着信した。
♪チャラッチャッチャラーチャッチャー チャ
着信音の途中で俺はメールを開いた。




