#20
七枚目。
『親父はお袋との結婚直前に交通事故に合って、現場にたまたま居合わせた人から大量に輸血したんだと。
それまでは一度も暴力を振るうことはなかったらしい。
英都の「記録」の中には、英都が手を下さなかったものの「勝手に死んだ」他の親戚のことも書いてあったから、
その輸血した人はって名前を聞いたんだよ。
輸血の直後に無理心中したから覚えているって……それが英都の手紙にあった例の親戚だった。
オレの中にも流れているんだ。
意味もなく、殺すことを我慢出来なくなる血が。
親父を殺すのは、お袋を守るためだ。
明日、というか、お前が読むのは多分早くて今日、だけど。
夕方頃に立つオフ会イベントに行き、オレは【CRY】の死体と幽霊からのメールに恐怖して……そのまま失踪する。
その錯乱状態のまま夜中に親父を呼び出して殺して……そのまま自殺か……ただ、お前たちを巻き込まないように……
出来るだけ巻き込まないようにはしたいって考えている。
失敗の許されないシナリオだよな。
一応、イザって時のために英都に毒薬をもらったんだ。ちゃんと死ねるもの、らしい。
あはは。
オレ自身の人生も「作品」みたいじゃないか。』
……何、言ってんだよ、アッツ……
嘘と本当、物語と真実。何がなんだかわからなくなりそうなのを必死にこらえる。リアルに留まるために、俺は八枚目を手に取った。
『英都の血の臭いを嗅いだ時に思い出したこと。
それもここに書かせてくれ。
それは、こよみのこと。
こよみを最初に押し倒したあの図書室で、オレはこよみの頬をはたいたんだよ。
鼻血が出てね。その時のことを思い出した。あの、こよみの血の匂いが、そう、英都の血の匂いを嗅いだ時と同じ……
なんていうか興奮っていうか、スイッチが入ったっていうか。
そのあとヤッたら治まったから、忘れていたけれど。
この話を警察に渡すかどうかはお前にまかせる。それで小説を書いてくれてもいい。
ただ親友のお前にだけは真実を知っていて欲しかったから。
いままでありがとう。
最後にひとつだけ。
ひとつだけ残った不安。
英都の血の臭いを嗅いだあのあとから、オレはおかしくなりはじめた。殺意が止まらないんだ。
英都の「作品」を仕上げるためにもう一度だけ英都の部屋を訪れなくちゃならない。
その時殺意を我慢出来るだろうか……
親父を殺す日と同じ日にするのは、そんな理由。お前らに行きそうな殺意で、親父を殺すため。
オレにあんまり近寄るなよ。
そして。
頼む。こよみ、それから英都……オレの親友を、守ってくれ。』
そのあと、走り書きが付け足されてあった。
『最期の酒、最高に旨かった。
ありがとう。』
手紙はそれが最後だった。
しばらくは放心していた。
ほっぽらかしていたのは心だけじゃない。涙と鼻水もだ。
「なんだよそれ……」
どのくらい経ったかわからない。ようやく絞り出せた言葉がそれだった。
いままで自分の中に絡まっていた疑問や断片がアッツの言葉で解かれたとき、そのモヤモヤにせき止められてダムみたいに貯まっていた涙があふれて止まらなくなった。
「……こんなん、ずりぃよ……」
ずっと一緒に歩いてきたつもりだった。物凄い置いてきぼり感。
……泊まったときはそんな様子はかけらもなかった。何も話してくれなかった。そして朝早く、始発で帰っていったアッツ……お前は……あのときにはもう親父さんを……殺す、覚悟を?
それに。
消えてしまった謎のメール。
あの時、俺のメールが鳴ったのは【CRY】が俺たちに知らせようとした?
確かにもしもあのメールが鳴らなかったら、確かに俺はアッツの元に駆け寄っていたに違いない。
でも、こんな。
……こんなことって。




