#2
「ヨーグルトSkyくん」
低めのトーンのアニメ声で話しかけてきたのは【チョコ☆ラヴ】さん。手にはBurberryのハンカチ。
初めて会った女性に泣いているところを見られるなんて無茶苦茶恥ずかしかったが、後ろの方から【カレンダーZ】の「見つかりましたか~?」という声が聞こえ、俺は慌てて涙を拭いた。
【カレンダーZ】はもともと高校時代からのリアルダチ。昔付き合っていた彼女が「こよみちゃん」って言うからカレンダーなんだとか言っていたっけ。本名は篤春、学生時代のあだ名はアッツ。ネットの友人が混ざってないときはアッツって呼んでいる。
お互い社会人になった今でも続いている仲……もうちょっとで10年もの付き合いになる。だからこそ、こいつにだけは涙なんて見せられないのだ。
やがて管理人さんとも合流し、俺達は店に戻った。今日は特に蒸していて、俺たちはその働き以上に汗をかいていた。
店内の冷房の涼しさと、慰めてくれる皆の暖かさとの温度差が、やけにこたえた。
そんな状況では楽しく呑めるはずもなく、時間きっちり二次会もなしでオフ会は閉会した。
翌日からコミュの雰囲気は一変してしまった。
オフ会に来なかった人達も、イベントや【CRY】が最後に挙げたトピへの俺達の必死の書き込みを見て事情を察したのか、いろんなことをそれぞれが自粛し始め、三日も立たないうちに廃墟のように閑散としてゆく。コミュの参加人数もガツンと3000人近く減った。
俺は毎日自分を呪い、【CRY】へ謝罪のメッセージを送り続けた。
だが、【CRY】のログインはずっとないままだった。
そして四日目の夕方。
そんな中でなんと新規のイベントトピが立った……のを見つけたのはアッツ。
直接俺へ電話がかかってきた。
「アッツか? 昨日は呑み過ぎたな」
「ああ、泊めてくれてありがとよってそれどこじゃないんだよ。お前見てないだろ、うす怖の新着イベ!」
すごいテンションだった。
「ま、待てよ。いま仕事終わったばかりで……電話中はブラウザ開けないし」
「じゃあとりあえず見ろ。それから電話しろ」
なんだってんだよ……とか思いつつも、心の底では【CRY】が戻ってきてくれたのならいいな、なんて考えていた。
ログインすると……新着イベント……「オフ会リベンジ」……これって……トピ主の【CRY】の字に、またしても泣きそうになる。今度は嬉し泣きだ。
是非とも謝りたい、と参加をポチろうとした……が……何か変だ。
開催日は……今日? 待合せ場所が「ホルモン蔵々」で待合せ時間が……20時。こないだのオフの終了時間。二次会終了後イメージ?
つーかあと30分ちょいくらいじゃんか。
ちょっとお洒落かもと思った己の浅はかさを、イベントトピへの書き込みを見てすぐに反省することに。
イベントの最初の書き込みは、あのオフで唯一の夫婦参加だった【紫苑】さんと【エロいい鼻毛】さんとが相次いで。
「本物のCRYさん?」
「もし悪戯ならやめて下さい」
管理人の【有りそうデュボア】さんも続けて書き込んでいた。
「こちらのCRYさんと同じ方かどうかはわかりませんが、あちらのCRYさんはまだログインないままですね」
こっち? ……あっち? え?
俺はまずあの【CRY】のページに飛ぶ。ログイン3日以上前のまま。次にトピ主であるこっちの【CRY】のプロフに飛んでみた。
【CRY】……同じ名前だ。そしてプロフ欄には文字数いっぱいまで「寂しい寂しい寂しい寂しい」とぎっしり。
寒気がした。うすら寒いなんてもんじゃない。携帯アンテナに例えたらバリ7くらい。慌ててアッツへ電話した。
「お……おい」
「やっと見たか……あれヤバいぜ。寂しい寂しいってやつ、コピペじゃなさそうだし」
「え?」
「時々打ち間違えているんだよ。ローマ字入力っぽいな。あれメモ帳にコピってその間違えのとこで改行してみたんだけど、長さがまちまちなんだよ。全部入力したんじゃないかな……単なる悪戯には思えないんだよ」
変なとこで細かいやつだ。
だけど、それを聞いてますます気持ちが強く固まった。
「……なぁ、あのイベ行ってみないか?」




